いけいけ!ぼくらのマンチェスター・シティ。チャンピオンズリーグでナポリを倒し、この勢いは誰が止めるのか状態にもはや突入している。この試合ではベルナウド・シルバがスタメンへ。昨シーズンにモナコでセンセーショナルな活躍をみせたベルナウド・シルバだが、マンチェスター・シティでなかなか馴染めていない。グアルディオラでも期待しているようで、出場機会を定期的に与えてもらっている印象を受ける。ただ、与えられている役割もトップだったり、サイドだったり、インサイドハーフだったりと、複雑なことになっている。確かにどのポジションもこなせそうだが、様々な役割を与えられていることもマンチェスター・シティにはまらない一因かもしれない。
バーンリーは大健闘のシーズンを過ごしているらしい。開幕戦でチェルシーを破ったことで、有名となった。堅守を持ち味としている。メンバーを眺めると、今までのプレミア・リーグの中堅どころに在籍していた、ビッククラブから流れ着いたでござる的な選手があまりいない。カナダ代表(アーフィールド)とニュージーランド代表(ウッド)がいる。注目はアイルランド代表のブレイディ。ユーロでの活躍は記憶に新しい。なお、欧州のクラブのなかでも、ポゼッション率はかなり低く、シュートブロック数では右に並ぶものはいないらしい。つまり、守っている時間が多く相手にシュートを打たれるが、ブロックしまくるみたいなチームなんだろう。
これまでマンチェスター・シティの変化と片側アラバロール
今季のマンチェスター・シティの序盤は3バックと2トップの併用型であった。その心は、ジェズスとアグエロを同時に起用するにはどうしたいいのだろうである。次の変化は、4-3-3(左サイドバックはメンディー型)だ。コンパニの負傷によって、センターバックの面子が足りなくなっての4バック移行という面も一因だが、ジェズスとアグエロの同時起用の答えは別に2トップでなくてもいいよね、という理由が大きそうだ。そして、今は4-3-3(左サイドバックはデルフ)の片側アラバロールだ。デルフの登場前の4-3-3は右サイドのデ・ブライネを起点とするウォーカー、スターリング、デ・ブライネの三角形が脅威の強さを発揮していた。デルフの登場によって、ウォーカーのポジショニングが下がり、代わりにデルフのポジショニングが上がるようになっている。よって、左サイドはシルバとサネがサイドから攻撃を仕掛ける場面が増えるようになってきた。
アラバロールは攻撃をサイドに誘導する
アラバロールのボール保持に着目すると、サイドにパスラインを作る傾向が強い。バイエルンではサイドに強烈なロッベンとリベリがいた。よって、彼らにさっさとボールを届けるためにはどうしたらいいか?という問いへの答えが、アラバロールである。トランジションでも優れているぜ、という話は置いておく。なお、アラバロールのポジショニングをハーフスペースの入り口と勝手に呼んでいる。この位置への相手の対応は3パターン。1列目(バーンリーでいえば、ウッズたち)、サイドハーフ(ブレイディ)、セントラルハーフ(デフール)の誰かが対応することになるだろう。それぞれの方法にメリットとデメリットがある。
相手を攻略するためには、相手の内在的論理を知ろう。アラバロールへのバーンリーの対応は、サイドハーフが出てくるだった。そして、シルバとサネにはデフールとロートンがマンマークで対応となった。サネが列を下りる→ロートンがついていくは難しい判断ではない。シルバの列を横移動する→デフールがついていくのは少し難しい判断となる。インサイドハーフのハーフスペースから大外への移動は、相手を悩ませることが多い。ゆえに、相手に解決しなければならない状況を用意することがたやすくできる。
ただし、堅守に定評のあるバーンリー。デフールはまるで迷わずにシルバについていく。さらに、ボールを前進させられたブレイディも懸命のプレスバックを見せる。もしも頭数がたりなければ、ターコウスキが飛んでくる。マンチェスター・シティの選択肢は、それでもサイドを質的優位(シルバとサネのコンビネーションも含めて)で突破する。もしくはデフールを動かしてできたエリアにアグエロを下ろすという技を準備している。しかし、堅守に定評のあるバーンリー。列を下りていくアグエロにはセンターバックで対応し、ボールサイドでない選手(コークやアーフィールド)がしっかりと中央に絞ってくるので、中央が空かない形となっていた。
バーンリーの守備で目立っていたのが、大外から攻めてくるマンチェスター・シティへの対応だろう。大外でボールを持つサネやベルナウド・シルバに対応するために、サイドバックが大外までつれていかれるバーンリー。セントラルハーフが大外につれていかれたサイドバックとセンターバックの間を埋める。すると、セントラルハーフが移動してできたエリアをマンチェスター・シティに使われそうなのだけど、そのエリアにはサイドハーフや1列目が下りてくる。サイドハーフをサイドバックとセンターバックの間にカバーリングさせないことで、デルフへのパスコースを警戒していたのはなかなか機能していた。
