はじめに
開幕戦で湘南ベルマーレに殴られて以降、ベンチに送られた荒木を尻目に、首位を駆けている鹿島。チームの完成度としてはまだまだだが、サッカーの結果に直結する攻守におけるゴール前のタレントの差で結果に繋げている印象だ。あとは困ったときのセットプレーがあることも大きい。鬼木監督になって、昨年にブレイクを遂げた師岡と知念がスタメンから外れるとは面白い因果である。
岡山に勝てたことで、ようやくシーズンが始まった感のある浦和。個人的にはがっつりスタメンを固定しているところが気にかかる。国際大会に向けて、過密日程の波に飲まれることはシーズン前からわかっているわけで、ラージグループを作らないと結果がついてこないような。でも、なりふりかまってられない状況なんです!と叫ばれれば、むべなるかな、という気持ちになる。
鹿島アントラーズ対浦和レッズ
試合開始5分は浦和のラッシュが繰り広げられた。序盤のハイライトはサンタナが競り勝ち、松本泰志が抜け出した場面だろうか。最初のゴールキックは安全志向の鹿島だったが、空中戦も跳ね返されると、浦和のゴールに迫りくる速攻の連続にたじたじとなっていく。金子のクロス、安居のシュートと、序盤からやる気満々の浦和に対して、鹿島はゴールキックで繋ぐことを選び、ラッシュを強制的に終了させる道を選んだ。
鹿島のゴールキックからのビルドアップに対して、浦和はハイプレッシングではなく、ミドルプレッシングで対抗する。ボールを持つ柴崎までプレッシングにいかなかったこともあって、この場面の鹿島の配置は柴崎をバックラインに含めた【3142】のようになっていた。フリーの柴崎からのロングスルーパスにレオ・セアラが抜け出し、逆サイドからは鈴木優磨の降りる動きにあわせて裏に飛び出す松村と、鈴木優磨と愉快な仲間達は健在であった。
7分になると、ようやく浦和もスローインからボールを繋ごうと画策するようになる。初手はグスタフソンの見事な持ち出しによって、関根のクロスから金子のシュートに繋がる。ゴールキックで繋ぐ気満々の鹿島だが、4バックのまま行うと、浦和のプレッシングを正面から受け止める形となり、ボールを奪われてサンタナにシュートを打たれていた。
よって、今度は樋口がサリーで3バックに変化する鹿島。柴崎がサイドバックに高い位置を取るように指示をしていたことからも、浦和の【442】に対して、準備された配置の可能性が高い。ただし、鹿島は準備を捨てることも厭わないタイプのチームである。13分にはゴールキックを関根エリアに蹴っ飛ばし鈴木優磨で強襲する作戦を試している。
浦和のプレッシングルール
時間の経過とともに、浦和の守備の狙いが明らかになっていく。基本はミドルプレッシング。チアゴたちは鹿島のセンターバックよりも樋口たちを背中で消す。中央3レーンのライン間やMFとFWの間でボールを受けようとする選手たちをグスタフソンより前の6人によるスペース管理で対抗していた。サイドにボールが出たらサイドエリアの選手でハードワーク、鹿島のセンターバックたちがロングボールを蹴ってくることは割り切って対応しているようだった。
鹿島からすればロングボールを蹴る。相手ボールになったらハイプレッシングに移行。マイボールになったらゴールに迫ると、サイドエリアからの侵入がメインとなれば、必然的にコーナーキックを得る機会が増えていく。流れの中から西川に届く場面はほとんどないけれど、コーナーキックの数だけが増えていったからくりはこんなところにある。ボールを持たされた鹿島のセンターバックは時間とスペースを前列の選手に配ることは苦手だけれど、ロングボールは得意という事実がこの状況に拍車を駆けていた。
配置的優位だけでは優位性を引っ張れるかはわからない
25分にサビオが痛めて給水タイムとなる。給水タイムを経て、浦和の面々はボールを繋ぐことに意思統一を図ったようだった。西川を使いながら鹿島のプレッシングをはがせるかチャレンジの始まり。なお、たまたまかもしれないが、鈴木優磨の炎の三度追いもこのタイミングで起きている。グスタフソンが地味ながら最高のプレーをするなかで、鹿島の課題もはっきりしてくる。
36分に鈴木優磨が根性でボサから奪い返した場面のように鈴木優磨はやはり前から守備をしたそうな事実。そして、ビルドアップ隊が4、フィニッシャー隊が6の関係でセンターバックの運ぶドリブルが必須になり、関川を中心に果敢にチャレンジしているが、効果的でない事実。誰かがビルドアップ隊とフィニッシャー隊をもう少し行ったり来たりができたらいいのだけど。途中で安西がセントラルハーフの位置に移動したように。
終了間際に試合を動かしたのは浦和のロングボールから。西川のロングボールを金子対安西の空中戦になり、関根が抜け出す形へ。フリーの関根のクロスに飛び出す早川はボールにほとんど触れなかったようで、クロスを押し込む松本泰志であった。
前半で感じたことを整理すると、鹿島は珍しく右サイドからの攻撃が目立った。左でつくって右の濃野でトドメをさすのが鹿島のスタイルになりつつあるのだけど、前半に左サイドからのクロスは記憶になく、右サイドからのクロスばかり印象に残っている。サビオを守備で奔走させるとか、ファーサイドの関根を狙うとか様々な意図があったのだろう、多分。
