マインツでその名声を高め、ドルトムントでさらに名声を高めたユルゲン・クロップ。その後を追うように、マインツからトーマス・トゥヘルがドルトムントにやってきた。ユルゲン・クロップと同じように、トーマス・トゥヘルもマインツで結果と内容を両立させてきた監督だ。彼の元でブレイクしたシュールレ、ホルトビーの今が少し気になるが、その手腕に疑いの余地はない。トーマス・トゥヘルもドルムントでユルゲン・クロップのように結果を残すことができるか。そして、グアルディオラに率いられて国内では敵なし状態のバイエルンを止めることができるのか注目されている。
■安定しているようで不安定なドルトムント
インゴルシュタットのシステムは4-1-4-1。高い位置から積極的なプレッシングを行うチームだった。ドルトムントのボール保持を破壊したいとか、スボティッチ周りは不安要素がたくさんだからプレッシングを行ったというよりは、自分たちの志すともの、おれたちはハードワークするしか生き残る道は無いんだ!というような自分たちの理由がそのようなサッカーをさせているのではないかと感じさせれた。そんな気合満点のインゴルシュタットに対して。
ドルトムントのシステムは4-1-4-1。ギュンドアンをバイグル、または香川の横かで議論が分かれそうだが、別にどっちでもいい。ギュンドアンは相手のブロック内でプレーするよりは、ブロックの手前でプレーする場面が多かった。イメージとしては、スペイン代表で言うと、シャビがブスケツの横に落ちてプレーする時間が多いインサイドハーフととらえることもできる。つまり、どっちでもいい。ただ、この曖昧さが相手の縦ズレや左右で役割の不均等からくる守備の基準点ずらしにつながるので、実は大切なことなんだけれども。
序盤でキーになったのはマルコ・ロイス。ウイングのマルコ・ロイスが中に入ってくることで、相手のアンカーのホジェルはロイスにつられるようになる。インゴルシュタットの中盤は3枚で構成されている。ドルトムントの中盤も3枚で構成されている。ここに他のポジションの選手(ウイングのライン間でボールを受ける動きやゼロトップ)をされてしまうと数的不均衡エリアになる。このロイスの動きでスペースと時間を得たのが香川。相手が前から前からよせていくので、縦ずれが起こる。ホジェルは香川のマークにスライドしたいのだが、ロイスが邪魔という構図になる。
インサイドハーフの縦ズレを解消するためには、ドルトムントのセンターバックエリア(2対1)をどうにかする必要がある。後方支援か中央圧縮が定跡なのだが、インゴルシュタットはインサイドハーフ、またはアンカーが気合で捕まえるという解決策で対抗した。俺達が生き残るにはハードワークするしかないんだ理論炸裂。よって、前半のドルトムントは香川がグロスの後方エリアを使う、またはムヒタリアン、ロイスがホジェル周りのスペースを使うで徹底的に攻め立てることに成功する。
ドルトムントのセンターバックは成功不成功はおいておいて、落ちていく相手を捕まえることができる。インゴルシュタットはできない。この差は大きいのだけど、インゴルシュタットの気持ちになって考えると、オーバメヤンの存在は厄介だったのだろうなと。ロイスやムヒタリアンを捕まえる動きをするとして、ディフェンスラインを上げる→裏をオーバメヤンに狙われると、非常に厄介な状況となる。ピン止めならぬ裏抜け防止のために前にいけない。たぶん、普通にワントップが足の速い選手でなくも、前に潰しにいけなかったとは思うが。
ドルトムントのネタを整理すると、後方の数的優位からフリーの状況を作る。相手が前ズレしてきたら空いている選手(この試合ではインサイドハーフの香川)を使う。相手がずれてこなかったら、相手のブロック外でフリーになっているギュンドアンからボールを進める。ムヒタリアンとロイスがフリーだったら一気にバイタルエリアにボールを入れるであった。
ドルトムントのサイドバックはまだ迷いながらポジショニングを決めているようで、ドイツ代表のように常に高いポジショニングをとっているわけではなかった。その理由はムヒタリアンとロイスにある。彼らはサイドにはることもあれば、中に移動することもある。その移動する基準が試合を見ていても謎。香川が相手のアンカーやインサイドハーフに捕まっているときは中央への移動チャンスなんだけど、移動しなかったり。特に前半にロイスとムヒタリアンがポジションチェンジしてから、相手のアンカーをひきつける選手がいなくなり、ちょっと香川の自由が阻害される場面も見られた。
