【バイエルンがノーマルであることの意味】マインツ対バイエルン

マッチレポ1516×ブンデスリーガ

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マインツといえば、クロップ、トゥヘルのステップアップの場になったチームです。なぜか2人ともにドルトムントに旅立って行きましたが、現在の監督はマルティン・シュミット。同じスイス人のルシアン・ファブレはボルシア・メンヒェングラッドバッハを投げ出して総スカン状態ですけども、最近のスイス人監督の活躍は目をみはるものがあります。武藤の加入で日本からも注目が集まるマインツは、ここまで負けなしのバイエルンにどのように対抗したのでしょうか。そして、この試合のグアルディオラのマインツ対策はあったのでしょうか?

■4バックで試合に入るグアルディオラ

これまでのバイエルンは3バックで試合に入り、途中から4-2-3-1に変更するパターンが多くみられました。それならば、最初から4バックでやればいいじゃないか、となりそうです。しかし、相手に3バックと4バックの対策を強いることと、試合中の変化に対応させることを自分たちのメリットに繋がります。よって、システム変更による試合の展開の変化は必要なものだとグアルディオラが考えている可能性は高いです。相手からしても、決められたマッチアップの相手やボール循環に慣れたころに、それらが姿を変えるのでは、余計に頭も疲労することになります。また、振り出しから試合をするようなものなのですから。

しかし、珍しくも、この試合のバイエルンは、最初から4-2-3-1で試合に臨みました。システムの変更も最後までなく、あったのは選手の入れ替えと、交代した選手の個性の差による変化くらいでした。怪我明けのハビ・マルティネスの負担を減らしたかったのかもしれませんし、コマンをチームに馴染ませるためのシステム変化なしだったのかもしれません。では、試合内容を追っていくことで、グアルディオラがなぜこのような策を取ったのかを考えていきます。

マインツのシステムは4-4-2。基本はゾーン・ディフェンス。ボールに近いエリアではスペースよりも相手を優先する守備でした。ボールサイドに極端にスライドすることで、相手につくことで崩れるゾーン・ディフェンのポジションバランスを圧縮で解決させる狙いを持っていました。また、高いエリアからのプレッシングを行うことで、バイエルンのビルドアップを阻害し、あわよくばショートカウンターを狙うプレーも見せます。トゥヘル時代に数的同数プレッシングで相手を苦しめた伝統はチームに根付いているようです。ノイアーが蹴っ飛ばす場面も目立ち、序盤はシステムが噛みあうなかで、バイエルンが次にどうしますか?という状況になっていきます。

バイエルンの答えは至極単純で、セントラルハーフのチアゴ・アルカンタラとシャビ・アロンソのポジショニングでビルドアップの出口を見つけるというものでした。シャビ・アロンソは相手の2トップの間にポジショニングしたり、味方のセンターバックの間に落ちることで、相手の守備の基準点をずらします。チアゴ・アルカンタラは左サイドエリアを主戦場とし、サイドバックの位置に落ちたり、2トップの脇のエリアを利用してプレーしていました。この2人の動きによって、マインツは2トップの振る舞いと、シャビ・アロンソたちにどこまでついていくかという判断をする必要がでてきます。マインツの答えは奪えそうな場面では連動するけど、無理はしない。捨てるのは相手がボールを保持することとしました。

シャビ・アロンソとチアゴ・アルカンタラの動きによって、マインツの攻撃的なプレッシングが常に発動する状況からは抜けだしたしたバイエルンですが、マインツは11人でしっかりと守備を固めています。次にどうするか。バイエルンの攻撃で目立ったのは左サイドからのゴリ押しでした。アラバロールのようにサイドバックが中に入ることで、ウイングのドグラス・コスタのパスコースを確保すること。後方からのサイドチェンジでドグラス・コスタやコマンがサイドから突破のドリブルで仕掛けること。中に入っていったラフィーニャをそのまま使うこと。

個人技で勝るバイエルンですが、個人が力量を発揮するような局面(例えばドグラス・コスタに時間とスペースを与えること)はあまりできていませんでした。マインツのスライド、執拗な守備に苦しんでいたのは間違いありません。また、アラバ、ハビ・マルティネスがオープンな形になったとしても、前線の動き出しに決まった形はみられないことが多かったです。つまり、後方のビルドアップ隊は機能しているんだけど、そこから先のエリアでは良いアイディアを出せなかったバイエルン、または出させなかったマインツとなります。

試合が動いたのはサイドチェンジから。コマンがサイドからエリア内に切れ込んでPKを得ます。しかし、これをミュラーのシュートは枠の外へ。試合は動いたようで動きませんでした。この場面のコマンの突破は見事でしたが、90分試合に貢献するという意味では物足りなさが残るコマンでした。でも、結果は出すんですけど。ポゼッションチームにおいて、得点を取ることは超重要なのですが、ボールタッチが多い、つまり、プレー機会が多いチームにおいて、プレーに安定感がないと安心して起用できなくなってきます。まだまだ若い選手なのでこれからでしょうが。

