さて、今回は第二節から、マンチェスター・シティ対エバートンの試合を振り返っていく。
開幕戦でブライトンに勝利したマンチェスター・シティ。開幕戦からの修正は、ダニーロ→サネ。大外で時間とスペースを得られるけど、そのエリアに誰を置くかは大切だ。だからといって、試合開始からウイングバックにサネを使ってくるのは博打的な要素が強い印象を受ける。だが、昨シーズンもウイングバックにサネは、たまにやっていた。さらに、ボール保持で相手の攻撃機会を削るから、サネはそんなに守備の穴にはならないよ、ボール保持でのメリットのほうが大きいよ、という計算は、非常によくわかる。
対するは、ルーニーのゴールで開幕戦に勝利したエバートン。昨シーズンは7位。もともとは5位が定位置だった時代(モイーズだよね?!)の印象が強い。つまり、今の目標は、プレミア・リーグに君臨するビッククラブより上の順位にいけるかどうか。そのための補強はしっかりと行った。ルカクはマンチェスター・ユナイテッドの移籍したけれど、ルーニーを筆頭に、実力者&下部組織からの優秀な若手もズラリ。言い訳はできなそうなスカッドが揃っている。下手したら、アーセナルよりも選手層は厚いかもしれない。ごめん、アーセナル。注目はルーウィン。先日のU20ワールドカップで結果を残したらしい。そんな若手が出場機会を得ていけば、イングランド代表の未来も明るそうである。
なお、この両チームの対決が注目される理由は、グアルディオラ対クーマンという側面もある。バルセロナ時代の元チームメイト対決だ。しかも、仲も良いらしい。そして、この試合では両監督の準備、采配がぶつかり合う試合となった。そんな試合の流れをつぶさに見分していく。
クーマンの準備はマンマーク大作戦
4-4-2を破壊する上で、3-1-4-2は非常に配置的な優位性に恵まれている。開幕戦のブライトンに配置の変化がなかったとは言わない(4バックから6バック)が、基本は4バックの配置をいじらなかった。マンチェスター・シティの3-1-4-2の配置と選手の特徴を考慮して、クーマン監督はしっかりと準備を行ってきた。
最初のプレッシング隊は、ルーウィン、ルーニー、デイビス。マンチェスター・シティのビルドアップ隊がエデルソンを入れると、5名(3バック+アンカー)になる。よって、無理はしない。ルーウィンがストーンズのマークについて、デイビスとルーニーは中央に絞ることで、フェルナンジーニョへのパスコースを制限する。その代わりに、コンパニとオタメンディに時間と空間を与えることになるが、このエリアは捨てていた。序盤から相手陣地へ侵入していき、ミドルシュートを2回打ったオタメンディのプレーの背景にはこんな事情がある。なお、両脇のセンターバックが自由であったことは、開幕戦から続いて、同じ現象だ。
大外では時間を得られるかなと考えたマンチェスター・シティだったが、5バックで構えるエバートンとウイングバック同士のガチンコバトルとなった。よって、サネ、ウォーカーには対面のウイングバックが控えていたので、時間と空間を得ることはできなかった。それでもサネならなんとかしてくれると考えたかもしれないが、売り出し中のホルゲートとのマッチアップに苦しんだ。さらに、ファウルスローを2回と、そして、バックパスミスから失点に絡むなどなど、サネにとっては散々な試合になってしまっていた。
最も特徴的だったのが、ゲイエとシュナイデルランのセントラルハーフコンビの役割だ。マンチェスター・シティの肝であるインサイドハーフコンビ(シルバ、デ・ブライネ)をマンマークで対応する。シルバとデ・ブライネがどこまで移動しても、どこまでもついていく。この対応にデ・ブライネ、シルバは非常に苦労する。開幕戦では相手のブロックの外に出て、ボールを受けてと、自分で試合のリズムに入っていけそうだったが、今回はその位置にルーニーとでデイビスがいるという算段になっている。このコンビを消せば、どうにかなるだろう、というエバートンの計算になっている。
マンマーク大作戦に対抗するカルテットコンビ
インサイドハーフ(シルバとデ・ブライネ)がサイドに流れると、マンマークのセントラルハーフ(シュナイデルランとゲイエ)もサイドに流れてきた。本当にどこまでもマンマークを愚直に行ってきた。インサイドハーフがサイドに移動し、相手のセントラルハーフを動かして、ゼロトップ発動は、マンチェスター・シティの得意技、というか、どのチームもやっている定跡である。よって、ジョズスとアグエロにビルドアップ隊からボールが入る場面が多く見られた。このエリアも3バックによる迎撃(エリアを下っていくアグエロたちを捕まえる)で対応する計算になっていたエバートンだが、さすがにどこまでもついていくわけにはいかない。よって、2トップを起点にマンチェスター・シティが相手を押し込んでプレーする時間が増えていった。この中央のカルテット(アグエロ、ジョズス、デ・ブライネ、シルバ)たちは、縦のポジションチェンジでマークをずらす、または裏へ飛び出す動きを意識的にしている。もちろん、単体でも行う。シルバがポストに直撃させたような場面をグアルディオラは増やしたがっているように見える。
エバートンのトランジションアタック
デイビスとルーニーも、ときには中央の空いてしまうエリアを埋めることもあった。だが、彼らのポジショニングを見ていると、トランジションでマンチェスター・シティのポジショニングを壊そうとしているのかと感じた。しかし、その予想は全く当たらず、エバートンのカウンターは、オタメンディの裏にルーウィンが走る一択であった。そして、デイビスとルーニーがゴール前に飛び出してくる。単純明快なのだが、この形が非常に機能していた。ルーウィンがえげつない。サイドに流れてチャンスメイク良し、中央でポストプレーもできる、単独の裏抜けもいとわないと将来が楽しみな選手であった。