チームの守備の質をはかりたければ、ボールサイドでない選手のポジショニングを見れば一目瞭然なことが多い。バーンリーは丁寧なスライドを繰り返し、ゾーン・ディフェンスの約束事であるボールサイドにスライドして、ボールのないサイドを捨てるをきっちりと行ってきた。さらに、前進されてしまった1列目や2列目の選手のプレスバックも積極的に行われていた。バーンリーの1列目は、スタートは縦関係でフェルナンジーニョ担当を決めていた。押し込まれると、横関係になる。よって、マンチェスター・シティはボールを保持することはできていたけど、どのエリアに攻略の糸口を見つればいいのだろう、という展開になっていく。
サイドが駄目なら中央突破
サイドもがっつり守ってきても、ボールを持つ選手をインナーラップで追い越す形でベルナウド・シルバの決定機を作るマンチェスター・シティは鬼。でも、効率は良くない。そして、右サイドが活動的になっていく。理由は、アラバロールをしていないだけライン間の面積が大きい。ゆえに、デ・ブライネがこの位置でボールを受ける場面が増えていく。また、自由を与えられていたビルドアップ隊もサイドにボールを循環させるのではなく、一気にアグエロやライン間でボールを待つ選手に楔のパスを狙うようになっていく。この場面でオタメンディの貢献度は異常。
マンチェスター・シティの先制点のきっかけが、面積が広い右サイドのハーフスペースでボールを受けたシルバから始まったのはただの偶然だろう。ハーフスペースでボールを受けたシルバが切り替えしてデ・ブライネにスルーパス。すったもんだのすえにベルナウド・シルバが倒されて、PKをもらう。これをアグエロが決める。ハーフスペースからハーフスペースへのパスは効果的なので、実践してみてください。なお、ベルナウド・シルバはダイブな雰囲気もあったので、無骨なバーンリーの面々は本気で怒っていた。バーンリーからすれば、相手に決定機をあまり与えること無く耐え忍んでいたのに、PKかよという悲しい場面だった。
失点したことで、バーンリーはマンチェスター・シティ陣地からのプレッシングを見せる。その連動性もなかなか優秀で41分には相手のビルドアップミスを誘い、あわやゴールという場面を作っていた。ただ、マンチェスター・シティはその後もフェルナンジーニョを起点とする中央エリアからの前進に活路を完全に見出していた。前述した1列目の縦関係やボールを持たれることは捨てるというバーンリーの論理が、マンチェスター・シティのセンターバックに時間を与えたことが裏目に出てきた瞬間であった。
解放されたベルナウド・シルバとウォーカー
後半はアラバロールはほとんどなし。理由はサイドよりも中央からの前進を狙ったから。よって、メンディーが元気だったころの4-3-3が戻ってくる。解放されたのはベルナウド・シルバとウォーカー。ウォーカーは大外のポジショニングをとるようになり、ベルナウド・シルバは大外役割から中央寄りのポジショニングとなる。デ・ブライネとシルバは、列の上下動を行うことで、ビルドアップの起点、ビルドアップの出口、ライン間ポジショニングで相手を攻略と、幅広いタスクをこなすようになる。それぞれのタスクがそれぞれのポジショニングによって複雑に入れ替わるのが面白い。さらに、ストーンズがビルドアップの起点となったり、アグエロがハーフスペースに移動してきたりと、枚数が増えることもしばしばだ。ときどきポジショニングという役割が重なって無駄になっているのもちょっと面白い。
試合に話を戻すと、後半は死なばもろともな雰囲気を見せるバーンリー。マンチェスター・シティは苦しみながらもボールを前進させていく。ただ、マンチェスター・シティ対策として、相手陣地からプレッシング。エデルソンにもプレッシング。中間ポジションとマンマークを上手く融合させるという離れ業をときどき行えるバーンリーの守備能力の高さは異常だった。それでも、時間がたてば守備の強度はどうしても下っていく。交代で出てきた選手がスタミナあるぜと守備の強度を維持してくれるかというと、そんなこともない。守備は難しい。よって、ポゼッションのご褒美である相手の消費から、マンチェスター・シティは試合を優位にすすめていき、コーナーキックから追加点。追加点の直後にはスローインからの速攻でバーンリーにとどめをさしましたとさ。
ひとりごと
前半と後半でマンチェスター・シティはボールを保持するんだけど、全く異なるような表情を見せた。これってなかなかできる芸当ではない。アンカーが列を下りるか下りないかのレベルの話ではない。で、マンチェスター・シティの面々のポジショニングを眺めていると、相手のラインの凸を狙っているように見える。特にボール保持者へのプレッシングによって発生したエリアを誰かが使う意識が非常に高い。また、視野のリセットを楔のパスで行ってる。視野のリセットといえば、大外へのクロスをヘディングで折り返すパターンが有名だ。しかし、当たり前だがパスをすれば、みんなボールを見る。その相手がボールをみた瞬間にマンチェスター・シティの面々は動き出しをすることが多い。また。誰が誰に守備の基準点を置いているかを全員が認知している。よって、特定の選手がいない、プレッシングにいく、ジャンプして二度追いするなんてときに、誰がフリーになるかはを予め知っているみたいな。逆に言えば、それらのことに気をつけていれば、守れなくはないという話になんだけど、ちょっと難しい。バーンリーでも無理だった。アトレチコ・マドリーはもういない。さて、どうなる。
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