柏レイソルのスタメンは、中村、鎌田、中谷、中山、山中、茨田、小林、伊東、武富、オリベイラ、中川。結果と内容の両立が整ってきた柏レイソル。このタイミングでのネルシーニョ監督の率いるチームと対決という巡り合わせは、運命を感じさせる。なお、下平監督とネルシーニョ監督の対決は、天皇杯の柏レイソル対柏レイソルユースのときに実現しているらしい。
ヴィッセル神戸のスタメンは、キムスンギュ、高橋、岩波、伊野波、相馬、三原、前田、藤田、渡邉千真、ペドロ・ジュニオール、レアンドロ。昨シーズンから躍進を期待されていたネルシーニョのヴィッセル神戸。しかし、現有戦力の最適解と、ネルシーニョのプレー原理の浸透に時間がかかった様子。今季は調子を上げてきているので、今季こそ台風の目として暴れまわることができるか、注目を集めている。
ネルシーニョの柏レイソル対策
ヴィッセル神戸の本来のシステムは、4-4-2。しかし、この試合では4-3-3で試合に臨んだ。その狙いは、柏レイソルのボール保持の精度を落とすことにあった。柏レイソルのビルドアップは、3バック(中山、中谷、鎌田)に2セントラルハーフ(茨田、小林)を並べることを特徴としている。なお、今季のバイエルンも似た形を採用している。ちなみに、柏レイソルの守備の仕組み(4-4-2に変化する)もバイエルンに似ている。多少はバイエルンを参考にしているのかもしれない。肝は2セントラルハーフ。3バックの前にシャビ・アロンソでは、シャビ・アロンソが狙われてしまう。しかし、隣にラームがいれば、相手のプレッシングにかける枚数に混乱が出る。さすがに、中央のビルドアップ隊だけに5枚(3バックと2セントラルハーフ)をかけてくるチームは少ない。
ヴィッセル神戸の4-3-3の狙いは、3バックと2セントラルハーフに数的同数でプレッシングを行なうためだった。いわゆるセオリーに反する動きをすることで、相手の意表をつく作戦となる。数的優位、または相手のシステムを噛みあわせないためのシステム変換を行ってきた柏レイソルだが、ヴィッセル神戸はその上を行った。なお、世界中で流行した3バックによるビルドアップへの対策として4-3-3による対応は、ドルトムントのクロップを筆頭に多く行われてきたセオリーとも言える。ただし、3バックの前に2セントラルハーフを並べる形は、あまりないので、クロップの行った対策と似ているがちょっと違う。
思い切ったネルシーニョの采配の前に、柏レイソルはボールを保持して試合を展開していくことが、できなくなっていった。すべてのエリアが数的同数ならば、自陣のゴールから一番遠い位置でプレーするか、質的優位エリアでのプレー機会を増やすことが定跡だ。よって、柏レイソルは、オリベイラへの放り込みが増えていった。ヴィッセル神戸からすると、前からプレッシングに行っている関係で、センターバックを幅広く動かしてオリベイラに対応するしかなくなる。伊野波対オリベイラは各地で行われたが、オリベイラがファウルをもらえることで、柏レイソルの攻撃を支えていっていた。
先制点は、そんなオリベイラが受けたファウルから始まっている。山中のクロスは、そのままゴールに吸い込まれた。誰も触らなかったクロスは、ゴールに吸い込まなければならないというセオリーを忠実に守った素晴らしいキックで、柏レイソルが先制する。
ヴィッセル神戸の柏レイソルのビルドアップ対策が見事だったけれど、柏レイソルのプレッシングも同じように見事だった。ポジティブに考えると、ヴィッセル神戸は相手陣地での質的優位、自分たちのカウンターを狙った相手陣地でのプレー機会増大を狙った速攻の連続と、解釈できなくもない。しかし、三原を3列目に落としてビルドアップをしようとしていたように、ヴィッセル神戸はボールを保持しようとしていたのだろう。しかし。柏レイソルの強烈なボール保持者へのプレッシングに対して、ヴィッセル神戸は効果的にボールを進めることができなかった。落ち着いてボールを保持した局面は、20分過ぎまで訪れることはなかった。
この試合の前半に何度も繰り返された場面は、トランジションの連続だった。ボールが入れ代わる場面が非常に多かった。両チームは球際での勝負に臆することなく臨んでいった。ネルシーニョの柏というチームへの恨みが選手に乗り移ったのか、ヴィッセル神戸の激しさは、特に印象に残っている。その激しさの代償はファウル数とイエローカードで表されている。相手にボールを持たせたくないという両チームの姿勢が、頻繁に攻守が切れ変わる状況を作ったとも言えるだろう。ただし、そういう状況の中でも、どちらかと言えばヴィッセル神戸のほうはこの状況を望んでいるようにも感じた。試合がどちらに転ぶかわからない状況で、仕事をする選手は前線の選手と相場が決まっている。レアンドロ、ペドロ・ジュニオール、渡邉千真を前線に要するヴィッセル神戸の攻撃に耐え忍んでいく柏レイソルの守備陣も立派だったけれど。
