ルヴァンカップを華麗にスルーして、先週末に行われたJリーグを淡々と振り返っていく。
3連勝中のFC東京は、スタメンを固定できるようになってきている。大量補強によって、スタメンの最適解を見つけることに苦労している印象だったが、大久保と高萩、太田以外は昨年のメンバーが中心になっている。プレーモデルがはっきりしていれば、選手が入れ替わってもどうにかなることが多い。プレーモデルがはっきりしていなければ、特に攻撃面は阿吽の呼吸に頼らざるをえないこともあって、継続性が大事とされる。セレッソサポにはおなじみだが、あの大熊監督の原点とも言えるチームがFC東京だ。篠田監督に明確な絵図があれば、そういったらしさから脱却できるのだろうが、そんな気配はまるでない。
4連勝中の柏レイソルも、スタメンを固定できるようになってきている。今は懐かしい名前のワールドユースに出場するために中山が離脱。開幕前には、ハモン・ロペス、オリヴェイラ、クリスチャーノで殴って、下部組織出身の選手たちで守り倒すのかと危惧されたが、気がつけば、前線も下部組織出身の選手たちになっていたでござるの柏レイソル。外国籍で生き残ったのはクリスチャーノ。相方の中川のようなプレー(キーパーまでプレッシング&ライン間ポジショニング)をできる外国籍の選手は、なかなかいないだろう。ハモン・ロペスとオリベイラの命運やいかに。
キック・オフから20分までの柏レイソルの振る舞い
20分までは、柏レイソルにとっては我慢の続く展開となった。ボールを保持していないときのFC東京のシステムは4-4-2。1列目のプレッシングをスタートに全体が連動するプレッシングの圧力は、かなりの迫力を伴うものだった。FC東京のプレッシングに対して、柏レイソルはなるべくは蹴らない姿勢を保ちながらも、ボールを奪われるくらいなら安全に振る舞おうという姿勢を見せながら、時間を過ごしていった。FC東京のプレッシングの連動性のレベルは、かなり高いものだった。セントラルハーフ(梶山、高萩)が柏レイソルのセントラルハーフ(手塚、大谷)までしっかりと出ていくことで、1列目のプレッシングを見殺しにしない場面が続いていった。大久保と前田という決して若くはないコンビが、まるで若手がせっかくの出番を無駄にしないかのように、懸命にプレッシングをしている姿は、チームのためにという2人のベテランの想いを感じさせるものでもあった。
柏レイソルのなるべくは蹴らない姿勢を保ちながらも、ボールを奪われるくらいなら安全に振る舞おうという姿勢に対して、FC東京はそもそもボールを繋ごうという意思すらみせなかった。柏レイソルのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。中川、クリスチャーノが相手をどこまでも追いかけ続けていくプレッシングは、前節でセレッソ大阪を苦しめていた。プレッシングのゴールは、相手にロングボールを蹴らせれば目標達成であることが多い。柏レイソルのゴールは、相手のロングボールの精度を落とさせてなんぼというハードルの高さに見える。FC東京は迷わずに林に下げてボールを蹴っ飛ばしていた。迷わずに、というところに、相手のプレッシングをショートパスで回避しようという意思や準備は全く見えなかった。
この両者のボールを保持したときの姿勢の差が、徐々にピッチに現れてくる。トランジションやプレッシングを回避できたときに両チームに決定機が訪れる序盤戦となったが、両チームのキーパーがゴールを許さない展開となっていった。ただし、柏レイソルがゆっくりとボールを保持する時間を増やしていくと、柏レイソルにとって、このときまで我慢しようね、というこのときが訪れる。そのときは、FC東京のプレッシング開始ラインがさがるタイミングだ。前田と大久保でなくても、相手陣地の深くまでプレッシングを続けることは難しい。どこかでボールを保持して休憩する時間がなければ、無理だろう。しかし、ボールを保持する意思がないようにしか見えなかったFC東京の戦い方では、休憩する暇はない。よって、必然的にプレッシングのラインが下る時間帯はあるよねという柏レイソルの予測は見事だった。
柏レイソルの変化と撤退したFC東京の守備の粗
20分過ぎになると、手塚が3列目(ディフェンスライン)に下りてプレーするようになる。相手の4-4-2にあわせて、もっと早い時間帯から行なうかと思ったが、FC東京のプレッシングラインが下がるまで我慢していたようだった。早い時間帯に3列目に下りてしまうと、消費していないスタミナを利用して、追い掛け回されてしまったかもしれない。手塚のおりる動きによって、両センターバックがハーフスペースの入り口にポジショニングできるようになると、柏レイソルの時間帯が増えていった。
相手陣地から守備をする場合は、人への基準を強く意識すればいい。ビルドアップを数的均衡状態で止めることがスタンダードになっているのが欧州だ。マンツーマンというと語弊があるが、相手陣地からの守備は、人への意識を強くすることが重要になってきている。一方で、自陣に撤退した守備は、スペース管理や人をどのようにして動かすか、動かさないかが重要になってくる。サイドを捨てるのかどうか、カバーリングはどのポジションの選手がどこまで行なうのか、センターバックは動かすのかどうか?などなど。
