結果は5-1でバイエルンの圧勝でした。チャンピオンズ・リーグを戦うバイエルンとヨーロッパリーグを戦うドルトムントでは日程的にドルトムントがきつい状況になります。しかし、ヨーロッパリーグでドルトムントはターンオーバーを実行しました。連戦になってるのはムヒタリアン、ピスチェク、ベンダーくらいなので、過密日程を理由に敗戦は致し方無いという状況にはなっていません。もちろん、トレーニングの時間が確保できないという弁解は機能しますが。
システムを観ても分かる通り、トゥヘルはバイエルン対策を行いました。バイエルンを止めるために自分たちの型(ギンター、シュメルツァー)を捨てています。バイエルンはいつも通りと言いたいですが、ゲッツェがスタメンになっています。大きな変化とは言えませんが、ドルトムントから移籍してきたゲッツェをスタメンで起用するのは、ビックゲームだからゲッツェを必要としているのか、それとも過去の選択の正しさを証明するためなのかはグアルディオラしかわかりません。
トゥヘルのバイエルン対策がどのようなものだったのか。そして、バイエルン対策へのグアルディオラの答えは何だったのか。そして、後半のトゥヘルの戦いかたの真意は何だったのかを見ていきます。
■トゥヘルのバイエルン対策
最初に日常のドルトムントについて整理していきます。ドルトムントはボールを保持を基本としています。その特徴は2つあります。1つ目はサイドバックが高いポジショニングを取り、大外から相手を強襲すること。相手のサイドハーフのポジショニングを操作するために、というよりは、クロスの出し手、受け手として機能することが求められています。ギンターがゴールに絡む機会が多いことはこのためです。2つ目はインサイドハーフがいびつな形であること。ギュンドアンは相手のブロックの外、香川はできる限りブロックの中でプレーすることが求められます。ウイングはサイドにはることもありますが、基本は相手のライン間でプレーすることが求められています。サイドバックのためのスペースをあけるためです。
この試合のドルトムントは4-3-1-2で試合に臨みました。守備のときは4-3-3と表現しても良いかもしれません。バイエルンは3バックで試合に入りました。ドルトムントの1列目の守備の役割は、オーバメヤンがアラバ、ムヒタリアンがボアテング、香川がシャビ・アロンソをマンマークするものでした。昨年のチャンピオンズリーグでポルトが見せた守備の形に似ていると記憶しています。なお、ハビ・マルティネスはほったらかしです。この4人のうち、捨てるなら誰だと考えると、ハビ・マルティネスになったのでしょう。なお、クロップ時代の4-3-3はシャビ・アロンソをスルーしてハビ・マルティネスまでプレッシングに行く4-3-3だったことを覚えています。
ボールを持たされたハビ・マルティネスが何かを仕掛ける前に、ドルトムントが狙い通りの形を作ることに成功します。アラバとマッチアップのオーバメヤンはスピードが長所です。アラバが相手ならば、置き去りにできます。斜めに飛び出す動きで早々にアラバにイエローを出させた場面は、まさにドルトムントの攻撃の狙いが炸裂した場面でしょう。
ハビ・マルティネスは困りました。誰も寄せてきません。ただし、余裕はありました。ポルトと異なり、ドルトムントはハビ・マルティネスに帰ってくるボールに対してプレッシングが発動しなかったからです。ハビ・マルティネスはシャビ・アロンソのポジショニングとは異なる方向に運ぶドリブルをすることで、ドルトムントの守備陣を牽制します。1列目の守備を運ぶドリブルで突破しようとすることで、ドルトムントは誰がハビ・マルティネスによせるかを決断する必要があります。そんな迷いを見逃さずに、ドルトムントの3センターの脇にポジショニングするバイエルンのインサイドハーフにボールを通したり、シャビ・アロンソとポジションをチェンジしながらボールを地道に運んでいきました。
■グアルディオラのバイエルン対策への対策
10分が過ぎると、バイエルンは最終ラインから相手の裏にボールを蹴り始めます。低いエリアとはいえ、フリーの状態なので、精度の高いボールを蹴ることができます。ドルトムントは自陣に撤退していたわけではないので、最終ラインの裏にスペースはありました。よって、蹴っ飛ばします。別にドルトムントの激しい守備を回避するためにボールを蹴っ飛ばしたというよりは、そのほうが効率的だから、くらいの意味合いだったと感じました。
