レアル・マドリーとバルセロナ、ときどきアトレチコ・マドリーが首位に位置するのが恒例になっているリーガ・エスパニョーラ。しかし、今季はビジャレアルがスタートダッシュに成功。この試合前には3位に位置し、この試合の結果次第では首位にたどり着く可能性のある試合となっています。もちろん、レアル・マドリーやバルセロナの取りこぼしが目立つと同意義な現状ですが、マルセリーノ・ガルシア・トラルに率いられたビジャレアルは、好チームとして昨年も奮闘しています。両チームともに欧州での舞台を戦う上で、怪我人やターンオーバーを実行していますが、勝てば首位になるかもしれない試合ということで、今節のリーガで最も注目すべき試合はどのような内容、結果になったのでしょうか。
■局面における攻防
マルセリーノ・ガルシア・トラルに率いられたビジャレアルは、かつての代名詞であったポゼッションサッカーにこだわりをもたなくなっています。決してネガティブな意味でなく、状況がボールを保持を必要とすれば持つし、状況がそれを必要としないならボールを保持しないという、ポジティブな意味を持ちます。もともとリケルメ以外はひたすらに守備をする、なんて時期もあったビジャレアルにとっては、何かに囚われるなんてことはないのかもしれませんが。
また、マルセリーノ・ガルシア・トラルはシュスター、ペジェグリーニ、ウナイ・エメリ、ファンデ・ラモスがリーガで台頭していた時期にしっかりと結果を残していました。しかし、他のチームに移籍して結果を残せなかったために、いわゆるステップアップコースから外れてしまった印象が強いです。もともと持っているものは非常に高いので、ビジャレアルで結果を残したことで、またステップアップコースに復活したというのが彼の現状になります。ちなみに、マルセリーノ・ガルシア・トラルは相手の弱みを見つけ、あらゆる手段を用いて徹底的に抗戦するスタイルを得意としています。
両チームが首位を目指した試合は、常にボール保持者にプレッシングがかかっているような激しい立ち上がりを見せます。ボール保持者に与えられた時間は少なく、それは周りの選手のタイミングをあわせる時間を奪い、両チームの攻撃の狙い、精度を著しく落とすことに、両チームともが成功していました。両チームの最初の狙いは皮肉にも似たようなもので、あなたたちの好きにはプレーさせる気はまったくないからねというものでした。
両チームのシステムは4-4-2。システム噛みあわせ論からすると、すべての選手の守備の基準点がはっきりします。しかし、それは半分は嘘で半分は本当になります。嘘か本当になるかは、プレッシングの開始ラインによって決定されます。プレッシングの開始ラインがハーフラインくらいに設定されれば、1列目の守備の基準点は相手の中盤になるかもしれません。センターバックがビルドアップに参加しない場合は、この傾向に拍車がかかります。
前述のように、アトレチコ・マドリーは高い位置から常にボール保持者にプレッシングをかける姿勢を見せます。すると、ビジャレアルの2列目の選手たちはセンターバックたちを助けるためにポジションを下げます。このポジションを下げた選手たちに対して、アトレチコ・マドリーの2列目の守備はついていくか、ついていかないかの判断をする必要があります。アトレチコ・マドリーの最初の動きは、ブルーノやトリゲロスたちを捕まえることで、前線のプレッシングに連動するものでした。
このアトレチコ・マドリーの動きを予測していたのか、試合中から判断したのかは定かではありません。ビジャレアルはこの動きによって、アトレチコ・マドリーの3列目と2列目の間にスペースができることをチームで共有できていました。相手陣地で積極的なプレッシングをしかけるアトレチコ・マドリーの1列目と2列目に対して、3列目はそこまで高い位置を取りません。さすがに3列目までが相手陣地でプレーする(プレッシングの局面)はやりすぎだと考えたでしょう。
そのスペースを利用するのはレオ。レオが相手の2列目と3列目の間のスペースに落ちてプレーすることで、ビジャレアルは相手のプレッシングを回避することに成功していました。また、その局面にいたるまで、最初は徹底的な外外のビルドアップを行うことで、相手のサイドハーフに外を意識させることで、ポジショニングを外よりにするという入念な罠をはっていたことも見逃せません。最初は外。相手が外に対応したら中。中に対応したら外。この繰り返しでビジャレアルはアトレチコ・マドリーのプレッシングに効果的に対応していくようになります。
本来のアトレチコ・マドリーならば、4-5-1に変更して中も外も抑えるのがパターンになります。しかし、ビジャレアルをなめたのか、それでもどうにかなると考えたのかはわかりません。4-4-2のまま守備を実行しました。
ビジャレアルがボールを保持しているときのアトレチコ・マドリーの守備はゆっくりと相手に主導権を与えていってしまう展開となりました。では、この局面が逆になるとどうなるか。アトレチコ・マドリーはボール保持でもビジャレアルの守備に苦しみます。ボール保持のこだわりをすてたビジャレアルはプレッシングもかなりレベルが高くなっています。アトレチコ・マドリーはサイドバックの裏、特にジャウメ・コスタサイドに前線の選手を流れさせるなどの動きを見せますが、決して効果的ではありませんでした。
