【試合のなかで変化するバイエルンを追う】バイエルン対アウグスブルグ

マッチレポ1415×ブンデスリーガ

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時は少し遡り、チャンピオンズ・リーグの前に行われた試合です。

メディアで報道されているように、この試合の決勝点はPKで決まりました。そして、そのPKの判定を誤審だったと、審判があとから認めています。アウグスブルグからすれば、やりきれない試合だったでしょう。バイエルンからすれば幸運だったと言えます。スコアだけを見れば、2-1。バイエルンが苦戦のすえに審判の判定に助けられて勝利したと報道されそうですが、試合内容は圧倒的にバイエルンに傾いていた試合でした。もしも、誤審がなかったとしても、バイエルンが逆転していたかもしれないと言っていいほどに、決定機も量産されていました。そして、この試合のバイエルンはカメレオンも真っ青なほどに自分たちの形を変容させます。その変容について見ていきます。

■無常

アウグスブルグのシステムは4-4-2。懐かしのク・ジャチョル(ベンチにはチ・ドンウォンもいる)を前にだして、4-4-2で守備をします。

バイエルンの最初のシステムは3-1-4-2。今季のバイエルンはこの形で試合をスタートさせることが多いです。相手の2トップに対して、3バック+アンカー、そしてインサイドハーフの選手がサイドに流れることで、相手の守備の基準点ずらし、数的優位を確保しながらボールを前進させていくことが、このシステムの特徴です。よって、ビダル、チアゴはサイドに流れることが多いです。相手がついてくれば、中央へのパスコースが確保されるので、ウイングやミュラー、レヴァンドフスキが相手の隙間からボールを受けられるポジショニングに移動してきます。

このサイドに流れるインサイドハーフの動きに対して、アウグスブルグはサイドハーフが中央絞り→サイドに流れたらついていくことで、対応しました。2トップも無闇にバイエルンのセンターバックたちに突撃することなく、中央のパスコースを制限します。中央を閉められ、サイドに流れてもついてくるアウグスブルグの守備にバイエルンは6分で最初の形を放棄します。インサイドハーフのサイドに流れる動きにどのように相手が対応するかで、システムにを変化するかどうかが決まっている可能性が高いです。

次のバイエルンのシステムは4-4-2。シャビ・アロンソをセンターバックの位置に落とします。ラフィーニャとアラバはサイドバックを本職としているので、4バックへの変化はスムーズに行なえます。システム変化の目的は、サイドバックからサイドハーフへの外外のボール循環を利用することで、中央を閉める相手の守備への対抗です。この形のときにビダル、チアゴはサイドに流れる必要はありません。バイエルンはサイドバックからサイドハーフへのパスと、サイドチェンジを繰り返すことで、ボールを前進し、相手を自陣に押し込めるようになっていきます。

また、この変更は守備面でも大きなメリットがありました。可変システムの弱点は、いるべき場所に選手が移動するまでの時間にあります。バイエルンの場合、3-1-4-2で攻撃は仕掛けますが、守備は4バックに変化します。シャビ・アロンソがセンターバックの場所に移動する前にアウグスブルグは速攻で攻撃を仕掛け、ボアテングとラフィーニャの間にクロスを入れる形を狙っていました。よって、それならば可変をやめることでいるべき場所に選手がいる状況を作れば良いとなります。この変化によって、アウグスブルグの狙いは単調な速攻のみにされてしまいました。

相手を自陣に押し込める、ボールを前進させられるようになったバイエルンは、15分にまた変化します。システムは4-4-2のままで、選手配置を変更します。センターバックをラフィーニャとボアテング、右サイドバックにラーム、左サイドバックにアラバ。右ウイングにドグラス・コスタ。中盤はシャビ・アロンソをアンカーとしてインサイドハーフにビダルとチアゴ(チアゴは左サイドより)、前線は変わらずです。

左サイドが空になります。その左サイドはアラバが駆け上がるか、チアゴがサイドに流れることで空状態の解消を狙っていました。この変化の最大の目的は、シャビ・アロンソを中盤に戻すことにあります。相手は4-4-2。2トップの間に選手を配置するにはアンカーを置くことが手っ取り早いです。この位置に選手がいれば、相手の中盤が縦にずれるか、2トップの選手が対応におわれ、相手のセンターバックに積極的なプレッシングは行えなくなります。

また、左サイドウイングの不在がアウグスブルグの守備に迷いを与えます。特にサイドバックのフェルハーフは守備の基準点を失います。よって、中央のカバーリングをすれば、アラバが駆け上がってくる仕組みに悩まされます。中央の数的優位を確保しながら、強烈な右サイドコンビ(ドグラス・コスタとラーム)で迫り、左サイドからはアラバが強襲してくるシステムによって、バイエルンは試合を支配することに成功します。相手のエリア内に侵入する場面も多く、ヒッツのスーパーセーブで防ぎますが危険な状態が続くアウグスブルグという展開になりました。

それでも得点が奪えないバイエルンは30分過ぎにドグラス・コスタを左に移動させます。次は左サイドから強襲。左ウイングがいると、アラバはアラバロール(サイドではなく中央にポジショニングする)をするようになり、攻撃の形がまたも変化します。チアゴ・アルカンタラがサイドに流れたらアラバロールが発動する流れがしっかりと機能していました。こうして自分たちの形を変化させることで、攻撃に流れをかえ、相手に対応を強いることができていたバイエルンですが、得点は奪えず。

