チャンピオンズリーグやアジア・チャンピオンズリーグが盛り上がる傍らで、ヤマザキナビスコカップ。欧州で行われているカップ戦のように、若手、もしくは出場機会の少ない選手の活躍する場として変化しつつある。もちろん、チームによってはリーグ戦とあまり変わらないメンバーで戦っているケースもある。まるで示し合わせたかのように、この試合ではリーグ戦から両チーム共に9人もスタメンを入れ替えてきている。
■4-4-2→4-1-4-1
この試合の最大のニュースを決めよ、と言われれば、迷いなく清水の守備の変化だろう。この試合の清水は4-1-4-1で守備を組織した。
今までの清水は4-4-2で守備を組織していた。そして、高い位置からの積極的なプレッシングを行っていた。ただし、どの位置から?ボールを保持している相手がどのような状態のとき?相手のボール運びのいつ?という状況がチーム全体で共有されているように見えなかった。よって、前線隊が見殺しにされる、または暴走する→1列目と2列目の間のスペースを相手に支配される。または、2列目の選手が強引に前線の選手に単独で連動する→守備に穴をあけることになり、相手に攻撃の出口を与えてしまうケースが多かった。
4-1-4-1にしたことで、役割がはっきりした。大前と竹内は相手のボランチを観る→ベガルタ仙台のセンターバックから中央を使った前進を防ぐ。センターバックからサイドバックにボールが出たら、若手コンビが相手のサイドバックを強襲する→センターバックにボールが戻ったら、理想は大前たちがスライドしてプレッシングをかける。というように、前線のプレッシング隊は同じ絵を描けていた。よって、ベガルタ仙台は短いパスを使った前進はかなり窮屈そうであった。
ただし、ベガルタ仙台は別に地上戦にこだわりを持っていないようだった。さっさとロングボールを蹴りこむ。プランAかプランBかは不明。杉浦で相手を動かして、サイドの奥行きの攻略を狙った。相手のセンターバックをサイドにおびき出すことで、その後のクロス作戦を有利に進めたかったのだろう。また、アウェーということもあって、清水の攻撃を準備された守備で迎え撃つために、ボールを失ったときのリスクを最小限に抑えた攻撃を志向していた可能性が高い。
■長沢への放り込み
ベガルタ仙台の攻撃を跳ね返しながら、清水エスパルスにも攻撃の順番は回ってくる。清水エスパルスはボールを繋ぐことに何のこだわりも見せずに、長沢に放り込みを続ける。基本的にはサイドハーフが中央に移動→サイドバックへ滑走路を準備する形を持っているが、この試合では放り込みが非常に目立った。長沢が空中戦で強さを見せたこと、セカンドボールのサポートに若手軍団が準備されていたこともあいまって、清水エスパルスは効果的にボールを進めることができていた。
また、相手が空中戦への対応、全体のラインを中央に閉塞させるようになると、今度は地上戦、特にサイドから攻撃を仕掛けていく駆け引きをみせることもできていた。北川、金子は積極的な姿勢を見せる。攻撃参加のために起用された枝村のオーバーラップを待たずに仕掛ける姿勢を見せた北川は特に積極的。中央に移動してからも2人ともに高い技術を発揮していた。そんな流れの中で、清水エスパルスに先制点が生まれる。若手コンビの仕掛け、囮からの大前のミドルが炸裂する。
■変容するベガルタ仙台だけれど
なぜ相手は4-1-4-1なのかと自問自答を始めたベガルタ仙台。前半のうちにいろいろといじりだすからこのチームは曲者。しかし、スタメン組でないことからアドリブがいまいちだったことは否めない。
