【第8節】アトレチコ・マドリー対ベティス ~11対10による優位性を消すための策~

マッチレポ1819×リーガエスパニョーラ

唐突な更新はリーガ・エスパニョーラ。初代のブログではリーガ・エスパニョーラの中堅チーム同士の試合を良く更新していたことを覚えている。レクレアティーボ時代のマルセリーノや、アルメリア時代のウナイ・エメリなどは懐かしい記憶だ。どこへ消えた、ヘタフェ時代のシュスター!!

この試合の注目は、アトレチコ・マドリーのプレッシング対ベティスのポゼッション。ベティスの監督はキケ・セティエン。ボールを保持するポジショニングに魂を捧げているような監督。万能型に近づいているとはいえ、アトレチコ・マドリーのプレッシングは、未だにアトレチコ・マドリーの最大の長所と言っていいだろう。そんなお互いの長所がぶつかりあうような試合が、ひっそりと行われていた。

アトレチコ・マドリーのトラップディフェンス

ボールを保持するベティスに対して、シメオネの罠は「トラップディフェンス」だった。トラップディフェンスはボールを特定のエリアに誘導し、相手の攻撃を機能不全にする戦術だ。

図のように、ベティスの3バックに対して2トップはマンマークのように対応する。このような形でプレッシングをかければ、フリーのマンディにボールが自然と集まるようになっている。マンディにボールが入ると、サウールがプレッシングに出てくる。サイドハーフの選手を出すことがポピュラーな形だが、アトレチコ・マドリーは中央の選手を前列に出すことを好んでいる。おそらく、サイドの選手を動かされてずらされることを嫌っているのだろう。ロドリゴ、コケによるカバーリングがしっかりと行われれば、マンディがボールを持ったときにフリーの味方は生まれにくい構図になっている。

ただし、ボールが逆サイドから循環してきたときは、サウールでなく、ルマールがマンディにプレッシングをかける約束事になっている。その理由は、物理的にサウールが間に合わないからだろう。ルマールはサイドにいるフランシスへのパスラインをきりながら、ボール保持者にプレッシングをかけることが役割となっている。ただし、フィリペ・ルイスとリュカのサポートによって、サイドに出されたらそれはそれでしょうがないよね、くらの割り切りでやっていた。その後にスライド完了すればいいでしょ!みたいなノリである。

このような守備の差配に対して、ベティスはカナレスとセルソのポジションチェンジなどが打開策として見られたが、ビルドアップの出口にはなれど、崩しの局面ではいい仕事ができていなかった。ホアキンサイドのほうが強力な雰囲気もあったので、アトレチコ・マドリーの守備の狙いが機能していたと言っても問題にはならないだろう。

ベティスのセンターバックが上がるビルドアップ

非常に苦労を重ねるような試合になっていたベティスだったが、ビルドアップでは非常に興味深い形を行っていた。ゴールキックも基本的には繋ぎたいベティス。キーパーもセンターバックのように振る舞うことが求められているようだった。そして、相手の守備の基準点をずらす(図ではカリニッチ)策として、「3バックの中央の選手が中盤に列を上げる作戦」を遂行していた。サンフレッチェ広島の千葉も、3バック時代は行っていた策である。この策には2つのパターンに分けられる。パスをした味方がフリーでないので、サポートをするために前列に移動をするパターンと、相手の守備の基準点を混乱させるために行うパターンだ。

ベティスのセンターバックの前列への移動は、後者のパターンだ。キーパーを含めて綺麗な菱形を作るというよりも、突然にいないはずの選手が現れることによる混乱、ズレによってボールを前進させることには成功していた。序盤のベティスの決定機は、まさにこの形から行われている。2~3本のパスだけで中央をぶち抜いた形となったので、シメオネ監督は激怒しているに違いない。