逆に相手の速攻から失点してしまいます。迷わないアウグスブルグの速攻に対応していたバイエルンですが、途中でク・ジャチョルを右サイドハーフ、馬力のあるエスヴァインを中央に移動させた采配が機能します。駄目だ、単独で突破できる選手を前線に置くしか無い!みたいな。ク・ジャチョルのアシストでエスヴァインが決めるのですから、アウグスブルグ的にはこれ以上ない結果だったといえます。

後半になると、バイエルンは姿を変えませんでした。このままで問題ないとグアルディオラが考えている証拠です。アウグスブルグは自陣に撤退し、バイエルンはボール運びで苦労する場面はほとんどなくなっていきました。バイエルンは右サイドが空の状況で攻撃を仕掛け続けます。もちろん、ラームが攻撃参加するので、厳密に空というわけではないのですが、ミュラーが気を使って右サイドに流れる回数が増えていきました。また、中央に配置されているシャビ・アロンソとビダルは相手の2トップの脇(バイエルンのサイドバックのエリア)に移動してボールをすすめることで、相手に守備の基準点から外れてプレーする場面が増えます。相手の四角形(センターバック、サイドバック、ボランチ、サイドハーフを頂点とする)の前からプレーすることで、バイエルンはあとは得点をとるだけという形に持っていくことに成功します。

さらに攻撃を高めるために、ビダル→コマン。この交代でバイエルンは3-1-4-2に戻します。コマンを左ウイング、ドグラス・コスタを右ウイング。そして、中央をシャビ・アロンソ、ラーム、チアゴで組ませました。この変更によって、空のポジションがなくなります。守備面での怪しさを思い出せますが、アウグスブルグは自陣に完全に押し込まれた状態だったので、特に問題なしと計算したのでしょう。また、ボールを前進させる意味でも相手が自陣に撤退しているので3バックで問題なしと計算したのだと思われます。そして、得点を取りに行くときのバイエルンは必ずミュラーが中央に集中できるようにしてきます。

あとは猛攻を仕掛けるだけとなります。その後の変化はコマンとドグラス・コスタのサイドを入れかえるくらいで、選手配置を大きくかえることはありませんでした。バイエルンの攻撃で特徴なのは横幅に強力な選手がいることです。よって、相手は横幅をどのように守るかを決める必要があります。相手のサイドチェンジにどのように対応するか。サイドハーフを落とすのか、サイドバックに観させるのか。後者の場合、サイドバックとセンターバックの間にスペースができてしまいます。それはほんのわずかなのですが、このエリアにバイエルンは選手を突撃させます。

中央からの崩しの局面ではミュラーとレヴァンドフスキが、サイドからクロスを上げるときはインサイドハーフが相手のサイドバックとセンターバックのエリアに突撃することで、相手を苦しめます。相手が中央をしめてきたら、大外で余っている選手がフリーになるので、その位置までボールを飛ばします。サイドチェンジからのクロスは視野を強制的にリセットすることになるので、マークがずれやすくなるメリットがあります。

アウグスブルグは前線の選手を交代しながら試合の流れをどこかで変換させたがります。このような欲が出たのは、試合展開を嫌がったためでしょう。よって、前からプレッシングを仕掛ける場面も出てきますが、むろん外されます。そして、レヴァンドフスキへのロングボールから守備を不安定なものにされ、カウンター状況が成立し、ミュラーのシュートのこぼれ球をレヴァンドフスキが押し込んで同点となります。ずっと守備が整っている状況で守っていたアウグスブルグでしたが、前からボールを奪いにいき、結果としてその行動が守備の不安定、整っていない状況を自ら作ってしまったのは悔やまれる失点だったかと。

残りは10分。ずっと守ってきたアウグスブルグが攻撃に切り替えることは至難の業です。よって、バイエルンが猛攻を仕掛けるわけですが、最後にドグラス・コスタのドリブル突破から審判が誤審と認めた場面が生まれます。そして、このPKをミュラーが決めて、バイエルンは逆転に成功。残り時間は交代選手を使いながら時間を潰して試合は終了します。

■独り言

11人で撤退されると、バイエルン、レアル・マドリー、マンチェスター・シティ、バルセロナでもやっぱり苦労します。そんなときに大切なことは万事を尽くすことになると思います。やることはやる。攻撃に変化をつけたり、セットプレーを狙ってみたり。そのような意味で言うと、この試合のバイエルンは色々なパターンでアウグスブルグのゴールに迫ることに成功しました。直接FKも含めて。そういった姿勢はこの試合で結果が出なかったとしても次につながってくるものなので、今季のバイエルンの強さ(なんだかんだ勝つ)ところになっているのではないかと感じさせられる試合でした。

■気になった選手

ビダル。いわゆるゴール前に突撃できる選手という印象が強かったのですが、バイエルンでは水を運ぶ選手の1人になっています。後半にみせたインサイドハーフが相手のセンターバックとサイドバックのエリアに突撃(またはラームがゴール前に飛び出していましたが)みたいな場面で良さを発揮できると良いのだろうなと思います。その日のために、バイエルンの方法論になれるために使われているのか、グアルディオラのリクエストで獲得されたから使われているのかはわかりません。今後のビダルがどのように起用されていくかはかなり興味深くなると思いますので、要チェックです。

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