撤退気味に試合を進めることになったFC東京の守備の粗は、セントラルハーフ周りの守備の約束事にあった。相手を押し込んだときの柏レイソルのポジショニングは、変幻自在となる。この試合で目立った動きは、クリスチャーノと中川が下りてきてボールを受ける動きだろう。FC東京のセンターバックは、迎撃をあまり行わない。よって、前線から下りてきた中川たちと、目の前にいる手塚、大谷をFC東京のセントラルハーフは抑えなければいけなくなる。また、FC東京のサイドハーフもサイドをどれくらい重視して守るのが一定ではない。さらに、1列目の大久保たちもどこまで下がるのか(カウンターにそなえて相手のセンターバック付近にいるのか、セントラルハーフ付近でトランジションに備えのかなどなど)が明確でなかった。つまり、相手陣地から人へどんどん行け!という明確さでは強さを見せるFC東京だが、撤退守備でのスペース管理では、もろさを見せてしまう場面が多かった。
柏レイソルはそれらを知っていたのだろう。だからこそ、ハーフスペースに選手(FWとSH)を配置し、相手に迷わせる。そして、3バックに変化することで、ハーフスペースの入り口に選手を配置し、ハーフスペースへボールを供給しやすくする。詰将棋のようだった。また、FC東京の守備の特徴として、1列目のプレッシングに連動しないこともある問題がある。つまり、1.2列目のライン間を相手に日常的に使わせてしまう場面も何度も見られた。連動しないのが悪いのか、暴走した1列目が悪いのかは、チームの設計図次第だろう。30分過ぎの手塚のミドルシュートは、まさに1.2列目を相手に与えてしまう問題から生まれている。
予測力はサッカー選手にとって大事な能力だ。ただし、どのようなことが起きやすいかをすでに知っている場合と知らない場合では、勝負にならないだろう。
猛攻を仕掛けたいFC東京だったが
後半のキック・オフの笛がなったと思ったら、柏レイソルが追加点を決める。FC東京陣地からのスローインを奪ってのショートカウンター発動。この場面でもセントラルハーフ付近から崩されている。もちろん、セントラルハーフの選手がマスチェラーノ×マスチェラーノみたいな場合は、この守り方でもどうにかなるかもしれない。ただ、FC東京はセントラルハーフにピッチの調整力を求めているので、矛盾している。ボールを保持できないと彼ら(高萩と梶山)の良さは出にくいのだが、ディフェンスラインにその意思はないし、相手の形に対してプレッシングを回避するポジショニングの準備もしていないように思えるので、ちょっとどうしようもない。
2-0になったことで、撤退守備からのカウンターを意図的に増やしていく柏レイソル。FC東京はビルドアップミスを連発し、柏レイソルのチャンスを与えまくっていくが、全ての帳尻を合わせたのは林。FC東京は60分までに怒りの3枚交代。前田→ウタカ、河野→中島、梶山→田邊。しかし、前半に見られたような決定機はなし。逆にクリスチャーノと伊東の快足カウンターで失点しないことが不思議なくらいの展開だった。
前半のFC東京の決定機を思い出してみると、右サイドからのコンビネーションからのフィニッシュと太田のクロスを前田がヘディンクした場面となる。双方ともに広い意味での個人技が炸裂した形と言っていいだろう。柏レイソルが相手の骨格を殴ろうとしていたのに対して、FC東京は個の強さで阿吽の呼吸を求めているようにしか見えなかった。さらに、個の強さを発揮させやすいような環境設定も特になし。よって、セットプレーが武器になるしかないというか。もちろん、ウタカ、大久保、中嶋翔哉なんて選手は、相手が隙を見せれば一瞬で局面を打開できてしまうタレントだろう。しかし、準備万端で待ち構える相手には、チャンスは生まれない。前半のように相手の守備の準備ができていない状態では攻めきることができる。では、どのようにして相手の守備の状態をイレギュラーなものにするか?という命題にぶち当たるのだけど、その答えが阿吽の呼吸や個のタレント(田邊が根性で相手を剥がすとか)に頼っていると、効率は悪いのだろうと感じさせる後半のFC東京であった。
最後の最後に田邊がヘディングでゴールを決めるけれど、時すでに遅し。連勝対決はスコアと裏腹に圧倒的な内容の差で柏レイソルが勝利した。後半の中村と林の出番の差が全てを物語った後半戦だった。
ひとりごと
FC東京の問題は、相手が前からきたときのビルドアップ。撤退守備のときのセントラルハーフ周りの守備。相手を押し込んだときの再現性のある攻撃。前途多難。でも、ワンプレーで何かを起こしてくれそうな選手はたくさんいるので、結果は出そう。だからこそ、変われないというか。決定機が入ったか入らなかったのたらればをする気持ちはわかる。ただ、その決定機が狙った形なのかどうかが重要だ。
柏レイソルは、下部組織らしさとハードワークが良い具合に噛み合っている。セレッソ大阪との試合に続き、相手の弱点をしっかりと殴ろうという意思も見えているので、自分勝手な印象はない。ボールを保持できれば良いんだろうみたいな。ベンチが多少は不穏な感じ(ハモン・ロペスとか)なので、下平監督のマネージメントが試されるのだろう。その他では、サイドバックが空中戦で狙われたらちょっと怪しい雰囲気なので、ストークしようぜ(今や昔)みたいなチームとは相性が悪いかもしれない。
コメント
ものすごくわかりやすく分析しているので、とても楽しく読ませてもらいました。
また読ませて頂きます。