13分になると、ボアテングとハビ・マルティネスのポジションが変更されました。中央に移動したボアテングはハビ・マルティネスのようにフリー状態だったので、時間とスペースを得ることができていました。そんなボアテングは躊躇なく相手の裏にロングボールを蹴りまくります。つまり、どうせ蹴るなら、ハビ・マルティネスよりも精度の高いキックができるボアテングに任せようというものです。
ボアテングへのマークを誰がすべきか。それともこのままロングボールを蹴らせるのかの判断をドルトムントはする必要があります。ドルトムントはムヒタリアン、オーバメヤン、香川の前線トリオが何とかプレッシングに行くという判断をしました。しかし、ノイアー、シャビ・アロンソを含めると圧倒的に数的不利のエリアになります。それでもロングボールを蹴らせれるのは好ましくないと判断したのでしょう。死なばもろともの雰囲気を感じさせるプレッシングでドルトムントはボールを奪うこともできていましたが、ショートパスでプレッシングを回避され、アラバがオープンになる場面が増えていくようになります。つまり、最初に計画されていたマンマークでハビ・マルティネスを浮かせる狙いは15分で終わりを告げます。
枚数の足りない状況でのプレッシングに対して、バイエルンは3バックがオープンになる状況を得られるようになりました。もちろん、時にはボールを奪われることもあるのですが、ハビ・マルティネスが迷っていたときに比べれば状況は改善しています。そして、26分に試合が動きます。最終ラインで時間を得たボアテングからのロングボールにミュラーが抜けだして先制点を決めます。ビュルキの対応が微妙でしたが、ピスチェクに対して、ゲッツェとミュラーでどっちにつくかの判断を強いたのが大きい場面でした。サイドにはっていたゲッツェによって、中央のミュラーがほんのわずかだけどスペースを得たことが大きい先制点でした。
ボアテングが中央に移動してからのドルトムントは死なばもろともの雰囲気を感じさせるもので、チームとしての秩序をどんどん失っていくようでした。このままではまずいドルトムントは30分にシステムを4-2-3-1に変更します。カストロを右サイドハーフへ、オーバメヤンを中央へ。いわゆるいつもの形に戻したドルトムントですが、いつもは香川とギュンドアンをインサイドハーフのように使う形になります。この形は香川が完全にトップ下なので、いわゆるいつもの形のようでいつもの形ではありません。よって、いつものようにサイドバックを上げて攻撃をするのか、香川はインサイドハーフのように振る舞うのかの整理を試合中に行わなえればなりません。
しかし、その整理がなされる前に、バイエルンのカウンターが炸裂します。33分にボールを奪われると、逆サイドまで運ばれます。サイドハーフが帰陣に間に合わずにチアゴ・アルカンタラを倒してPKを献上。ミュラーが決めて2-0となってしまいます。
迷いながら戦うドルトムントですが、ゆっくりとボールを回せる場面も出てきます。特にバイグルが積極的にボールを引き出していました。グアルディオラのプレッシングは相手から思考する時間を奪う勢いが大事!な傾向が強いです。そのプレッシングをドリブルだったり、ポジショニングで外せると、多大なスペースを得られる傾向も同時にあります。そんな諸刃の刃がグアルディオラのプレッシングです。ドルトムントは相手のプレッシングをかわしながらボールを回し、フンメルスの運ぶドリブルからシャビ・アロンソ周りにボールを供給します。ドルトムントの得点場面ではムヒタリアンと香川のポジショニングが重なっていますが、この重なりがシャビ・アロンソに2択を強い、この迷いからオーバメヤンのゴールに繋がります。36分のゴールでした。
38分のバイエルンはシステムを4-2-3-1に変更します。ラームを右サイドバックへ移動させて完了です。オーバメヤンのワントップに対して、ボアテングが捕まる形を避け、お互いのシステムを噛み合わせるノーマルな戦いを挑みます。4-2-3-1のバイエルンは外外(サイドバック→サイドハーフ)のボール循環やサイドチェンジからのウイングのドリブル突破を狙った攻撃が一気に増えていきます。しかし、ドグラス・コスタ対策で使われたソクラティスが予想以上の守備を見せたこともあって、サイドをわられることはありませんでした。
■後半戦に対するトゥヘルの考え方