浦和は整理された状態での守備から、相手がスイッチをいれた瞬間の切り替えが早かった。具体的に言うと、このまま前進されたらあかん!というポイントでのプレスバックの努力と根性は異常。グスタフソンと鈴木優磨が揉めた場面が典型的だが、この場面も金子がファウルを辞さない形で止めている。そのためか、セットプレーの機会も多い鹿島だったけれど、こちらは不発であった。
ちなみに前半の鹿島のシュート数は4本で枠内零。でも、コーナーは6本。浦和のシュートは6本で枠内が4。でも、コーナーは2本。こういうの面白いですよね。
相手の構造をどのように破壊するか
後半になると、小池龍太が明らかにブロックの外でボールを受けるように変化している。また、負けている状況からハイプレッシングを匂わせる鹿島の立ち上がりで後半は展開していった。前半の終わりぐらいから3バックはセンターバック+安西で組むようになり、左サイドは鈴木優磨と松村で、セントラルハーフの片方は攻撃参加で攻撃に厚みを加える狙いがあったのだろう。【325】から小池が降りて、樋口が出ていってみたいな。
徐々に浦和を押し込んでいくなかで、浦和もカウンターでフィニッシュまでたどり着く場面が出てくる。金子のカットインからのシュート、サビオの単独でボールを前進させるドリブルからのサンタナのフィニッシュと、守るだけではなく、カウンターがありまっせ!と示したことは非常に良かったのではないかと。
56分鬼木監督が先に動く。知念、チャブリッチ、師岡が登場。柴崎はイエローカードをもらったから交代したのだろう。浦和のカウンターをどうしても止めないといけないときにイエロー持ちをセントラルハーフに使うのは怖い。師岡とチャブリッチの位置を確認しようと試みるが、浦和のカウンターが炸裂し、サンタナにシュートチャンスが訪れるものの、最後は早川でしのいでいく。
チャブリッチが左で、師岡が右と確認できたところで、小池のようにボールを引き取りに来る選手がいなくなったことから前半と同じ問題を抱えるようになった鹿島。60分すぎから鈴木優磨が左サイドで起点を作るようになっていく。関根をチャブリッチと狙い撃ち。66分の濃野がフィニッシュに絡んだ場面はポポビッチから続く鹿島の伝統芸になりつつある。
ショートパスによるビルドアップの出口が見つけられない鹿島からすれば、絶対にボールをキープしてくれるマンの鈴木優磨が左サイドで存在感を高め、鈴木優磨の不在によって中央エリアを広く使えるようになったレオ・セアラが中央で無理矢理に起点になり、左サイドでは師岡が孤独にボールをキープするかと思ったら内側にいた。なんにせよ、力技で徐々に浦和のゴールに迫っていく。
つまるところ、センターバックの運ぶドリブルで時間とスペースを前線の選手に渡していくとか、配置的優位性で得たことを全体に波及させていくのではなく、鈴木優磨、レオ・セアラ、師岡による一点突破から徐々に相手の構造を破壊していくスタイルを重視した采配だったわけである。割り切りが凄い鬼木監督だぜ。ただし、浦和も追加点を決めるチャンスはあったので、ここで我慢のできる鹿島の面々が優秀だったことも間違いない。
残り10分になると、さすがに浦和の面々も疲労があるのだろう。自陣に撤退して残り時間を過ごすように変化していく。逆に鹿島は船橋もいれて元気な状況を継続していた。船橋がバックラインで安西がセントラルハーフへ移動するなど、地味な作業を繰り返す鬼木監督の最後の手はレオ・セアラに代えて徳田である。徳田も元気いっぱいにプレッシングをかけることでチームに貢献を続けている。
さすがに浦和も痛んだサビオ→松尾以外に交代が必要となってくる時間帯。松本から原口、関根から井上となった。鈴木優磨対策として登場した井上だったが、知念が痛んだ関係で鈴木優磨がセントラルハーフになってしまう。やるせない井上。
残り時間も少なく浦和は攻めきるよりも時間を稼ぐことを優先するようになり、試合終了まであとわずか。しかし、与えまくっていたセットプレーの機会を鹿島が最後の最後で活かし、知念が同点ゴールを決めて試合が終了した。
ひとりごと
1列目の仕事量を制限したことで、浦和のプレッシングは基本的には機能していた。一方で関根エリアからピンポイントで攻略していく鈴木優磨の恐ろしさもあわせて実感である。相手の構造を壊せないならば一点突破だぜ!みたいな。
後半も繰り返していたことから関川を中央にする3バックでビルドアップは仕込みなのだろう。ビルドアップ隊をオープンになるように設計し、運ぶドリブルに果敢にチャレンジさせていることは間違いなく正しい。ただし、一点突破が試合の攻略の答えになることから効果的だったというと宿題になるのだろう。
鬼木監督の采配で興味深い点は、ラージグループの形成へのチャレンジを開幕から行っている印象だ。船橋、徳田は必ず試合に出てくるイメージがある。彼らが残り少ない時間でもエンジン全開で取り組むことで、終盤にも強い鹿島が成り立ちつつある。
浦和はチアゴ・サンタナが昨年とは大違い。鹿島のセンターバックを相手にしてもひけを取らないプレーだった。昨年とは当事者意識も違えば、試合に出ることでコンディションも上がってきているのかもしれない。その他で言えば、良い意味で周りに気を使ってプレーしていそうな松本泰志が良かった。結局のところ、サビオに気持ちよくプレーしてもらったほうがチームも勝てるかもしれないからね。
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