【見えにくかったグアルディオラの狙い】アーセナル対バイエルン

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

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すでに2敗している絶望的なアーセナルと2連勝しているバイエルンの対決です。チャンピオンズ・リーグのアーセナルといえば、なんだかんだ決勝トーナメントにすすむ。そして、ファーストレグで完膚なきまでに打ちのめされるけれど、セカンドレグで大健闘を見せる、でも敗退。。を繰り返している印象が強いです。まるでタイムリープしているかのようなアーセナルですが、今季は2敗していることもあって、すでに絶対に負けられない戦いに突入しています。相手はバイエルン。相手にとって不足なしどころか、最悪のタイミングで最悪の相手と当たります。しかし、アーセナルには2つの顔があります。夢の世界を笑顔でスキップしているようなパスサッカーと、現実の世界を用心深く歩いてるような守備的なサッカー。アーセナルは迷うことなく現実的な道を歩くことを選択します。

平たく言えば、ボール保持を放棄して、自陣にバスを並べる方法です。もともとプレミアで鍛えられたフィジカルと走力をベースにしたパスサッカーが持ち味だったので、カウンターは得意中の得意です。そして、自陣に引いて守れば最強のメルテザッカーと新加入のチェフがいます。どちらのサッカーを突き詰めたほうが結果が出るかは神のみぞ知るですが、その哲学からか、アーセナルはときどきしか現実の世界に帰ってきません。

そんな現実的なアーセナルに対して、バイエルンの戦い方を中心に見ていきます。

■ミュラーの適正ポジションはどこだ

アーセナルのシステムは4-2-3-1。相手陣地からプレッシングをかけるときも4-2-3-1。前線の役割は、エジルがシャビ・アロンソ番を基本的に(マンマークという意味ではない)行う。ウォルコットはボアテングとアラバを見るが、どちらにボールを持たせる意図は特にありませんでした。普段は4-4-1-1で守ると表現するのですが、アーセナルはサイドハーフの位置がコクランとカソルラの位置よりも高い場面が多々見られました。ボールサイドと逆のサイドハーフがカウンターに備えて高いポジショニングを取ることは定石のひとつです。

バイエルンのシステムは4-2-3-1。相手陣地からプレッシングをかけるときは4-4-2。いわゆるインサイドハーフ飛び出しです。そして、自陣で守るときは4-1-4-1と言いたいですが、自陣で守る場面はほとんどありませんでしたので、ボールを失ったときのポジショニングによる、という表現のほうが適切な気がします。

リーグ戦でのバイエルンは3バックで試合に入り、途中から相手に対してニュートラルな4バックに戻して試合を終わらせる傾向にありました。しかし、この試合では最初から4バックで試合に入っています。4バックのバイエルンは、サイドチェンジを多様。相手をスライドさせ、サイドバックからサイドハーフでボールを前進させる。シャビ・アロンソを中心としたロングサイドチェンジでドグラス・コスタたちのアイソレーションを狙う形を中心としています。

グアルディオラの考えを予測すると、アーセナルを警戒していたのかもしれません。前述したアーセナルのサイドハーフのポジショニング、特にアレクシス・サンチェスがあまり守備に熱心でないポジショニングをとっていることから、カウンターでは、いの一番に飛び出してくるでしょう。そのときに、3バックではサイドから飛び出してくる選手を捕まえきれない、と考えたのかもしれません。また、現実的なアーセナルが自陣に撤退するとして、中央に密集することは考えやすいです。その場合、攻撃は外からのほうが都合がいい、となります。だったら、攻守の面を考えて最初から4-2-3-1で問題ないのではないかと考えることはできます。あくまで予想ですが。

グアルディオラのプランは、相手のカウンターを警戒するために4バックで臨む。サンチェス、カソルラ、モンレアルの間にできた三角形のエリアから攻略することで、相手にカウンターさせない攻撃を展開する。そして、得意のポゼッションで相手の体力を削りながらじわじわとサイドからの前進、サイドチェンジでウイングの個人技勝負で決着をつけようとしていたのではないかと予想されます。

試合はバイエルンがボールを保持する形で展開していきます。3バックのときの同じように、インサイドハーフがサイドに流れる形は行われました。隣り合うポジションは同じ列にいてはいけないの法則からはちょっとずれていましたが。特に左サイドからの攻撃が多く見られました。ペジェリン、ラムジー、コクラン、メルテザッカーで形成される四角形の中央に、レヴァンドフスキがポジショニングすることが多く、そのエリアにチアゴ、ビダル、ベルナトがボールを供給し、コスタと絡んで崩していく形は何度も繰り返されました。

メルテザッカーをレヴァンドフスキでピン留めすることで、ペジェリンのカバーリングをあやふやにすることが一番の狙いでしょう。また、サイドバックがいることで、サイドハーフがサイドバックのカバーリングをすることもあやふやになります。結果として、アーセナルのサイドバックに加勢するしかないのですが、そうなれば、バイエルンのサイドバックがフリーの状態でクロスをあげられるようになります。この形はラームのサイドで何度も繰り返されました。ただし、アーセナルとしては、サイドからのクロスはメルテザッカー中心とする高さで対応しよう、そしてできる!と計算していたと思います。

