複数の守備の基準点は未来になるかどうか【ユベントス対アヤックス】

マッチレポ1819×チャンピオンズリーグ

ファーストレグは1-1で引き分け。アウェイゴールの関係でスコアレスドローならユベントスが勝ち抜け。よって、アウェイゴールを決めれば、アヤックスは一気に優勢になる。

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、デ・シリオ、アレックス・サンドロ、ボヌッチ、ルガーニ、ピアニッチ、エムレ・ジャン、マテュイディ、ベルナルデスキ、ディバラ、クリスチャーノ・ロナウド。

ファーストレグではアヤックスのボール保持攻撃にたじたじになってしまっていたユベントス。スコアレスドローなら勝ち抜けという条件を考えても、どのようにアヤックスのボール保持に対抗するかは注目だ。

アヤックスのスタメンは、オナナ、フェルトマン、デ・リフト、ブリント、マズラウイ、デ・ヨング、シェーネ、ファン・デ・ベーク、ジエク、タディッチ、ネレス。不動のメンバーの気がする。

ファーストレグでは自分たちらしいサッカーでユベントスのゴールに迫りまくったので、特に何をどうこうという修正ポイントはない。繰り返し続けるだけ。

アッレグリのアヤックス封じ

ファーストレグでは、フルボッコにされたユベントス。実はアトレチコ・マドリーとのファーストレグでも超苦戦していた。蓋を開けてみないと、わからないタイプなのかもしれない。しかし、セカンドレグできっちり問題の修正をできるところが、アッレグリの優秀さの証明になっているのだろう。

さて、今季のアヤックスの長所はボール保持攻撃にある。特に自陣から時間とスペースを貯金しながら、それをゴール前までに届けていけるところが最大の長所と言っていいだろう。むろん、途中でボールを奪い返しての前進からの攻撃も同じように得意だが、再現性、という意味では、オナナから始める攻撃でもいけちゃいます、というところが本当にすごい。

ボールを保持するチームを相手にどのように振る舞うべきか。王道は相手にボールを持たせないようなプレッシングと自分たちでボールを保持することと、ボールを奪われる場所、奪われ方をある程度は計算されたものにする必要がある。この3点を同時に行えば、良い。行えればよいが、簡単にはできない。しかし、アッレグリは砕けない。流石である。

プレッシングの配置

アヤックスのビルドアップは、オナナ、センターバック、デ・ヨングで行われる。困ったときはシェーネがサポートにくる仕組みになっている。いわゆるオナナを軸としたひし形ビルドアップである。

ひし形ビルドアップに対して、というよりは、2枚のセンターバックとアンカーに対して、もっとも時間を与えない配置は、2枚のフォワードとトップ下となる。よって、ユベントスは、ディバラ、クリスチャーノ・ロナウドを相手のセンターバックへ、エムレ・ジャン(まれにピアニッチ)をトップ下に配置することで、アヤックスにあわせたプレッシングを行った。

特にデ・ヨングに対するマークは厳し目に行われていた。最初にディバラがついて、エムレ・ジャンたちが間に合うようだったら、マークを受け渡すみたいな。グアルディオラも好んで使う配置になっているが、配置と数によって優位性を得ようとする形に対して、4-4-2のひし形は理にかなっている。なお、マインツ時代のトーマス・トゥヘルが好んで使っていた配置のリサイクルと言えるかもしれないし、あのときとは意味合いが違うかもしれない。

大事なことは、同数プレッシングによって、相手に時間と与えない配置とオナナまで寄せるプレッシング(特にエムレ・ジャン)で、アヤックスにまったりとボールをもたせる時間と思考する隙間を与えないようにするユベントスのプレッシングだった。アヤックスも困ったときのロングボールをタディッチに放り込むが、今日は負けないユベントスのセンターバックたちであった。

複数の守備の基準点

ビルドアップの整理によって、多くのチームがボールを保持することができるようになってきている。そして、そのビルドアップで得られる優位性を消すために同数プレッシングが生み出された。その対策として、エデルソンやアリソンといった、同数プレッシングの代償となる前線の同数エリアでの勝負が行われる時代が訪れてきている。

じゃ、あれだね、やっぱり相手のセンターフォワード付近は数的優位で配置するという本来の原則に忠実になろうとねと。それをやらなければ、広いエリアでしかも同数で、マンチェスター・シティやリヴァプールの前線の選手と殴り合わなければいけなくなってしまう。ファン・ダイクでもいなければ、できない芸当だろう。

だったら、相手にボールを持たせること、ビルドアップの阻害は難しいのか?となる。その答えが、複数の守備の基準点を受け入れることになる。特定の選手に負荷がかかる形は好きではないのだが、四の五の言わずにやるしかない状況だ。やらなければ、相手に効果的な前進を許してしまうことになる。

ユベントスのプレッシングの配置を思い出してみると、4-4-2のひし形だ。このときに複数の守備の基準点を抱えている選手はインサイドハーフの選手となる。ベルナルデスキとマテュイディだ。マテュイディは相手のサイドバックとインサイドハーフの選手の中間ポジションをとり、パスを受ける選手に猛烈に寄せていく。フランス代表でもおなじみの景色だろう。