ハーフタイムを挟んでも特に両者は変更なし。バイエルンは変更する必要ないですし、負けているドルトムントは相手の4-2-3-1に対してどのように攻守を設定するかを考える必要があります。なお、前半の終わり間際には香川がインサイドハーフのように振る舞う場面もありましたが、サイドバックをいつものように高いポジショニングを取らせることはさすがに怖がっているようでした。バイエルンのカウンターを考えると、致し方ないかもしれません。サイドバックが高い位置にいけないとすると、横幅の確保ができません。ウイングが横幅を取るならば香川はインサイドハーフのように振る舞っていると、ゴール前はオーバメヤンのみになってしまうという、悪循環に陥っていきます。
そんな考えを華麗にスルーするように、後半直後にバイエルンが追加点を決めます。またもボアテングからの裏へのロングボールにレヴァンドフスキが抜けだしてゴールを決めます。裏へのロングボールに対してですが、ビュルキはちょっと物足りなさを見せます。ノイアーだったら2本ともに防いでいたかもしれません。
2点差がついたことで、ドルトムントは香川、カストロ→ロイス、ヤヌザイを投入します。サイドバックを高い位置に上げることはできない(安定してポゼッションできないし、カウンターが怖いから)とすると、あとは個人技に期待するしかありません。そう考えると、ロイスとヤヌザイの投入は非常に論理的です。しかし、守備面の問題はクリアーされていません。オーバメヤンは死なばもろともスタイルを継続し、相手のセンターバックをフリーにしてしまいます。つまり、自分だけ機能していない状態です。
本当は自陣に撤退してバイエルンの攻撃を跳ね返すプランもあったのでしょうが、このスコアでそれをやるのは難しく、相手の陣地から守備をする状態でバイエルンの攻撃を止めるのは難しいのが現状です。はっきりいって打つ手なしです。グアルディオラがベンチの前で点差がついても叫んでいるのに対し、トゥヘルはベンチに座っていました。あとは選手(ロイスやヤヌザイ)に任せるしか無い。両者の力の差を感じさせる場面でした。
ドルトムントの秩序を失ったことを象徴する場面がバイエルンの4点目。ノイアーからのビルドアップからレヴァンドフスキのゴールまで、ドルトムントは一度もボールに触ることができませんでした。ミュラーの中盤のサポートで相手に2択を強いたのが全てですが、ゲッツェのアシストもお見事でした。
なお、この試合のトリはゲッツェ。左サイドからのカットインから自分のゴールに繋がります。右サイド、左サイドとサイドにはる仕事をこなしたゲッツェ。両サイドからでも同じようにカットインできるのは武器になると思います。コマン、ドグラス・コスタは縦への突破が多いからです。また、ゲッツェがサイドに入ると、ミュラーがサイドに流れたときにバランスが崩れませんでした。中央でも普通にプレーできるゲッツェは12人目としては贅沢過ぎる選択肢になります。
その後のバイエルンはビダル、キミッヒ、コマンを投入。ゲッツェがシャビ・アロンソやチアゴ・アルカンタラの位置でプレーしたのは驚きましたが、この位置でも起用されるようになれば、出番は増えると思います。ドルトムントが交代枠を残したまま終了。スコアは5-1。首位攻防戦で圧倒的な差を見せつけたバイエルンは今季もブンデスリーガを独走していきそうです。
■独り言
ギンターとシュメルツァーを見たかったのだけど、シュメルツァーはベンチ外だったので、怪我でもしたのだろう。いつも通りやったらもっと点差がついたかもしれないが、正面衝突をしても面白かったと思う。ただし、自分たちらしさをちょっとでも維持したうえで、相手に勝つ確率を高めるとすれば、今日の方法論は間違ってはいなかったと思う。ただ、ボアテング中央に対して何の準備もなかったのは失策だろうと。ホームでのリベンジに期待。
バイエルンは盤石。試合中のシステム変更もまったく問題なし。4バック対決なら外外攻撃で押しきれる。3バックでミスマッチも狙える。行ったり来たり。ロッベリーが帰ってきたら何がどうなるんだろうと楽しみと同時に怖さもある。ただ、バイエルンが独走しすぎると、リーグ戦終盤の緊張感がなくなり、チャンピオンズリーグで不覚を取るという繰り返される状況に今年もなるのかどうかは注目。
コメント
いつも楽しみにみてます。ありがとうございます。
ちなみに、スポナビのときは文中にも図解があり非常にわかりやすかったのですが、こちらでは難しいのでしょうか?