ヴァンフォーレ甲府のスタメンは、河田、畑尾、山本、松橋、黒木、稲垣、津田、田中、福田、クリスティアーノ、河本。今季のヴァンフォーレ甲府を見るのは初めて。下田、伊東の離脱は痛いだろうけど、J1に長年在籍してきたブランド力もあって、地味だけど堅実な新鮮力の補強はできている印象。そしてクリスティアーノが帰ってきたことは朗報だろう。下部組織も徐々に強さを見せるようになってきているので、このままJ1に残り続けることがチームの強さにつながっていきそうな予感。ただし、この試合では怪我人が続出しているらしい。
柏レイソルのスタメンは、中村、山中、中山、中谷、鎌田、大谷、小林、伊東、田中順也、オリベイラ、武富。中川(体調不良)と茨田(ベンチ)がスタメンから外れている。代役は田中順也と大谷。カイオ対策で起用されたらしい鎌田だが、その後もスタメンに定着している。前線からのプレッシングの維持を狙って、前線に武富を配置し、左サイドハーフに田中順也を配置している。自分たちの長所を維持しようとする堅実な采配だ。
準備された攻撃、つまり、定位置攻撃という名の仕込み
ヴァンフォーレ甲府のボールを保持していないときのシステムは、5-4-1。ヴィッセル神戸が見せたように、クリスティアーノ、河本、福田を柏レイソルのビルドアップ隊(鎌田、中谷、中山)にぶつけることができる配置になっている。数的同数プレッシングを行なう場面もあったが、基本的には自陣に撤退がメインだった。メインだったというよりは、どんなときに全体のラインを上げて、数的同数プレッシングを発動させるかが少し曖昧なようだった。クリスティアーノと福田の役割も、サイドの守備を行なうのか、両脇のセンターバックが出てきたときに対応するのかが少し曖昧だった。恐らく、センターバックの運ぶドリブルに対応することがチームの約束事になっていたのだろう。
柏レイソルは、山中を高い位置に上げて、3-4-3に変化してボール保持を行った。クリスティアーノと河本が2列目に戻る約束事によって、柏レイソルのビルドアップ隊が自由に振る舞えるようになったことは言うまでもない。その代わりに、ヴァンフォーレ甲府は自陣のスペースを相手に与えないように守備を固めている。つまり、注目すべきは、どのようにしてヴァンフォーレ甲府の守備をこじ開けるか、となる。
柏レイソルの選手配置を見ていると、綺麗な3-4-3になっていた。中川がいるときは、前線の形が良い意味で均等でないことが多い。前線の形は、オリベイラを中央に配置する。そして、武富と田中順也を相手のライン間(2.3列目)に配置した。最初の狙いは、ライン間の攻略。自然とライン間にポジショニングできる田中順也と武富にボールを届けようと画策する。そのネタは、2セントラルハーフ(大谷と小林)が前向きでボールを持ち、ヴァンフォーレ甲府の2セントラルハーフ(黒木と稲垣)をおびき出す。そして空いたスペースに武富と田中順也をポジショニングさせることで、ライン間の攻略を狙った。河本の脇から攻撃の起点となる大谷たちのボール前進で、ヴァンフォーレ甲府の陣内にスペースを作っていく。
柏レイソルの攻撃に対して、ヴァンフォーレ甲府が中央圧縮(とくにシャドウ)とセンターバックによるライン間の迎撃に守りの形を変化させていく。柏レイソルはサイドからの攻撃を見せるようになる。中心はウイングバック(山中、伊東)とライン間(武富と田中順也)のコンビネーションだ。
右サイドは伊東の突破力を活かして、武富は中央にポジショニングしたままであることが多かった。なお、ヴァンフォーレ甲府は、伊東対策で快足の選手を伊東サイドに配置していた。中央に鎮座するかわりに、武富は相手の裏へのランニングで、攻撃に幅(ロングボールという選択肢)をチームにもたらしていた。
左サイドは山中がサイドでボールを持つ。田中順也が相手のウイングバックの裏に走る。この流れが繰り返された。山中の選択肢は主に3つ。そのまま縦に流れた田中順也を使う。田中順也が相手のセンターバックを動かしているので、空いた中央のエリアにパス(的はオリベイラ)を通す。そして、自ら中央にドリブルで侵入していく。
左サイドの形は、相手と数的同数である必要がある。もしも、福田が山中のマークをしていたら、田中順也の動きで相手のセンターバックを動かすことはできないだろう。よって、柏レイソルは福田、クリスティアーノをひきつける必要がある。たまに数的同数プレッシングをみせていたように、ヴァンフォーレ甲府の福田、クリスティアーノの役割は、運ぶドリブルをしてくる選手への対応もあった。よって、躍動したのは中山。左利きのセンターバックは、運ぶドリブルとサイドに広がったポジショニングという2つの手段によって、左サイドで仕掛けやすい形を作ることに成功した。なお、柏レイソルの先制点はこの形から決まっている。
