サガン鳥栖のスタメンは、朴一圭、大畑、エドゥアルド、島川、松岡、仙頭、樋口、中野、飯野、堺、小屋松。超久々にサガン鳥栖を要チェック。オリンピックに林大地を、クラブユースに中野を派遣しているなかでの試合。以前に見ていたときと比べると、スタメンは少し、ベンチはかなり変化しているので、どのようになっているか楽しみである。
セレッソ大阪のスタメンは、キム・ジンヒョン、丸橋、西尾、チアゴ、松田、奥埜、原川、清武、坂元、大久保、加藤。大熊時代に「無」の力を思い知ったはずなのにまたも「無」に戻ってきてしまったらしいセレッソ大阪。なんでやねん!とツッコミたくもなるが、「無」にはまだ知らぬ魅力があるのかもしれない。なお、瀬古歩夢をオリンピックに派遣している。
お馴染みの可変式
44秒でサガン鳥栖が先制する形で試合はスタートした。このゴールは小屋松の演出によるものだった。トラップで攻撃の角度を変えることに成功し、チアゴをひきつけて酒井へのパスは教科書に載るようなプレー選択の連続であった。早すぎる先制点のきっかけはボールを奪ったエドゥアルドのロングボールから始まっている。セレッソ大阪にエクスキューズを許すとすれば、守備側の準備ができていなかったときに小屋松の個人技が炸裂してしまったからだ、ということはできるだろう。
しかし、8分のサガン鳥栖の追加点はセレッソ大阪になんのエクスキューズも許さないものだった。4-4-2で準備万端に構えていたものの、サガン鳥栖のセンターバックをあっさりとオープンにし、後は順番にずらされて簡単にフィニッシュまで許してしまっている。サガン鳥栖の可変式の形は今季の序盤から大きく形を変えていない。
ボール非保持は5-3-2だが、ボール保持では2-2-4-2のようになる。現代風の言い方をすると、ビルドアップ隊は[4]、相手ブロック内にいる選手は[6]となっている。林大地や山下がいないためか、前線の形は2トップよりも[1+1]の形になっており、小屋松がフリーマンのように振る舞っていた。小屋松は味方をフリーにするピン留め隊だったり、+1になってボールを受けたりと厄介な役割を器用にこなしていた。
セレッソ大阪のボール保持に目を移してみると、キム・ジンヒョンはボールを蹴飛ばすのではなく繋ぐ意思を必ず見せていた。チームとしてボールを保持することを基本としているのだろう。しかし、キム・ジンヒョンからボールをもらったセンターバックの選択肢はほとんどなかった。サガン鳥栖のプレッシングによって選択肢がなくなっているというよりは、チームとして準備していないようにピッチからは感じられた。
なので、基本的にはロングボールとなるが、競り勝てずに回収される場面が目立っていた。原川、奥埜、清武のひとりポジショナルプレーが成功するとボールが運べそうだったが、毎回のように無理のきくプレーができる選手は世界を探してもほとんどいなくなっている。
そんな展開のなかで、サガン鳥栖はビルドアップミスからセレッソ大阪に得点を許してしまう。朴を中心に意地でも繋ぐサガン鳥栖の姿勢はときどきこのような税金のような失点をしてしまうこともあるだろう。クリアーするか、繋ぐかの判断はアマチュアからプロまで多くの選手を苦しめている判断のひとつである。
そんなミスがでると、少し安全に振る舞うようになることは定跡だが、そんなミスは知らぬとばかりに自陣からボールを繋ぐサガン鳥栖。特に朴の強気の姿勢はチームを支える大きなものなのだろう。相手がそばにいてもバックパスを要求する強さは真似できるものではない。ボールを奪われる場面もあったが、こうした意地でも繋ぐ姿勢からサガン鳥栖は得点を決めて勢いに乗りたいセレッソ大阪の思惑をボール保持で削ることに成功していく。ただし、ボールを奪える場面もあったということはセレッソ大阪もプレッシングでチャンスを掴んでいたこともまた事実だ。この流れを加速させたのは給水タイム後のセレッソ大阪の撤退の選択だった。暑いししょうがないのだろう。
サガン鳥栖のビルドアップの形で特徴的なのは、エドゥアルドが中央レーン、島川は右内側レーンに基本的にはいることだろう。このときに一列前の松岡は中央レーンにいる。そして、仙頭が左内側レーンに移動することで、3-1の配置になることが多かった。ときどき2-2でビルドアップすることもあるが、相手の状況に応じて自分たちの配置が決まっているのだろう。本来は3バックの一角である大畑が、左のウイングバックに移動している景色は中野がいたときと同じである。セレッソ大阪が撤退したこともあって、ゆっくりとボールを動かしながら決定機未遂を作っていくサガン鳥栖。前線の6枚から誰かが列を降りたときに攻撃が加速する傾向にある。
前半の終わりに樋口の強烈なミドルが炸裂する。相手陣地でのセットプレーを繋ぐ道を選んだセレッソ大阪。しかし、この試合で何度も見られていたビルドアップ隊から時間とスペースを提供できないパスを奪われて樋口独走という形であった。ビルドアップ隊の仕事はボール保持者をオープンな形にし、その選手が保有している時間とスペースを次の選手に繋いでいくことにある。ビルドアップ隊から出たパスで次の選手の側に相手がいる状態ではキーパーからボールを繋ぐ意味があまりない。
