ドルトムントのスタメンは、ビュルキ、シュメルツァー、メリノ、ギンター、パスラック、ヴァイグル、ローデ、プリシッチ、モル、ゲッツェ、オーバメヤン。国際Aマッチデーで、多くの選手が怪我をして戻ってきたドルトムント。それでもメリノ以外はお馴染みのメンバーがスタメンに揃っている。ベンチには香川、デンベレ、バルトラ、懐かしのヌリ・サヒンと、層の厚さを見せつける格好となっている。ミッドウィークにはチャンピオンズ・リーグも控えているので、これ以上怪我人が出るとさすがにきつくなっていきそうだ。でも、ロイスは復帰間近らしい。
ヘルタ・ベルリンのスタメンは、ヤースタイン、ラングカンプ、プラッテンハルト、ヴァイザー、ブルックス、シュタルク、シュトッカー、シェルブレット、エスヴァイン 、原口元気、イビセヴィッチ。3位のヘルタ・ベルリン。スタートダッシュに成功したシーズンは、かなり久々らしい。怪我人の影響で、ブルックスがセンターバック、センターバックを本職とするシュタルクが中盤で起用された。2位と3位の直接対決なので、嫌でも盛り上がるシグウナル・イドゥナ・パーク。ボール保持を得意とするドルトムントにどのように対抗するかが注目された。
アトレチコ・マドリーの守備の変容とドルトムントの攻撃の変容
試合内容に行く前に、アトレチコ・マドリーの守備の変容について少しだけ寄り道をする。何年も前から吾輩は、様々な状況に対応できるように、様々なサッカーをできるようにならなければいけないと書いてきた。例えば、ボールを保持するサッカー、ボールを保持しないサッカーの両立。プレッシング開始ラインを自分たちで設定できる守備。撤退守備と相手陣地からの守備。定位置攻撃とトランジション、速攻の両立などなど。絵空事のようだが、同じ局面が続けば、自然と相手も慣れてきてしまうものだ。よって、様々な策で相手に迫っていく必要がある。もちろん、とある局面に特化することで、一点突破を狙う考えもあるだろう。それを否定するつもりはまったくない。ただし、いざという時に足を引っ張られるかもしれないが。
アトレチコ・マドリーは、多彩な守備の仕組みを持っている。相手陣地からの攻撃的なプレッシングをしたかと思えば、全員で自陣に撤退する守備もできる。選択できる守備の幅が、アトレチコ・マドリーの攻守の鍵になっていることは間違いない。その一方で、シメオネ×アトレチコ・マドリーは、ときどき面白いことをする。プレッシング開始ラインの上下はあれど、守備の形は基本的に一定の方がいい。攻撃と異なり、不安定感が守備にもたらすものは少ないと考えられているからだ。攻撃の場合は、個人技爆発という変数があるので、不安定さがときにチームを助けることがある。
しかし、シメオネのアトレチコ・マドリーは、守備が機能しているのにも関わらず、システムを変更することがある。真意は不明だ。4-4-2と4-1-4-1を行ったり来たりすることがある。考えてみれば、とあるポジションのスタミナの浪費を防ぐという考え方がある。もっともらしい考えだが、ピッチの上では相手が少しとまどう場面が出てくる。4-4-2と4-1-4-1の推移によって、相手の攻撃方法も変化を強いられるからだ。アトレチコ・マドリーの守備の基準点、カバーリング役割の変化は、相手にメリットもデメリットももたらす。システム変更に対して相手が適応する時間を、アトレチコ・マドリーは稼ぐことができる。どこまでがシメオネが意図しているかはわからない。最初に述べた様々な策ができるようになるべきだの策の意味が、ゆっくりと変わってきているような気がする。そんな差異をこの試合でドルトムントは見せることに成功した。
ヘルタ・ベルリンのドルトムント対策
この試合のドルトムントは、3バックビルドアップを採用した。サイドバックの片方を上げる形となる。ヘルタ・ベルリンのプレッシングを嫌がった節もあるが、初スタメンのメリノにプレッシングがかかりにくい状況を作りたかったのかもしれない。