前半戦はサイドチェンジを受ける、同サイドからの前進でボールを受けるドグラス・コスタとペジェリンのマッチアップが何度も見られました。また、左サイドで作って、大外のミュラーがダイナゴルに侵入してくる形もまれに見られました。恐らく準備されていた形だったと思いますが、この形があまり出なかったことがバイエルンの誤算になります。

バイエルンの4-2-3-1はドグラス・コスタ、ロッベン(ときどきコマン、ラーム)が大外からの仕掛けを担っていました。しかし、この試合ではミュラーです。3バックでも4バックでもレヴァンドフスキと中央でコンビを組んでいたミュラー。今日はサイドハーフになりますが、バイエルンのサイドハーフが求められている仕事はほとんどできませんでした。ほぼバックパスみたいな。それもある程度は織り込み済みだったようで、ビダル、ラーム、ミュラーが旋回するように動いて相手のマークを剥がす動きが仕込まれていましたが、そこまで効果的ではありませんでした。なので、結果としてラームのクロスで終わる右サイドは機能していなかったと言っていいと思います。

ミュラーがはめをはずし、中央に移動すればミュラーの良さは出たと思います。しかし、中にはバイエルンのインサイドハーフがいます。カソルラ、サンチェスの間にインサイドハーフをポジショニングさせることで、カソルラ、コクランの距離を話す狙いをバイエルンは見せていました。そして、レヴァンドフスキへのパスラインを確保する、またはゼロトップのように振る舞うとなりえますが、レヴァンドフスキは中央よりも中盤やサイドでプレーしている場面が多かったので、何ともいえない現象となっていました。隣り合うポジションが同じ列にいてはいけないの法則から、ミュラーは我慢してサイドにはりつづけますが、やっぱり機能していませんでした。さらに、守備面でも必要のない状況なのにプレッシングにいってしまい、相手にチャンスを与えるとふんだり蹴ったりでした。

後半になると、アーセナルはサンチェスを前線へ、エジルを左サイドハーフへ。バイエルンは、チアゴとシャビ・アロンソを並べて、ビダルを前に出します。アーセナルは、ウォルコットを走らせるカウンターの機会が少なかったことからその機会を増やすことを狙ったポジションチェンジ。バイエルンは、相手のブロックの中で活動することを専任とする選手を作ろうといったところ。ゲッツェがいれば適任だったのだけど、怪我でしばらく離脱となっております。

56分にラムジーが負傷してチェンバレンが登場します。そうすると、ドグラス・コスタとミュラーのサイドを入れかえます。右サイドを復活させるため、マッチアップの相手をかえることでポジティブな変化を狙ったポジションチェンジですが、ドグラス・コスタはカットインからのシュートがそこまで得意ではないので、非常に微妙でした。なので、ドグラス・コスタは右と左をいったりきたり。そして、アーセナルはビダルとレヴァンドフスキへのパスコースを牽制するために、4-5-1に変化します。エジルがセンター、アレクシス・サンチェスは元のポジションに戻り、ラームと牽制しあいます。

70分にバイエルンが動きます。シャビ・アロンソ→キミッヒ、ビダル→ラフィーニャ。この交代で大きかったのはラームが中盤へラフィーニャが右サイドバックへでした。個人的にはラームを右ウイング、ラフィーニャを右サイドバック、ミュラーを中央へと来るかと思ったので拍子抜けです。この試合のミュラーへの采配は不可解というか考えてもわけがわかりませんでした。アーセナルもジルーが登場します。

そしてこのジルーが結果を残す、というよりもノイアーがセンタリングへの対応を失敗し、ボールはジルーにあたってゴールに吸い込まれます。残り15分でアーセナルが先制。これで守り切れると感じたアーセナルはアレクシス・サンチェス→ギブスで守備を固めます。バイエルンはベルナトをワイドに出して、とうとうミュラーが中央へ。レヴァンドフスキにも余計な仕事をさせずに中央へ。あわやゴールの場面が増えていきますが、残念そこはチェフ。チェフの威圧感からかシュートはぎりぎりで枠を外れる場面も見られました。

そして、試合はロスタイム。いわゆるビルドアップミスからのアーセナルのカウンターが炸裂し、最後はエジル。ノイアーはシュートを止めるものの、ゴールの横にいる審判がとうとう正しく働きゴール判定。こうして、現実的なアーセナルが精一杯の守備からセットプレーとカウンターというできすぎたストーリーでチャンピオンズ・リーグに望みを繋ぐことに成功しました。バイエルンはとうとう負けた。恐らく狙っていたことができていたかどうか、という意味でもぜんぜん良くなかった試合だったので、グアルディオラの復讐が始まる。

■気になった選手

ペジェリン。ドグラス・コスタとのマッチアップでかなりきつかったと思う。クロスは何度か許したがしょうがない。ドグラス・コスタを抑えきったら世界最強のサイドバックと認定される。ロスタイムでのアシストはスピードも含めてお見事だったが、パスカットを狙った勇気のある決断が素晴らしい。調べてみると、バルセロナ出身だったようで、グアルディオラからすれば、複雑な心境か。

■気になった監督

グアルディオラ。完璧を目指しすぎて、ボール支配を目指しすぎて、そっちに少し寄りすぎてしまった印象を受けた。完璧とはできるかぎり失点するような状況をなくしながら、自分たちの攻撃をしていく、みたいな。もちろん、トレードオフで自分たちの決定機も減りかねないのだけど。セカンドレグではなんとなく攻撃側に振り切れそうなので、今から楽しみ。

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