【求められる戦術の幅】浦和レッズ対鹿島アントラーズ【求められる局面ごとのレベルアップ】

マッチレポ2016×Jリーグ

ファーストレグを1-0で勝利した浦和レッズ。絶対的に有利な状況で埼スタでの試合を迎えた。鹿島アントラーズは2得点以上を取らねば話にはならない状況で、埼スタに乗り込む形となった。個人的には、懐かしのサントリーシリーズ、ニコスシリーズの時代に行われていたチャンピオンシップのレギュレーションのほうが納得できる。ただし、この複雑怪奇なレギュレーションも今季でおしまいなので、ああだこうだいったところで、ほとんど意味がない。地上波で放送された意味とは、という振り返りをしてほしいが、たったの2シーズンでその振り返りが意味をなすかも、また闇の中である。

関根と柴崎の攻防

両チームのスタメンはこちら

myboard

序盤のキーマンはこの2人であった。

myboard1

2得点が必要な鹿島アントラーズは、ファーストレグに見せたような守備を行わなかった。この試合で見せた鹿島アントラーズの守備は相手陣地からの攻撃的なプレッシングだ。センターバックの前に位置する柏木に対しても、永木が突撃することで、同数によるプレッシングを行った。ファーストレグを思い出すと、浦和レッズが3バックと4バックのビルドアップを使い分けるほどの余裕があった。しかし、この試合ではそういう余裕を与えない速さを伴ったプレッシングをすることで、鹿島アントラーズは試合の主導権を握ろうと画策した。

ミシャ式への対策と言えば、5トップへの数合わせだ。しかし、前からプレッシングモードの鹿島アントラーズにそんな余裕はない。よって、浦和レッズはウイングバックの選手が時間とスペースを得られる仕組みになっていた。よって、関根サイドからの攻撃が非常に目立つようになる。関根にボールが入ったときに柴崎がプレスバックすることがチームの役割として求められていたかは定かではない。ただし、結果として、柴崎が戻ってくることは少なかった。肉を切らせて骨を断つような策だが、7分にはこの柴崎&山本サイドを破られて失点している。

トランジションで誰が誰を捕まえるか

myboard2

失点をしたことで、何かが劇的に変化した、というようなことは見受けられなかった。ただし、鹿島アントラーズがボールを保持する展開が増えていく。その仕組みは、2センターバックと2セントラルハーフによる数の論理で迫るようなビルドアップスタイルだ。サイドバックを高い位置にポジショニングさせる4-2-2-2が鹿島アントラーズの伝統と言っていいだろう。ファーストレグではあまり見せなかった鹿島アントラーズの日常を、この試合では序盤から出してきた。浦和レッズの立場からしても、2失点をしなければ良いので、自陣に撤退して守る選択肢も非論理的なものでは決してなかった。

浦和レッズの撤退スタイルは5-4-1だ。サイドハーフが相手のサイドバックに従属し、6バックになるのが4バックの恒例行事なってきている昨今。浦和レッズの場合は最初から5バックで守っていることもあって、サイドハーフがウイングバックの位置まで下がることはほとんどない。もしも下がれば、7バックという奇妙な光景に出くわすことになる。よって、下がりすぎる必要のない武藤、高木の位置がカウンターの起点として機能していた。山本、西も上がっていく鹿島アントラーズのスタイルにとって、ボールを奪われたときにどのように浦和レッズのシャドウを捕まえるかは、なかなかの無理難題であった。

よって、先制点後も浦和レッズに決定機が続いていく。結果論になってしまうかもしれないが、このような場面で相手にとどめをさすことができるようになれば、武藤は日本代表に選ばれ、定着するようになるかもしれない。鹿島アントラーズはぎりぎりのところで、命拾いをしながらセットプレーや定位置攻撃からの速攻で浦和レッズのゴールに迫っていった。ちなみに、鹿島アントラーズの攻撃は、槙野&宇賀神サイドを狙い撃ちにしていた。攻撃の策は、6トップのようになり、ポジションチェンジを活発化させながら、マークを外す。クロスは大外に選手を準備することで、浦和レッズのセンターバックとウイングバック周りを狙い撃ちにしていた。

相手の形に応じて、自分たちの形を変えられるか

myboard3

時間がたつにつれて、決定機こそないものの、鹿島アントラーズが試合を優位にすすめていくようになる。前述のビルドアップによって、小笠原、永木を起点とする攻撃を延々と繰り返すことができていた。さらに、鹿島アントラーズのプレッシングに対して、浦和レッズはロングボールでプレッシング回避を行なう場面が非常に多かった。ロングボールの先に空中戦の帝王がいるわけでもないので、ボールは自然と鹿島アントラーズに渡るようになっていく。

一番の厄介ごとが、5-4-1という形で、鹿島アントラーズのビルドアップスタイルを邪魔するためにはどうしたらいいかだった。別に2得点を相手に与えなければいいのだから、自陣にバスを止めているのも手だろう。しかし、追加点を取りきれなかった浦和レッズは、たぶん、通常のように振る舞いたかったのだろう。非日常感を出すと負けてしまうような感覚はあったのかもしれない。よって、相手を押し込めたり、セットプレーの再開では前からボールを奪おうとする意思を見せる。撤退すると、前から奪うためには、阿部や柏木を動かす必要が出てくる。それには相応のリスクがかかってくる。だとすれば、状況によって奪いにいけるようなときは行きましょうスタイルで落ち着く。