ヘルタ・ベルリンは4-4-2で試合に入ったようにみえたが、すぐに4-1-4-1になっていた。ドルトムントは2バック+アンカーと3バックのビルドアップスタイルを持っている。2バックのときは、4-4-2で、3バックのときは4-1-4-1でと決まっていたのだろう。ドルトムントボールで試合は始まったのだが、最初のセットは4バックで始める小細工をするトゥヘルは、なかなか憎いと思う。
ドルトムントの狙いは、相手を引き出して空いたスペースを使う。両脇のセンターバックが相手のサイドハーフをひきつけて、味方のウイングバック(プリシッチやシュメルツァー)にボールをつける。相手のサイドバックが出てくるので、プリシッチは2択を行なう。カット・インするか、ゲッツェを使うか。ゲッツェの動きで相手のセンターバック(この図ではブルックス)を動かしたい。ゲッツェにボールが入れば、プリシッチが追い越す動きを見せることで、ゲッツェに選択肢を与える。このような形を狙っていたと思うが、定跡は相手にも読まれるのが常だ。
ヘルタ・ベルリンはサイドハーフが走る。ボールを保持した両脇のセンターバックに寄せる→相手のウイングバックまで走る。もちろん、2度追いが間に合わないときは、サイドバックがヘルプに出る。ゲッツェに対しては、シュタルクがほぼマンマークで対応する。よって、ヘルタ・ベルリンは5-4-1のような形で守備をする場面が目立った。5バックによって、サイドバックが相手のウイングバックを撃退しやすい環境となった。中盤のシェルブレッド、シュトッカーは、ローデとヴァイグルを徹底的に追いかけ回すことで、センターバックからのビルドアップの出口として機能させなかった。
ドルトムントの形としては、メリノがドリブルをする→シェルブレッドが出てくる→ローデがうまくボールを受けるくらいが前半の形だった。モルは中央にいたままだったこともあって、右サイドのゲッツェ、プリシッチのようなコンビネーションは出てこなかった。ただし、右サイドのコンビネーションも序盤に機能性をみせただけで、シュタルクの役割がはっきりしてからは、ヘルタ・ベルリンにカウンターをくらう場面が多かった。カウンターで活躍したのは原口元気。フィニッシュに行くというよりは、突破と運ぶドリブルを使い分けながら、チャンスメイクに奔走していた。
なお、後半になると、モルがサイドに流れるようになり、得意のドリブルでセットプレーの機会を得るようになる。恐らく、前半は一度だけしかサイドに流れなかったけれど、ハーフタイムでしっかりと修正したのだろう。また、ギンターが相手の裏に放り込み始める。前半には見られなかった形だった。修正と新しい手を使いながら、そして、残り30分になると、デンベレと香川が登場し、ドルトムントの攻撃が変容する。
ドルトムントの攻撃の変容について
変容前の役割を整理する。3センターバックはビルドアップの起点。両脇のセンターバックは運ぶドリブルで相手をひきつけて、味方に時間とスペースを与える。横幅隊はプリシッチとシュメルツァー。アイソレーションにはならないが、プリシッチは突破でも違いを見せていた。モルとゲッツェはライン間を狙いながら、ボールが横幅隊に入ると、サイドに流れる。ゲッツェはライン間をふらふらする場面が特に多かった。オーバメヤンは相手のセンターバックとどつきあい。ただし、前半はロングボールが少なく、ローデ&ヴァイグルが抑えられてしまっていたので、そもそもどつきあいをする場面が少なかった。
