はじめに
アルネ・スロット推しとして、昨年のリヴァプールのいきなりのリーグ戦制覇は、嬉しさとともに驚きもあった。初年度からここまでの結果を残すとは夢にも思っていなかった。
そして、今シーズン。
開幕から劇的な勝利を積み重ねてきたが、劇的な勝利が繰り返され続けることはなかった。それはそうだろう。優勝するチームに訪れる「不思議な勝利」も流石に開幕戦から終了まで続くことは、現実的ではない。
というわけで、4連敗。その後に2連勝をする。アルネ・スロット曰く、別に問題が解決したわけじゃないよ!といたって冷静のようだった。そして迎えるはマンチェスター・シティ。
今季のマンチェスター・シティはグアルディオラがやり方を変えたと話題になっていた。どのように変えたのか楽しみにこの試合を見たのだけど、何を変えたのかよくわからなかった。
正確に言えば、グアルディオラという思想の範疇での変更は想定内なのだ。グアルディオラの台頭とともに、そのおこぼれに預かるかのように「らいかーると」は成長してきたと思う。
たぶん、僕にとって今季のグアルディオラの変化は「想定の範囲内」であり、思想の根本からいじくり回すなんてこともなく、今までのグアルディオラがそこにいた。そんな試合を振り返っていくが、どうみてもマンチェスター・シティの試合になってしまっていた。
席と空席
タイルというべきか、パネルというべきか、埋めるべきエリアというべきか。
サッカーは11人で行うスポーツだ。足りない毛布と言われているが、それぞれの選手のプレーエリア、立つ場所はなんとなく規定されている。プレーモデルがない!と言われているチームでも、それくらいの約束事は備わっているものだろう。
「お前の席ねえからっ!!!!」という名言を、今でも覚えている。そのドラマを見ていないのに、そのセリフを覚えているのだから、凄まじい破壊力を伴ったセリフだったのではないだろうか。
サッカーにおける席は「11」に規定されている。普通に考えればそうだろう。「11」の席をみんなで争い、争いに敗れた選手はベンチに座ることになる定めとなる。
でも、実際の試合の席は「11」以上あるようにチームを設計しているのがグアルディオラであった。
5レーンアタックを簡単に説明すると、5レーンに人を過不足ならべ、5トップのような形で相手のゴールに迫る策となる。この5レーンアタックに「空白のレーン」という概念を最初に持ち出したのは誰か。残念ながら覚えていない。
しかし、マンチェスター・シティやアルネ・スロットに率いられたフェイエノールトは、この「空白のレーン」を上手く使っていた。5レーンアタックを止めるために5バックで迎え撃つ定跡は今でも機能している。でも、空白のレーンがあったとすると、相手は空白のレーンをスルーすることができるか?となると、、できない。
条件としては、「ゼロトップ」に似ている。相手が捨てられないエリアの選手がどこかに消えてしまう。「ゴールを守る」を前提とする局面において、相手がいないからといってゴール前から離れる判断は困難極まりない。そういう意味で、「空白のレーン」は「ゼロトップ」に少し似ている。
「空いた席には誰が座っても良い」
「空いた席は空いたままでも良い」
「席を移動した選手は別の席に座れば良い」
さて、問題です。
準備されていた「11」の席以外に、どれくらい席が用意されているでしょうか。この試合のマンチェスター・シティは「空席」の準備と「席替え」がべらぼうにうまくなっている。今季のマンチェスター・シティがそうであるかは、そこまで試合を見ていないので断言はできない。
この試合のキーマンは、ベルナルド・シウバであった。どの席でも同じクオリティーでプレーできるベルナルド・シウバは、この試合で多くの席でプレーすることに成功している。セントラルハーフとして、インサイドハーフとして、トップ下として、右ウイングとしてと「席」を自由に移動していた。
ベルナルド・シウバの空けた席には、フォーデンが移動してきていた。この試合では「内側の席」に移動する傾向にあったドクたちの「席替え」にあわせて席の移動が許されたフォーデンは、ベルナルド・シウバの「席替え」の許可を行っていた。
左サイドバックのオライリーは、ドクの席替えを見て、自分の席を決めていた。右サイドバックのマテウス・ヌネスは後方で3バックを重視しながらも、ときどきはウイングとしてプレーしていた。