さらに、配置的な優位からみると、サネを守備で奔走させることができる。オタメンディとともにボール非保持で撤退しなければいけない状況を作れば、サネの良さを消すことができる。そんなサネのバックパスミスからエバートンが先制するのだから、計算通りは言いすぎだが、サネにとってはきっつい試合になってしまった。なお、この得点の直前に、オタメンディとコンパニの位置を入れ換えているマンチェスター・シティ。恐らく、ルーウィン対策だろう。それだけ、ルーウィンに手を焼いていたのだと思う。なお、43分にはウォーカーが退場してしまい、ビハインド&10人で後半を迎えることになったマンチェスター・シティであった。
悩めるエバートン
大外にスターリングとサネを配置したグアルディオラ。枚数が足りないのだから、質的優位で優位性を引っ張ってくるしかないだろうという計算だ。エバートンからすれば、相手の枚数が減ったこともあって、前半のリピートを繰り返していけばいい。しかし、ルーウィンにボールを蹴っ飛ばしていた前半から、急におれたちはボールを保持します!というマインドチェンジは、なかなか困難な作業だ。さらに、エバートンのビルドアップに対して、11人のときは2トップ+インサイドハーフ、10人のときは1トップ+2インサイドハーフで、プレッシングを行うマンチェスター・シティ。エバートンの3バックに対して、同数でプレッシングを行う。ボールを奪う、または蹴らせるマンチェスター・シティの狙いが見て取ることができた。
でも、相手は10人なんやで!となる。だったら、前からボールを奪いにいってみようと、前線の3枚がプレッシングをかけ始める。しかし、図のように、このエリアの位置、枚数に変更はない。よって、マンチェスター・シティの前進を食い止めることはなかなかできなかった。さらに、エバートンのセントラルハーフコンビも、プレッシングに連動するのか、デ・ブライネたちへのマンマークを継続するのか、どっちやねんとなる。ビルドアップ隊が怪しくなれば、シルバとデ・ブライネはポジションを下げる。エバートンのセントラルハーフがついていけば、前半に見せていたような撤退守備(3ラインの縦圧縮)は、相手陣地からのプレッシングによって、不可能となる。つまり、相手が10人なんだから、相手陣地からのプレッシングだ!という姿勢が、ゆっくりとエバートンを苦しめることになっていった。
クーマンの采配
60分にウィリアムズ→クラーセン。デイビス→シグルズソン。システムを4-2-3-1に変更する。1人多いのだから、相手のビルドアップ隊に同数プレッシングを行っても、アグエロ周りでは数的優位になっている。さらに、ボールを保持しているときに強さを見せてくれそうなコンビをピッチに送り込むことで、マンチェスター・シティからボールを取り上げようと画策した。非常に論理的な采配だったが、グアルディオラは嬉しかったかもしれない。エバートンの相手陣地からのプレッシングは確かに機能していなかったが、マンチェスター・シティの攻撃もかなりどん詰まり状態であった。誰かが根性で相手をはがさないと始まらないみたいな。でも、相手が形をかえてきてくれたことで、グアルディオラも一気に盤面を動かしにかかる。
グアルディオラの采配
つまり、相手が3トップでがんがんプレッシングに来るなら、4バックでプレッシング回避しますよ。そして、えぐかったのが中央の4枚。デ・ブライネがアンカーで、スターリングたちは中央でわちゃわちゃする感じである。でも、このわちゃわちゃが数の優位性をもたらすことに繋がっていた。エバートンからすると、プレッシングははらまない&相手の中央で数的優位を作られている状況となる。サイドハーフ&サイドバックの守備の基準点をなくすことで、他のエリアで優位性を得るというのは、定跡とも言える。
この形になってからは、マンチェスター・シティが相手を押し込んで試合を展開する時間が増えていった。なぜかダニーロが絶好調だったのには笑った。そして、シュートの雨あられをエバートンに浴びせ、最終的にはダニーロのクロスのクリアミスをスターリングがボレーで同点ゴールとなる。はっきり言って、もう1点くらい入ってのおかしくないくらいの猛攻を見せたが、昨年から続くなかなか決定機がゴールに繋がらないのは、今季もおなじみのようだ。ただ、10人になってから同点に追いついたわけで、十分に結果を残したと言っても良いのだろうけど。
ひとりごと
エバートンは動く必要がなかったのだけど、確かにボールをずっと相手に与えてしまうと、何かが起きるかもしれない。だったら、その可能性を減らそうね、という意味で、相手陣地からのプレッシングやボール保持に適した選手を交代で入れたのは論理的だった。しかし、システム変更が相手に隙を与えた格好となってしまった。また、マンマークからゾーン・ディフェンス、カウンター一辺倒からボール保持などなど、試合中のスタイルの変更ってやっぱり難しいのだなとエバートンの振る舞いから感じさせられた。もともとボール保持できそうな気配もなかったのだけども。
マンチェスター・シティは、イレギュラーな状況からよく追いついた。今季の3-1-4-2から4バックに戻しての同点劇だったので、色々なパターンが増えてくるかもしれない。それにしても、デ・ブライネがえぐい。ブンデスリーガではトランジションマシーン&大外からのアイソレーションで違いを見せる選手だったと記憶していたが、今ではなんでもできる。この試合でもアンカーを普通にこなしていた。色々なポジションを世界屈指のレベルで両立させてしまうので、末恐ろしい化物になりそうである。もうなっているか。
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