そして、この姿勢が裏目にでる。相手陣地でボールを奪いに行くが、鹿島アントラーズにあっさりとかわされて速攻がスタートする。たぶん、宇賀神が遠藤に吹き飛ばされ、遠藤のクロスを金崎が決める。狙っていたウイングバックとファーサイドをスカウティング通りに崩した格好となった。前半も終了間際の失点だったので、浦和レッズからすれば、相手陣地からボールを奪いに行く必要があったのかどうかが鍵となる。ただし、今季はそれをやってきたのだよと言われてしまうと、まあしょうがないよねという感想になってしまうが。なお、前半の残り5分は柴崎と遠藤の位置を入れ替えて過ごすリアリストの鹿島アントラーズだった。無論、遠藤は下がります。

相手の弱みを狙い続ける鹿島アントラーズとペトロビッチの采配

myboard4

後半の浦和レッズは、西川にボールを下げてボールを繋ぐ意思を見せる。しかし、この試合に勝てばどうこうなる鹿島アントラーズにとって、90分を走りきることは実は難しくない。シーズンを通じては難しいが、1試合限定ならどうにかなる。よって、西川を使っても最終的にはロングボールを蹴っ飛ばすことになる浦和レッズに必要な選手は空中戦の的であった。その的が登場するのが3人目というところがなかなか悲しいペトロビッチの采配であった。

鹿島アントラーズは鈴木を投入し、徹底的に宇賀神を狙い撃ちにする。ハイボールや楔やらで根性をみせる鈴木に対して苦戦する宇賀神。この位置にセンターバックの選手を入れれば守りきれそうな浦和レッズだったが、交代したのは関根→駒井で逆サイドであった。その後に高木→青木で守備固めをする。この交代の意図はなかなか興味深かった。柏木がシャドウの位置に入ると、ボールがスムーズに繋がりそうだ。その理由は、柏木が下りてくるポジショニングで違いを作れそうだからだ。しかし、鹿島アントラーズのプレッシングにたじたじであったことは継続しており、その狙いはほとんど出てこなかった。

青木と阿部のセントラルハーフは、フリー状態の小笠原と永木へのプレッシングを試みる。恐らくディフェンスラインを上げる、もしくはライン間をセンターバックで撃退する設計になっていたのだろう。しかし、鹿島アントラーズのロングボール、裏への執拗な飛び出しにディフェンスラインは連動しなかった。こうして選手を入れかえることで状況打破を狙ったペトロビッチの狙いはことごとく外れることとなる。

鹿島アントラーズの采配は遠藤→鈴木のあとは、恒例になっている小笠原→伊東だった。交代に怒る小笠原。しかし、ベンチ横で指示を出している姿は、EUROのクリロナを思い出させる場面だった。

鹿島アントラーズの逆転ゴールは、カウンターから生まれている。有利な状況のチームがカウンターを受けるんだとなりそうだが、浦和レッズもカウンターを仕掛けたあとの出来事だった。ボールを奪った宇賀神のプレーから、浦和レッズはゴールを狙う。しかし、鹿島アントラーズに止められるが、相手陣地で奪い返そうとする。ボールが両チームを往来するなかで、浦和レッズは鹿島アントラーズにカウンターを受ける展開となってしまった。槙野の謎のスルーの結末は鈴木を槙野が倒してPKを献上。なぜイエローで済んだのかは誰にもわからない。このPKを金崎が決めて、鹿島アントラーズが逆転に成功する。

足りなかった戦術の幅

その後のロスタイムを含めた15分の時間で浦和レッズが見せた攻撃は、いわゆるスクランブルアタックであった。槙野を前線に上げるパワープレー。ただし、槙野やズラタンに放り込みまくるわけでもなかったので、意思統一がうまくできていなかったのだろう。形としても、不安定なものとなってしまっていた。

サンフレッチェ広島がトライしていたらしいが、こういうときのために3-1-4-2にチャレンジしていれば、話は違ったのだろう。ただし、ミシャ式と評されるように、ペトロビッチのサッカーは形がはっきりとしている。よって、4-4-2→4-3-3→4-1-4-1と相手の形に応じて、自分たちの形を変えることが当たり前の世界の流れとは独自の道を突き進んでいる。それゆえの強さというのも捨てがたいものがあるが、残り15分では偶然性に期待するしかなかったこともまた事実だろう。

浦和レッズに足りないものがあったとすれば、形を変えた攻守の形だろう。鹿島アントラーズのビルドアップを4バックで撃退できれば、試合の形はまるで違ったものになったろう。また、残り15分で3-1-4-2を準備してきていれば、鹿島アントラーズもさらに苦戦していたかもしれない。ファーストレグにみせたようなビルドアップスタイルの変化をセカンドレグでも浦和レッズが見せられるような策を持っていなかったことが非常に苦しい試合になった遠因だろうか。守りきりに成功した鹿島アントラーズがCWCへの挑戦権を得ることになった。

ひとりごと

一発勝負では何が起こるかわからない。もっと言えば、どのようなサッカーが必要とされるかわからない。もしかしたら、いつもどおりに戦うことが求められるかもしれない。もしかしたら、いつもどおりのサッカーではどうにもならない状況になってしまうかもしれない。リーグ戦ならただの負けになるが、一発勝負ではそうはいかない。そんなもしものときのために準備を惜しまない姿勢が浦和レッズには求められていくのだろう。

自分のイメージで鹿島アントラーズは、戦術の幅がある。撤退守備もできるし、相手陣地から攻撃的な守備もできる。ボールを保持できるし、カウンターもできる。ただし、それぞれのレベルが高いかと言われれば、高くはない。だから、年間の順位は低かったのだろう。ただし、状況に応じて必要なことができる選択肢の多さが鹿島アントラーズが勝負強いと言われる所以かもしれない。

コメント

  1. しげ より:

    槙野がイエローなのは新ルールが適用されているからですね

タイトルとURLをコピーしました