前半のバイエルンはドグラス・コスタとコマンの位置を入れ替えるくらいで、特に動きは見られませんでした。動かない代償として、マインツ側のチャンスもほとんどありません。デ・ブラシスの個人技が炸裂し、武藤が惜しいシュートを打った場面くらいでした。マインツからすれば、上手く守れているけど、相手のミスやこちらの個人技が爆発でもしない限りはちょっと何も起きなそうな前半戦となりました。そして自分たちの動きで何かを起こそうとしても、チアゴ・アルカンタラとシャビ・アロンソのサポート、そしてノイアーが蹴っ飛ばすによって、防がれてしまうという循環になっています。

後半もグアルディオラは動きません。4-2-3-1を継続。いわゆる前線の選手がビルドアップの出口となれないケースでチームに違いを生み出すのはゲッツェなので、ゲッツェの登場を待ちます。バイエルンが修正したことは、レヴァンドフスキのポジションを落とすことで、ロングボールの的にすることくらいでしょうか。それくらいにバイエルンのビルドアップがロングボールになってしまうケースが多かったことを意味します。

そんな試合が本当に動いたのは51分。右サイドでボールを受けたコマンのクロスをレヴァンドフスキが頭であわせてバイエルンが先制に成功します。中央をしぼって守るマインツに対して、アラバロールや外からの攻撃を志向していたバイエルンの攻撃が実った瞬間とも言えます。レヴァンドフスキはファ-サイドのセンターバックとサイドバックの間にポジショニングしていて、このエリアを狙ったポジショニングはバイエルンの選手たちに良く見られる傾向にあります。

バイエルンはすぐにミュラー→ビダル。とうとうビダルがトップ下、というよりはゲッツェが出ないのかと。チャンピオンズ・リーグを睨んだ交代策でしょう。ミュラーは得点は決めるけど、ビルドアップや中盤を助けることは苦手としています。その動きはビダルのほうが得意で、ビダルは中盤に落ちることで、相手の注意をひき、チアゴ・アルカンタラがより時間を得てプレーをするように試合は変化していきます。

先制されたことで、マインツはゆっくりとチームの体を失っていきます。相手にはつくけど、周りの選手が斜め後ろのポジショニングをとらない。つまり、パスを通されまくるようになっていきます。前から行くのか、後ろで耐えるのかの意思統一も曖昧になっていき、徐々にバイエルンがらしさを発揮していきます。そして中央をビダルとレヴァンドフスキにわられ、追加点を許します。とどめはドグラス・コスタ。ドグラス・コスタが尋常でないスピードで左サイドをぶっちぎり、中央へのクロスを最後はコマンが決めて一気に3-0とします。

バイエルンはドグラス・コスタを下げて、ゲッツェをサイドで起用。色々と考えさせられる起用法でした。マインツも選手を交代しながらチームの意思統一をはかり、クロスバー直撃などのチャンスを作るがノイアーを苦労させることまでは行きませんでした。武藤は随所でいいプレーをしていましたが、ゴールには届かず。これがゴールに届いていたら、レベルアップに必要な周りからの更なる評価と自信が手に入ったのだろうなと感じさせられます。

■気になったグアルディオラの采配

ゲッツェのことは横においておいて。今日のバイエルンはノーマルでした。今までのバイエルンは相手の骨格を殴り倒すようなサッカーをしてきたのですが、今日は正面から相手と向き合った印象です。外外のボール循環、セントラルハーフ落とし、サイドチェンジ、アラバロールによるパスコースの確保と非常にノーマルです。ここで、問題になるのはなぜノーマルに戦ったのか、となります。

ノーマルに戦うことのメリットは、チーム力で勝るチームが最終的には勝つ可能性が高い、というものです。相手に隙をみせない代わりに、こちらは個で勝る部分で勝負を続ける。そうすれば、確率的には個で勝るチームのほうが決定機の数が多くなるものです。例えば、ドグラス・コスタとコマンがサイドから仕掛け続ければ、そのうちに相手は崩れます。実際にこの試合でも失敗もあれば、成功もありました。だったら、無理せずにボール保持を安定させながら、彼らが勝利する瞬間を待ち続けることは強者の理屈としては理にかなっています。マインツにはそういった部分もなければ、そういった機会を必然的に作ることもできていませんでした。

また、バイエルンは相手のカウンターを苦手としています。ポゼッションチームの宿命ですが、バイエルンの場合はシステムの変化が攻守の切り替えに多大な影響を与えています。3→4バックへの変化で守備をする場合もあれば、そのまま守る場合もあります。いるべき場所に選手がいないという現象をこの数字の変化はもたらすことがあります。だったら、最初から4バックで守れば、そういった隙は消えます。

今日のグアルディオラは相手の良さを消しながら、自分たちの良さをちょっとだけ出すような手堅い采配をしました。いつもだったら、相手を全力で殴りに行き、時には殴りかえされるのがグアルディオラでしたが、急に見せた大人の表情がいったい何を意味するかはチャンピオンズ・リーグとか優勝が決まるような試合でわかるのかもしれません。

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