このように自分たちの立ち位置を「準備されていた席」と「空席」を行ったり来たりすることで、マンチェスター・シティは縦横無尽にピッチを駆け巡った。この流動的なボール保持をゾーンディフェンスで抑え続けることはなかなか難しいだろう。
逆にリバプールは、エキチケが席に迷い、サラーは席替えをしたそうで、ヴィルツの空けた席に誰が座るかも曖昧で、そもそも席があるかどうかも微妙であった。
かみ合わせ論
この試合において、リヴァプールはボール保持でもボール非保持でも、自分たちの準備を披露することはできていなかった。
ボール非保持では【433】でプレッシングをかけるものの、特徴的なウイングの外切りはあっさりと剥がされ、入れ替わり立ち替わり現れる中央のプレーエリアでは守備の基準点の再設定に苦しんでいた。
今までのリヴァプールだったら、「速さ」でかみあわせをごまかしていたかもしれない。「ごまかす」というと、少しネガティブに聞こえるかもしれないが、定跡のひとつだ。前田大然の3トップならば、配置のかみあわせなど意味を持たないことは想像が容易だろう。
マンチェスター・シティのボール保持対リヴァプールのボール非保持は、マンチェスター・シティに軍配が上がる。リヴァプールのボール保持対マンチェスター・シティのボール非保持もマンチェスター・シティに軍配が上がる。
マンチェスター・シティの守備はハイプレで、ゴールキーパーまで寄せる場面も多々見られた。ニコ・ゴンサレスが加勢することで、同数プレッシングを可能とするギミックに支えられている。コナテにボールを持たせてベルナルド・シウバたちが走っていく構造もよく考えられていた。
立ち位置の天才のマクアリスターや、狭いエリアでもどうにかできるグラーフェンベルフも、近くで監視され続けてしまえば流石に厳しくなる。
根性でボールを前進させることができると、マンチェスター・シティは【4141】で自陣からの守備に移行する。今までは撤退守備で完成度の低さを見せていたが、今季は一味違うのかもしれない。前線から最終ラインの距離も近く非常にコンパクトなブロックで対抗していた。
リヴァプールを見ると、相手に脅威を与えていたのはヴィルツくらいであった。ただし、マンチェスター・シティの守備を見れば狭い中央よりもサイドからの攻撃が肝心。でも、ヴィルツがサイドから内側に移動すれば、左サイドは死に体さんになった。
ボールを奪ってからのマンチェスター・シティのカウンターはお見事だった。相手の「裏」にハーランドが走り、「中央」からはフォーデンが指揮をとり、「サイド」からはドクがドリブルで仕掛けてくる三重の仕掛けになっているのだから、たまったものではない。
つまり、ボール保持、ボール非保持、マンチェスター・シティのカウンター発動のかみあわせで圧倒されてしまえば、さすがに厳しいリヴァプール。
最初のPKをママルダシュヴィリを根性で止め、試合を成り立たせたものの、28分にハーランドの当て感でゴールを決められ、前半のロスタイムにはコーナーキックの流れからニコ・ゴンサレスにミドルを決められてしまう。
その前のファンダイクのヘディングゴールが認められていれば!となるが、みんなを悩ませるオフサイドであった。
56分のアルネ・スロットの采配は論理的だった。マンチェスター・シティを攻略するにはまずはサイドから。なので、左サイドにガクポ、ケルケズのコンビで迫り、中央に移動型のラフィーニャをソボスライと組ませることで、中央の席移動とサイドの席固定のバランスが良くなった。
反撃の狼煙をあげたところで、マンチェスター・シティのカウンターが炸裂。オライリーのサポートを得たドクが内側からのカットイン・ミドルで歴史に名を刻みそうな雰囲気を見せて試合はほぼ終了となった。
ひとりごと
アーセナルと比べると、両チームのセットプレーでの得点はべらぼうに少ないらしい。頑張ろうセットプレー。
サラーを大外で使わないために、サイドバックや、時にはヘンダーソンが走ってきたことが懐かしくなる試合でもあった。たぶん、今のリヴァプールのワントップはそれなりに難しい気がする。
サラーをもっと活かすことを考えると、サラーの周りにどのような選手を起用するか。
この試合で言えば、ガクボ登場以降の形のほうがよさげ。

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