ベティスのビルドアップは、基本的に3-4-3によるシステムのかみ合わせのズレを狙ったものだ。さらに、ゴールキーパーも異常につなげるので、センターバックの前列の移動などの形も持っている。特に強調したいことは、それぞれの選手がボールを繋ぐ能力にしっかりと特化していることだろう。ボールを蹴る止めるの基本的なスキル、味方に時間と空間を与えながら自分もそれらを得るようなチーム全体のポジショニング、何をみるべきかが明確になっている視野とその広さ、そして、いざとなれば、自分のポジションを捨てでもボール保持者をサポートに行く姿勢などなどは、積み重ねによって培われたものに違いない。ただし、ボールを保持することをチームが志向すると、それらの能力が後天的に選手に身につくことが多い。もしくは、眠っていた能力が開花するというか。

ベティスの優位性を消すアトレチコ・マドリーのジャンプ

後半の頭から、アトレチコ・マドリーは猛攻を仕掛けていった。その立役者はコケ。サウールの役割を後半はコケが行うようになっていた。他のポジションよりも過負荷な役割になっているのだが、労を惜しまないコケは自分の役割を淡々と遂行した。よって、前半よりも守備の強度があがったアトレチコ・マドリーの前に、ベティスはたじたじとなっていく。だったら、キーパーを含めた3バック変化だ!となるんだけど、後半のアトレチコ・マドリーは、それにもあっさりと対応してきた。2トップが走って死んでタスクを実行することで、ベティスの優位性を消していく展開となる。60分までにアトレチコ・マドリーが得点を奪えなかったことは、シメオネにとっては計算外だろう。それくらいのラッシュを見せたアトレチコ・マドリーだった。

サッカーは11対10で行われると、ボールを保持するチームは考えている。この試合で言えば、オブラクがロレンのマークをすることは考えにくい。あのころのノイアーでも、相手のCFのマークをすることはなかっただろう。よって、最初から数の面では相手に優位性がある。よって、その優位性を消すために、様々な守備の方法が生み出されていった。その中の一つが「ジャンプ」だ。ジャンプとは、自分のマークを捨ててボールを受けた選手にプレッシャーに行く動きのことだ。日本では二度追いと表現されることがある。ジャンプの注意点は、自分のマークがパスを出す→パスの受け手にプレッシングに行く→ただし、パスを出した選手へのパスコースをきりながら行うことが求められる。パスラインをきらなければ、本当の意味で無駄走りになってしまう。

プレッシングを長所とするチームは、ジャンプが非常にうまい。ときには無駄になってしまうこともあるのだけど、このジャンプの速度、判断の早さを突き詰めていくと、相手から思考の時間を奪うことができる。ボールを保持して、どうしようかな?と考える時間を相手から奪うことは、徐々に多くのチームが標準装備していく策になっていくのかもしれない。

60分までの猛攻で得点が入らなかったアトレチコ・マドリーは、コレアが登場する。コレアを右サイド、サウールを左サイドに置くことで、相手の攻撃をサウールとコケで止める!というえぐい陣容に変化した。その思惑がうまくいったなんてことはないけれど、左サイドで奪ったボールを、最終的にはコレアが持ち込んで決めてアトレチコ・マドリーがリードする。ベティスも反撃を見せるけれど、アトレチコ・マドリーは選手の配置をいじりながら守備を固めていく隙きのない姿勢を見せた。さらに、シメオネが観客を煽り立てることで、スタジアムの空気も操作していた。ピッチの中だけでなく、観客にもアプローチするシメオネはやっぱりエグい。

同点に追いつきそうな場面がなかったわけではないが、アトレチコ・マドリーが勝利に値する内容で試合は終了。ベティスのボール保持にプレッシングで対抗したアトレチコ・マドリーが勝利した。

ひとりごと

本文にも書いたが、シメオネの観客への煽りが面白かった。もっと盛り上げろ!!!ってことなんだと思うんだけど、その煽りによって、選手にもいい影響が出るに違いない。ちょっと現場で体験してみたい。監督の仕事はピッチの中だけでなくて、観客に対しても責任がある!と再認識した。

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