この現象は試合を通じて、ずっと変わりませんでしたが、アトレチコ・マドリーのボール保持はビジャレアルを崩すことはできませんでした。個で相手のマークを外し、相手の隙間でボールを受ける場面は何度か観られましたが、チームで相手の形を操作し、パスコースやスペースを創出することはできていませんでした。それでも、長所である守備からのカウンターがあるアトレチコ・マドリーですが、前述のようにビジャレアルのポゼッションの前に苦しんでいたので、それも封じられた格好となります。
先制点はビジャレアルに生まれます。ポゼッションではなく守備から。相手の攻撃の精度を落とし、ボールを奪うと、一発の縦パスで全てが決まります。ドルトムントが示したように、相手の守備が整っていないときに素早い攻撃を仕掛けることで得点が生まれました。自分たちの攻撃で相手を分断することは大切ですが、ボールを奪ったときに相手の守備が整っていないときに攻撃を仕掛けることの大切さがこの場面からもわかります。
先制されたことで、アトレチコ・マドリーも攻撃の意識を高めてきます。自力で勝るアトレチコ・マドリーが徐々にボールを保持して前線の選手のプレー機会を増やしていきますが、ビジャレアルの迎え撃つ4-4-2の前に相手の守備を分断できない形が続いていきます。望みのカウンターもアトレチコ・マドリーがボールを奪えない形が続いていました。こうなると、あとはセットプレー頼みになるのですが、ロングスローやコーナーキックからも特にチャンスはつかめませんでした。
前半がビジャレアルのペースだったとすると、後半はアトレチコ・マドリーが流れを取り返す展開となります。後半の頭から、アトレチコ・マドリーはトーレス、ピエットを投入。前線の選手を入れかえ、サウールをティアゴと、グリーズマンを左サイドハーフに配置します。ビジャレアルはレオが恐らく怪我でナウエルが登場します。
前半のアトレチコ・マドリーはレオの落ちる動きに苦しみます。ティアゴが3列目の選手たちにプレッシングについてこいと合図しますが、現実的ではないと判断したのでしょう。ガビが前、ティアゴが後ろに残ることで、レオの落ちる動きに対応しました。しかし、そうなると、ビジャレアルのビルドアップ隊に対して数的不利状態となります。前線の選手は突撃がデフォルトなので、トリゲロス、そしてブルーノの落ちる動きに対して後手後手になる展開でした。
この状況がアトレチコ・マドリーにとっては悪です。ボールを奪えないし、相手に攻撃を許してしまう。この現象の根源はレオの落ちる動きです。状況は負けている。となれば、答えは1つで、3列目も勇気をもって連動するでした。アトレチコ・マドリーはハーフタイムに3列目に勇気を持たせることで、ビジャレアルの良かった部分を消すことに成功します。ビジャレアルにとって不運だったのは、レオが交代してナウエルになったこと。ナウエルにこの動きは荷が重かったのは事実でしょう。相手に対策され、しかも、その動きをするのが得意でない選手とくれば、一気に状況は変化します。
ソルダードのヘルプ有りと、いろいろしかけるビジャレアルでしたが、アトレチコ・マドリーの攻撃を迎え撃つ展開が増えていきます。とにかくカウンターはくらわないように。守備が整っていないときに攻撃を受けないように。ビジャレアルはさっさと自陣に撤退することで、アトレチコ・マドリーにチャンスを与えません。アトレチコ・マドリーはサイドバックのインナーラップや相手のセンターバックとサイドバックの間のエリアを強襲しますが、相手のペナルティエリアに侵入する場面は数えるほどでした。そして、おまえは誰だのアレオラが止めます。スーパーセーブがあったわけではありませんが、そつなくこなしていました。時間稼ぎも含めて。
ビジャレアルは選手を交代しながら守備の強度を維持し、アトレチコ・マドリーは早々に交代枠を使いきってFW登録の選手をずらり並べます。しかし、前半に見られた問題である個人で相手を剥がすことはあれど、チームでの狙いを効果的にするための動きが見えませんでした。相手のサイドバックとセンターバックの間を狙うならば、サイドバックをサイドの誘導する仕掛けとか。ビジャレアルは落ちる動きを封じられると、外外にすぐに切り替えます。しかし、相手に狙われるので、サイドハーフは落ちたり、裏を狙ったりと簡単には捕まらないような仕掛けがありました。
それでも自力で勝るチームは最後に得点を奪っていくケースが多いのですが、この試合ではなし。ビジャレアルが守りきりに成功し、バルサ、レアル・マドリーも躓いたので、まさかの首位にビジャレアルが上り詰める結果となりました。
■気になった選手
ムサッキオが怪我のなかで、エリック・ベイリーがかなり目立っていた。守備ではフィジカルも強く、ビルドアップでも貢献できるハイブリッド。ちなみに、国籍はコートジボワール。でも、ユースのときに育成で定評のあるエスパニョールに加入。そして、ビジャレアルに引きぬかれた模様。ビジャレアルのセンターバックといえば、アーセナルに率いられてジエゴ・コスタと一悶着あった選手の印象が強いが、次から次へと逸材が出てくるのはフロントが優秀なのだろう。
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