後半になると、インゴルシュタットに変化が生まれる。攻撃は勢いが大事(とにかく前線に素早くボールを供給)は変わらなかったが、守備では多少のおとなしさを見せた。前半から狙われていた対面のグロスは後半もフンメルスまでファイトを見せる場面が目立ったが、自分の前での仕事が終わると素早く自陣に帰還。帰還が間に合わないときは、サイドハーフを中央に移動させるか、やっぱりアンカーの縦ズレで対抗した。
後半の序盤はこのインゴルシュタットの変更に苦しむドルトムント。ギュンドアンと香川が捕まる場面が増える代わりに、バイグルがフリーになりやすくなる。が、それはちょっと関係ない。どちらかと言うと、ドルトムントにとって大切だったことは、相手のサイドハーフが中央に絞るようになったことだった。この動きによって、サイドバックの迷いが消え始める。サイドラインをふむことで、時間とスペースを得ることができる。サイドバックにボールが入れば、自動的にドルトムントは相手のサイドバックとセンターバックの間をランニングする仕組みができているので、サイドバックにボールが渡る、または高いポジショニングをとる、対角のサイドチェンジが飛んでくる場面が増えるようになる。
そしてこれは偶然だが、そんな高い位置をとったギュンターから先制点が生まれる。スローインというセットされた状態だったにも関わらず、スライド失敗してしまうおちゃめなインゴルシュタットであった。そして、追加点は狭いエリアでボールを受けたロイスからパスを広げられ、走りこんだシュメルツァーを倒してPKを奪う。そしてこれをロイスが決めると、後半の序盤に一気に試合を動かすことに成功するドルトムント。2得点ともにサイドバックがゴールに絡んでいるが、たぶんたまたまだろう。ただ、トゥヘルもサイドバックのポジショニングをなるべく高い位置において、今日のようなゴールを導きたいのかなとは勝手に予想してみる。
その後はインゴルシュタットが気合の球際と気合のロングボールで迫り、ビリキにも出番があるんだけど、無事にシャットアウト。ドルトムントの守備は正しいことをやっていても、それでも押し切られてしまうことがあってこれは不安要素になるだろうという場面がちょこちょこ。それでもシュメルツァーが復活しそうなことは朗報。80分が過ぎると、サイドを守るのか中央密集なのかと完全に混乱状態、または勢いが大事状態のインゴルシュタットを尻目に、香川が3点目を決める。サイドに流れたオーバメヤンをサポートするホフマンのポジショニング(相手のサイドバックとセンターバックの間、というかペナルティエリアの横)が素敵だった。そして、最後にはエース扱いのオーバメヤンもゴールを決めて、4-0。こうして中二日の過密日程を無事に乗り切ったドルトムントであった。
■独り言
相手の狙いところや再現性という意味で、ドルトムントの攻撃は不安定さを見せた。だた、その不安定さが相手にとってメリットにもデメリットにも繋がる。この遊びの部分をきっちり仕上げてくるのか、あえて残すのかはトゥヘルの頭のなかにあるのだろう。現状ではバイエルンを迎え撃つには厳しいかもしれない。昨年のデ・ブライネありのマンチェスター・シティヴォルフスブルクでも厳しいかと。ただ、1年目でヨーロッパリーグとの両立はチャンピオンズリーグに比べると、困難でないので、一気にチームが仕上がってくることを期待、超期待。
インゴルシュタットはプレッシングや守備は強い。今日は相手が悪かった。注目の渡邊凌磨はインゴルシュタットの∪23に加入。セカンドチームがあるって素敵だ。日本でも議論されているけど、全員がプロである必要もないと思うので、さっさとセカンドチームを作る、19歳から22歳までの出場機会を得られるようにして欲しい。ただし、Jリーグが本当に育てられるのかどうか?という疑問を大学側は提示してきそうだが。
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