30分が過ぎると、3バックになっても意味が無いと考えた柏レイソルは、4-4-2で攻守に臨むようになる。オープニングプレーで怪しさを見せたペドロ・ジュニオールが、柏レイソルの変更に守備で迷いを見せるようになる。だが、ヴィッセル神戸はすぐにインサイドハーフ突撃で、4-4-2に変更して守備をする場面もちらほら。ただし、柏レイソルがボールを保持する機会が少なかったので、ヴィッセル神戸の4-4-2ビルドアップ対策がインサイドハーフ突撃かどうかは不明のまま、前半が終了する。
柏レイソルの守備の強さと弱点になりそうなポイント
後半の頭から、前田→松下。残り時間45分とスコアを考慮して、攻撃的な選手を投入してきたネルシーニョ。システムに変更はなし。4-3-3で柏レイソルに臨んだ。53分に柏レイソルが追加点を決める。なんてことないロングボールを跳ね返すヘディングを相手に渡してしまう岩波。このプレーをきっかけに柏レイソルのトランジション攻撃が炸裂し、最後は伊東が決めて、スコアは2-0となる。立ち尽くすネルシーニョ。
56分に松下→松村。交代で登場した松下だが怪我で無念の途中交代。松村を左サイドハーフに配置し、ヴィッセル神戸は4-4-2にシステムを変更する。柏レイソルは4-4-2で自陣に撤退しながら、ヴィッセル神戸の攻撃を受け止めつつ、伊東のスピードを活かしたカウンターで攻撃を忘れることはなかった。
ヴィッセル神戸の攻撃は、2トップ脇を攻撃の起点にする攻撃が目立った。4-3-3でも4-4-2でも基本形は同じ。2トップ脇の攻撃の起点から大外(サイドバック)、中(相手のサイドハーフ、サイドバック、センターバック、セントラルハーフの真ん中)を選択する攻撃。相手の四角形でボールを待つ選手は、ボールの動きに合わせて、相手のセンターバックとサイドバックの間を駆け抜ける動きが多かった。
柏レイソルの守備の特徴は、コンパクトという言葉に尽きる。ボールサイドに全体がスライドする守備と果敢なプレッシングの相性は抜群だった。オリベイラ、中川のプレッシングでビルドアップの起点を潰す、または精度を落とし、ボール保持者への積極的なアタックと発生するスペースをコンパクト布陣で埋める守備は、ヴィッセル神戸を苦しめ続けた。柏レイソルの構造上、逆サイドのエリアは捨てている。このエリアをヴィッセル神戸は狙えれば何かが起きそうだったのだけれど、横幅隊がサイドバックになると、物量的にサイドで待っている選手を準備することはなかなか苦しい。
サイドバックの高いポジショニングに対して、6バックのようにサイドバックが下がってしまうこともあった柏レイソル。相手にフリーでクロスを上げさせるエリアを相手に与えがちだったが、そのエリアに帰ってくるのは1列目の選手たち。ブラジル人のオリベイラも中川も、尋常でない献身性でチームを支える。1列目のプレッシングの強度を支えるコンパクトさが柏レイソルの武器であると同時に、誰でもできる仕事ではない。また、1列目を疲労させるようなポゼッションを相手がしてきたときにどうなるか(またはプレッシングをできない)は、考えるだけでちょっと恐ろしい。
もちろん、下平監督も疲労はわかっているようで采配は論理的。守備の時間が増えたので茨田→大谷。疲れの見える武富→田中順也。そして、オリベイラも迷わず下げる采配で、相手に隙を与えなかった。ヴィッセル神戸にチャンスが無かったわけではないけれど、後半に中村を焦らせる場面はほとんどなく。柏レイソルが守備でも強さを見せつけ、ヴィッセル神戸に勝利した。
ひとりごと
ボールを保持できなくても強い!というのは、素晴らしいこと。柏レイソルの守備を支えているのは、ボール保持者へのプレッシングとコンパクトさ。相手がボールを保持することに超こだわりを持っているチームだと、相手陣地でのプレッシングは効かなくなる。そんな相手と対峙したときにどうなるか。また。コンパクトさをあざ笑うかのようなサイドチェンジと裏へのロングボール祭りを行ってくるチームにも守備が通用するかで、柏レイソルの真価が決まりそうだ。ただし、このメンバーで真価が高すぎるというのは出来過ぎな話な気もする。また、数的同数に対しても意地でもボール保持で対抗して欲しかったなという淡い希望は、第三者ゆえの願いだった。
なお、中谷くんは化物。たぶん、代表にも入ってくると思う。そして、中川くんのスペースを見つける目も化物。この両者からは目が離せない。明日は甲府戦。明後日は川崎戦。しばらくは、柏レイソル祭りになります。
コメント
いつも更新楽しみにしています。
やっぱり柏の躍進は監督交代が原因なのでしょうか?
3試合で交代するような監督を連れてきたのが悪いのか、3試合で見切りをつけたのが見事なのか、監督って大事ですという事例でしょうか。
コメントありがとうございます。
メンデスが監督をしていたときの柏レイソルを見ていないので、何がどのように変化してそれゆえに結果が出たかどうかはわかりません。
ただし、下平監督が良い仕事をしていることは間違いないと思います。
メンデス監督もブラジルで結果を現在進行形で残しているようなので、なんとも言えないですね。でも、監督って大事です。
その事例に適切かどうかは、セレッソとジェフを見守りましょう。