ヴァンフォーレ甲府に話を移してみると、非常に興味深いボール保持を見せた。柏レイソルの前線のプレッシングを柏レイソルと同じ形のビルドアップで剥がすことに成功する。柏レイソルの長所である前線のプレッシングだが、数的不利状況ではなかなか厳しい。そんなことは知ったことではないといいたい柏レイソルだったが、3バック、2セントラルハーフ、ウイングバックでうまくプレッシングを回避されてしまっていた。
ヴァンフォーレ甲府の攻撃で目立ったのは、サイドチェンジ。柏レイソルがコンパクトを達成するかわりに捨てている逆サイドを狙う。また、サイドに選手を集めてサイドハーフを下がらせる。空いたエリアからクロスポイントを得る。クロスはできればファーサイドを狙う。バー直撃のフリーキックがあったように、ゴール前でのプレー機会を増やせば、クリスティアーノが何かを成し遂げてくれる可能性は高い。さらに、柏レイソルの守備は、相手の動きに反応しすぎる習慣がある。それをコンパクトさでどうにかするという解決手段があるのだが、その解決手段をサイドチェンジでぶったぎる準備された攻撃の正しさは、柏レイソルを追い詰めるものだった。しかし、柏レイソルのボールを奪えないことによる攻撃機会の損失、そもそもの攻撃精度の低さ、そして先制されたことによって、正しい準備の足を引っ張っていた。
チュカ、森の登場の狙い
後半の頭から、チュカが登場する。ヴァンフォーレ甲府の相手陣地からのプレッシングが後半のオープニングとなった。しかし、そのプレッシングも強烈なものではなく、中途半端さがどうしても漂うものとなってしまった。柏レイソルは、システムをいじることなく、前半のようにボールを繋ぐ。後半になると、前からボールを奪いに行く色気はなくなり、一度撤退してから前に出て行くようになる。ただし、自分たちのボール保持→ボールを失う→すぐにボールを奪い返すの流れは、後半も維持されていた。
ボールを保持したヴァンフォーレ甲府は、サイドチェンジとクロスポイントを得る方法で柏レイソルに臨んでいく。しかし、柏レイソルも多少のコンパクトを犠牲にしてサイドチェンジにしっかりと対応した。そして、サイドハーフを下がらせてできたエリアには必ず1列目の選手がヘルプに現れる。ボールサイドの守備を懸命に行なうオリベイラは、欠かせない存在になりつつある。エデルソンはどこへ消えた。
そして、満を持して森が登場するヴァンフォーレ甲府。しかし、森の登場に伴うシステムの変更の隙をつかれ、柏レイソルに追加点を許してしまう。今度は右サイドからの攻撃で伊東の個人技でゴールは決まったようなものだった。
スコアが2-0になったことで、柏レイソルは疲労の濃い選手を順番に交代していく。さらに、怪我明けの輪湖のリハビリも行なう余裕を見せた。撤退した柏レイソルの守備を崩すことは、ヴァンフォーレ甲府には困難であった。また、ファウルを辞さない球際の強さが、柏レイソルの守備の強さを言えるだろう。ヴァンフォーレ甲府が、クリスティアーノ、森、チュカの個性をどのように発揮するのかが明確でなく、三者の存在感はどんどん消えていった。それでも脈絡のないゴールを決めそうなクリスティアーノだが、今日は沈黙。試合は2-0で終了。柏レイソルの完勝となった。
ひとりごと
開始直後は、流れを掴んだヴァンフォーレ甲府。計算通りだったと思う。その一方で、柏レイソルの先制点も計算通りだったはず。そういう意味では、非常に論理的な結果だった。ただ、ヴァンフォーレ甲府のボールを保持した攻撃もなかなか強さを見せていたことも事実。前線のスペシャルな選手をどのように活かすかがしっかりとしてくれば、非常に厄介なチームになっていくだろう。もうなっているかもしれないけれど。
柏レイソルは先制点を取れたことで、一気にチームが落ち着きを取り戻した。クリスティアーノのフリーキックが炸裂していたらどうなったかは不明。相手の5-4-1に対して、真ん中の3バックをどのように動かすか。武富の裏へのランニング、伊東の縦突破、左サイドのコンビネーションと、しっかりと準備をしてきたことは好印象。なお、マンチェスター・シティも相手のウイングバックとセンターバックの間をランニングすることで、5バックを攻略していた。そんなペジェグリーニと下平監督の共通点が面白かった。
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