肉を切らせて骨を断つ
後半から高木が登場し、清武がトップ下に移動となった。後半のセレッソ大阪はプレッシング開始ラインを大幅に上げて、ボールがどこにあってもプレッシングを実行していた。後方の選手が同数になってもOKと言わんばかりのプレッシングだったこともあり、サガン鳥栖もそれだったら蹴るわ!という姿勢に変化していく。だが、相手がロングボールで来ることは織り込み済みなセレッソ大阪はチアゴが圧巻の強さを見せつけることで、試合を優位に進めることに成功する。
サガン鳥栖からすれば、前半のようにボールを保持して時間を使いながら試合を展開していきたい。しかし、セレッソ大阪のプレッシングはそれを許してくれそうな雰囲気もない。さらに、セレッソ大阪は裏にスペースを空けることはためらっていない。つまり、カウンターでチャンスができそうな雰囲気だった。よって、サガン鳥栖は追加点を狙う道を選択。56分にはコーナーキックからエドゥアルドが決めるが、VARで取り消しとなった。
前半は繋げなかったセレッソ大阪だが、清武がトップ下に入ることで意思統一ができたようだった。センターバックは広がって距離をとる。セントラルハーフは列を降りる動きをする。そして清武がヘルプに来るの関係で、枚数と配置の優位性をサガン鳥栖に押し付けることに成功する。そしてサイドバックが高い位置を取れると、サイドハーフの選手も大外レーンから自由になることで、坂元がボールに関わる場面が増えてくるようになっていった。面白いのが加藤で、前線にいるよりも広範囲に移動しポイントになることを好む選手のようだった。
相手陣地に攻め込んでいけば何かを起こせそうなセレッソ大阪。直接FKを原川がバーにぶつけ、すったもんだのあとにゴールを決めたのはまたしても加藤だった。そして給水タイムに入ったので、サガン鳥栖がどのようなゲームコントロールを見せるかが注目である。サガン鳥栖の答えは特に変更なしだった。確かに追加点が取れそうな雰囲気はあった。
しかし、サガン鳥栖の攻撃は相手のブロック内に選手を多数送り込むことを前提としている。よって、ボールの失い方を失敗すると、相手にカウンターチャンスを与える形となる。この流れに拍車をかけたのが高木と坂元の立ち位置だろう。途中から戻ることをやめた二人はカウンターの起点となり、サガン鳥栖に何度も攻め込んでいった。なお、セレッソのチアゴと西尾の後半のパフォーマンスは鬼だった。きみたちが一対一に負けたら終わる作戦を遂行したのは流石だった。でも、決定機はサガン鳥栖のほうが多そうだったけど。
そんな殴り合いに勝利したのはセレッソ大阪。前半は守備に追われていたが、後半はボールを触る回数を増やし違いをみせていた坂元がPKを奪い、自分で決めて同点に追いつく。セレッソ大阪はその後も選手を入れ替えながら肉を切らせて骨を断つ作戦を実行。冷静さをゆっくりと取り戻したサガン鳥栖に終了間際は押し込まれることになるが、途中から出てきた選手がまだチームに染まっていないようで噛み合わず。試合は3-3という派手なスコアで終了した。
ひとりごと
セレッソ大阪の無秩序な誘いにサガン鳥栖がのったのか?と問われると、のるしかなかったのが正解かもしれない。サガン鳥栖の1失点目を思い出すと、ビルドアップミスで失点している。そして、後半にセレッソ大阪が死なばもろともプレッシングを行ってきたときに意地でも剥がすよりもロングボールを多用したのはリスク・マネジメントを意識していた可能性が高い。また、死なばもろともプレッシングをうけても自陣から相手のプレッシングを破壊し、ボール保持による試合支配を企めるほどの完成度があるチームは世界を探してもそんなにない。
となると、自分たちが自陣に撤退!となれば、無秩序にはならないが、サガン鳥栖のスタイル的に自陣に撤退はできそうでやらない。できるかも不明。どちらかというと、前線からの守備で相手の選択肢を削り、守備のデュエルで殴り勝つイメージがある。と、考えると、ボール保持でも非保持でも試合に秩序を持つことができたロティーナのチームの偉大さが理解できる気がする。
セレッソ大阪は選手の組み合わせで様相が異なりそうだった。サガン鳥栖のくらいにプレッシングで噛み合わせてくるチームだと、ひとりポジショナルプレーをできる選手を多数配置しないと厳しかった。細かいことはいいから蹴飛ばせばいいんだけど、キム・ジンヒョンがかたくなに繋いでいたことはちょっとおもしろかった。あれだけはチームの約束事なのかもしれない。肉を切らせて骨を断つ作戦のなかで、坂元がどのような進化をしていくかは興味深い。昨年は大外レーンで必殺技を繰り返す選手だったが、この試合では内側レーンで根性を発揮する場面が多かった。大変そうだったけど、異なる役割は選手を成長させることは間違いない。ただし、大変そうだったけど。
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