香川真司とデンベレの登場で、ドルトムントの攻撃のスタイルは大幅に変更する。昨年のグアルディオラ×バイエルンもよくやっていた手だ。2つの攻撃方法を使い分ける。ポゼッション地獄のような配置から、オーソドックスなスタイルに変更する。ドルトムントの攻撃方法の変更で厄介なことは、ポジションにおける選手の役割が大幅に変更になることだろう。例えば、モルとプリシッチは得意のサイドからの攻撃に集中することができるようになる。ビルドアップの枚数も変化して、デンベレと香川真司は中央でのポジショニングに集中できる。そして、ヘルタ・ベルリンは慣れていた守備、機能していた守備から大幅な変更を強いられた。
ヘルタ・ベルリンは4-4-2に変更する。しかし、4-5-1のときに行っていた守備の癖がなかなか抜けなかった。セントラルハーフコンビはローデやヴァイイグルにしていたように、マンマークの守備をする場面が多かった。よって、オーバメヤンのポストプレーが目立ち始める。また、2バック+アンカーに対して、ヘルタ・ベルリンは第一守備ラインのプレッシングが乱れてしまう。両サイドハーフはドルトムントのサイドバックに気を取られ、セントラルハーフはデンベレと香川についていってしまう。また、3バックでの運ぶドリブルに慣れたメリノと前に出られなかったギンターが積極的に相手の陣地に侵入することで、攻撃に厚みを加えていた。
さらに、5バックで守っていたヘルタ・ベルリン。ドルトムントのシステム変容によって、サイドバックはプリシッチとモルを抑えなければいけない。中央にしぼると、香川が何度もチャレンジしていたように、大外の相手に時間とスペースを与えてしまう。だから、外に行くと、5バックとは違い、センターバックとサイドバックの間にスペースができてしまう。ビルドアップ隊がオープンでセンターバックとサイドバックの間にスペースができると、あとは攻略するだけ。ドルトムントは猛攻を見せ、オーバメヤンのループと同点ゴールの場面で、ヘルタ・ベルリンのセンターバックとサイドバックの間を攻略することに成功した。また、猛攻のなかで、香川のシュートが原口の手にあたりPKになるが、このシュートをオーバメヤンは外してしまう。
定位置攻撃、カウンター、速攻などの策を使い分けるというよりは、定位置攻撃の仕組みそのものを変容させることで、相手に新しい攻撃に慣れる時間を与えないトゥヘル。残り30分はドルトムントが面白ように攻めることに成功した時間帯だった。ヘルタ・ベルリンも後半の開始直後に先制点を入れて、チームのプランが完璧に機能していたことを証明したが、残り30分でその証明は覆された。ドルトムントからすれば、逆転まで行きたかったけれど、最後にモルが退場し、そのあとにはシュタッカーも退場するおまけつきで試合は同点のまま終了した。
ひとりごと
ドルトムントは2つのシステムからなる定位置攻撃を持っている。その両者を同じ選手で使い分けることができれば、相手はかなり混乱するだろう。今のところは少し難しそうだけれど。そんな未来を見越して、デンベレを中央で使っているのかなと感じさせられた。
香川真司は3バックビルドアップだと、出番がなさそう。怪我人が多いのでスタメンか?と報道されたが、ヴァイグルと横並びだったら、ローデや怪我をしているカストロが優先されるのはよくわかる。2バックの場合は、ライン間で仕事をすることに集中できるので、香川が起用される理由はよくわかる。ただし、両方ができるカストロと勝負するには、ヴァイグルの横でもプレーできることを証明しないといけないのだろう。
原口元気は攻守に奮闘していた。自分がフィニッシュに絡む場面は少なかったが、カウンターの起点として味方のフィニッシュに繋がるようなパスを何本も通していた。欧州で守備力が身についたといわれているが、相手にボールを保持されることが多いチームにいれば、自然とそうなるのだろう。そうならない場合は、日本に帰ってくるのではないだろうか。代表戦のあとでもリーグ戦でフル出場だったことは、チームの核として信頼されている証拠だろう。
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