たぶん、こういう絵があったはず。サイドバックの脱出には成功したけれど、ボールを前進させることはできなかった。捕まっている2列目が動かなかったこと。左サイドの山本がブレーキになっていたことなど、上手く行かなかった要素はたくさん。しかし、序盤のロングボール裏への飛び出しにしろ、効果的でないというほどネガティブなものではなかった。コーナーキックは得られていたし、ゆっくりと相手の守備を見ながら自分たちの形を最適化していく作業の中で、ベガルタ仙台は金園がスーパーなゴールを決めて同点に追いつく。
■両監督の采配
同点で始まった後半戦。ベガルタ仙台が変化を見せる中で、清水は愚直に続ける。それは一進一退の攻防であった。それだけ清水の長沢の存在感が大きかった。ボールを保持するチームでも困ったときのロングボールを準備しておくことはメンタル的にも大きい。ベガルタ仙台はボールを地道に前進させる選択が増えていくが、前述の理由でうまく事が運ばなかった。
62分に両チームが同時に動く。三浦が怪我をしたので、三浦→石毛。村松をセンターバックに竹内をアンカーに、石毛をインサイドハーフに。アンカーの村松は空中戦でも強さを発揮していたが、ベガルタ仙台の空中戦が落ち着いてきたので、悪くない采配。なお、竹内はいつ観ても上手い。ただ、途中でパスアンドゴーで相手の陣地に突撃する→カウンターをくらうの構図は周りをドキドキさせた。竹内アンカーで清水エスパルスのボールを保持したときの攻撃の精度は増していった。
ベガルタ仙台は山本→ウィルソン。4-4-2に変化する。そして、すぐに山本→梁勇基。梁勇基に中盤中央のサポートをさせる→ウィルソンが枝村サイドに流れるという極悪な手に出るベガルタ仙台。しかし、竹内の活躍もあり、枝村の攻撃参加も光り始めるからまさに両者の刺し合い。なお、枝村のサイドバックは守備面では怪しさつのっていたが、攻撃面ではクロスマシーンとして機能していたと思う。
次に北川→澤田。この澤田がすぐに仕事をする。行ったり来たりのセカンドボール合戦を大前が気合の潰れ役→澤田が独走し、そのままゴールを決める。
追いつきたいベガルタ仙台は武井→茂木。梁勇基を中央に、茂木は右サイド、杉浦は左サイドで勝負に出る。梁勇基が中盤に入ることで、はっきりと試合が動き始める。サイドバックが狙われたエリアから移動したように、梁勇基は相手のプレッシングが届かないエリアからプレーを始める。清水エスパルスはどこまでついていくかの整理がなされずに、徐々に怪しい雰囲気が漂い始める。
残り時間はひたすらに耐え忍ぶ清水エスパルス。パワープレーも含めたベガルタ仙台の決定機は少なくとも3つはあった。全て決まっていれば余裕で逆転。しかし、耐え忍ぶ清水エスパルス。もう理屈ではない。キーパーのスーパーセーブあり、相手のシュートが真正面に飛んだり、ゴールに吸い込まれそうなボールにフィールドプレーヤーがぎりぎり間に合ったり。こうして守りきりに成功した清水エスパルスが久々に勝利することに成功した。
■独り言
敗戦のベガルタ仙台だが、おそらくダメージは少ない。虚をつかれた清水エスパルスの変更に手を打てる監督。そして、その変化を具現化してチャンスを作ったスタメン組のプレーを見ていると、まあこういう試合もあるだろうね、くらいの感想だろう。欲を言えば、スタメン組の奮起が結果となって現れていればいうことなかったと思うが。
清水エスパルスは奇襲成功。守備も整理されていたと思う。ただし、相手がその守備に対応してきたときの準備はない。よって、ベガルタ仙台がスタメン組で前半から臨んでいたと仮定すると非常に怪しい試合になったかと。こういった相手の変化に対して、怪我の功名の竹内アンカーがどこまで計算に入っていたのか非常に気になる。ただし、長沢への放り込みとボール保持の組み合わせにはどのチームも手を焼くに違いないので、今日のゲームプランをリーグ戦にどれだけ持ち込むかは非常に注目される。
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