この役割を行っている代表例がリヴァプールのインサイドハーフとウイングだ。マテュイディの役割をミルナーは行っている。そして、リヴァプールのウイングの選手は、サイドバックのパスコースを切りながら、相手のセンターバックにプレッシングを行う。サイドバックにボールが入ったときはなるべく寄せる、という決まりごとになっている。

複数の守備の基準点を受け入れることで、同数プレッシングを行いながら、後方での数的優位を実現している。ただし、疲れる。サラーよりはマネのほうがボールを奪っていることはデータとしても残っていた。さらに、インサイドハーフにもミルナーやマテュイディのような走る走る俺たちでなければ、片道燃料で試合に臨むことになるだろう。

ただ、リヴァプールのスリーセンターだったり、この試合で言えば、プレッシングのためにトップ下に移動していたのがエムレ・ジャンということを考えると、スプリントを速く何度もできる選手が中盤に君臨していく未来になっていく可能性は高い。気持ちで走りまくるみたいな。複数の守備の基準点を実現できるマテュイディによって、ユベントスはプレッシングを完成させていた。

ユベントスのボール保持

アヤックスのプレッシングは、リヴァプールの形に前線だけ似ている。似ているだけなので、弱点は同じ。センターフォワードとウイングの間をパスラインにすることが大切になってくる。なお、アヤックスはウイングとサイドバックの間に広いエリアができることが多い。

なので、ユベントスはサイドバックをビルドアップの逃げ場として活用。もしくは、さっさとロングボールを放り込んで速攻を中心に攻撃を仕掛けた。特にクリスチャーノ・ロナウドがいる左サイドからの攻撃が目立っていた。または、はやめのクロスである。

その心は、ショートパスによる前進だと、奪われたら一気にボールを運ばれてしまう。これは避けるべきだ。失うとしても、相手の陣地の深い位置を希望。だったら、速攻でどんどん放り込んだほうが良い。そして、サイドに時間とスペースがあるなら、どんどんサイドから運んでいこうと。このふたつの攻撃方法によって、ユベントスはボールを危険な位置で失うことなく、攻撃を地味に完結させていった。

モイーズ・キーンはしくじったのか?

序盤からユベントスの策略にはまったアヤックスは、いわゆる自分たちらしい試合をすることができないまま時間が過ぎていった。オナナから始まるゴールキックも蹴らされるばかりで、攻撃の再構築もできないまま、時間が過ぎていった。

最初に動いたのはデ・ヨング。サリーを実行し、センターバックにボールを運べせることに成功する場面がちらほら出てくる。ここで攻撃の再構築、なんておしゃれなこともできればよかったが、ユベントスの待ち構える守備に激突する。アヤックスはサイドチェンジをほとんど行わないので、サイドにスライドする4-3系の配置でも意外に守れるという計算になっていた。

それでも25分過ぎからようやくアヤックスの時間になるかと思ったが、ここでユベントスがコーナーキックからクリスチャーノ・ロナウドが決める。役者は違う。このゴールでユベントスは息を吹き返すが、事故のような失点をしてしまう。ファン・デ・ベークはこのようなゴールが多い印象だ。ほとんどフォワードである。

突然の失点に面食らいながらも、ユベントスは前半を狙い通りに過ごすことに成功する。アヤックスはボールを奪ってからの前進ではらしさを出していたが、サイド起点とロングボールによって、カウンターに繋がるようなボールの奪い方ができずに、苦戦していた。

後半になると、ディバラが負傷したので、モイーズ・キーンが登場する。モイーズ・キーンは、ディバラほどにデ・ヨングに気を使わなかったのは事実だが、それが致命傷になりそうな気配はありそうでないようでなんとも言えない。はっきりしていることは、モイーズ・キーンが登場し、デ・ヨングのマークをしなかったから、アヤックスのボール保持が始まった、なんてことはない、ということだ。

後半もユベントスは試合のペースを握りながら試合を進めていたが、攻め残りからのカウンターに勝負をかけるようになったアヤックスにちょっと苦しめられるようになる。アヤックスもこの試合はボール保持ではなさそうだな、と割り切った印象。たぶん、スタッツ的にはボール保持率もパス数も似たようなものなのではないかと思う。

ボールを保持するときのユベントスはエムレ・ジャンを下ろし、カンセロにピンポイントクロスを期待するようになる。突然の右サイド攻撃、というところが面白い。しかし、カンセロが登場してからすぐにコーナーキックからデ・リフトがヘディングを決める。アウェイゴールの関係で、このゴールの持つ意味ははてしなかった。

よって、このあとはアヤックスの時間帯がとうとう訪れる。リスクを冒すユベントスに対して、正面衝突なら負けないとばかりにアヤックスがらしさを発揮。ハンドがとられていたならどうなったかわからないけれど、アヤックスがそのまま逃げ切りに成功した。

ひとりごと

アッレグリの采配、試合の過ごし方はアヤックスにとってかなりめんどうなものだったに違いない。アヤックスの試合はどんな試合を見ても、アヤックスのボール保持はえぐい!という印象を受けるのだけど、この試合は異なる様相だった。流石である。でも、負けちゃったけれど。

ただ、面白いのは単純な重さとか、何度も走れるとか、そういったもので、アヤックスの積み重ねようとするものが無効化されることがある、というのは、ボール保持対策としてはありなんだろうなと感じさせる趣深い試合であった。

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