突然のレアンドロの離脱。そしてサガン鳥栖に蹂躙され、セカンド・ステージでも歴史が繰り返されるのかと、誰もが感じていた。しかし、前節はウノゼロで勝利。横浜F・マリノスの攻撃に圧倒されたのは事実だが、システムを変えながら柏レイソルは懸命な守備を見せた。そして、もたらした結果がサポーターに淡い希望を与える。ACLのグループステージの初戦で見せたように、ボールを保持しなくてもサッカーはサッカーだ。周りからの信頼獲得という意味でも、喉から手が出るほどほしい結果を求め、目を覚ましつつある柏レイソルの今日の相手は、川崎フロンターレ。
強襲!ドルトムントをプラスに変えられるかどうか。その点で川崎フロンターレに注目が集まっていた。年間勝ち点で上を行くFC東京を一蹴し、流れはポジティブなものに見えたかけた。しかし、天災は忘れた頃にやってくる。レナトが離脱。曲者ことサガン鳥栖には引き分けることができた。今後は結果が出なければレナトがいないからだ、と言われる新たな状況に直面する。レナトの離脱をプラスに変えられるかどうか。それとも、単純にレナトの穴を埋められないという物量的な問題に直面するのだろうか。川崎フロンターレの命運やいかに。
■ポゼッション殺し
餅は餅屋。このことわざの解釈を少し変えてみると、餅屋の倒し方は餅屋に聞け。柏レイソルと川崎フロンターレは、基本的にボールを保持することを特徴としている。もちろん、個性やチームが違うのだから、両者の方法論には、多少の、もしかしたら多くの差異があるだろう。しかし、大枠では似た者同士である。つまり、自分たちの方法論を潰す方法を彼らは知っている。ボールを持つためには、相手にボールを持たせない方法論を持つ必要がある。また、紅白戦では自分たちのボールを保持する方法論を破壊しなければならない。この試合はある意味で自分たちの哲学をどのように打ち破るかという試合になった。
そんな姿を表したのは、川崎フロンターレに対する柏レイソルの考えであった。柏レイソルは無闇にボールを追いかけ回すことはしなかった。ボールを保持することを得意としているチームに対して、がむしゃらに走り回っても相手の攻撃のスイッチを入れることになる。また、自分たちの体力を非効率的に消費することになってしまうからだ。柏レイソルは相手のセンターバックを放置する意志を見せる。谷口と車屋コンビは時間帯、カバーリングの枚数も考えて、運ぶドリブルはあまり行わなかった。もしかしたら、そういった状況に関係なく、ミスを恐れて行わなかったのかもしれない。センターバック同士でパス交換を延々とするようであれば、工藤がプレッシングのスイッチを入れることで、相手の攻撃開始のタイミングを早めることに成功していた。
理屈で言えば、相手のワントップに対して、センターバックとアンカーがいれば、ボールを前進させることはできる。しかし、センターバックが横幅を取らなかったり、運ぶドリブルをしたりしなければ、理屈は機能しなくなる。谷口と車屋というコンビならばボールを運べる、という川崎フロンターレの計算は、状況を考慮したプレーなのか、ミスを恐れたプレーなのかは定かではないが、狂ってしまうこととなった。
そのため、前半は川崎フロンターレのビルドアップ隊からのパスを柏レイソルが止めて、ショートカウンターが発動する形で試合が進んでいった。柏レイソルの準備が良かったといえるが、川崎フロンターレからすれば、できることをやらない選手たちが悪いという論理になっていくのだろう。なお、川崎フロンターレの守備は基本的に死なばもろともスタイルでマンマーク気味に相手を捕まえていく。柏レイソルからすれば好物のプレッシングスタイルだが、川崎フロンターレのプレッシングは連動を見せていたので、ボールを失ってカウンターをくらうなんてことはなかったが、効果的に前進できていたかというとそんなことはなかった。横浜F・マリノス戦で見られなかったインサイドハーフ落としで何とかバランスを保つという実情であった。
相手の守備がセットされている状況ではあまり良さを出せなかった柏レイソル。だが、相手の守備が不安定、または分断されている状況では良い攻撃ができていた。というよりは、相手の守備が整っていないときにすばやく攻撃を仕掛けるという考えがチームで統一されていると言っていいだろう。自分たちの攻撃で相手の守備を整っていない状態にすることに拘らずに、相手が攻撃を仕掛けてくる→いい守備からのトランジション発生→すばやく攻撃を仕掛けるの循環は上手く機能していた。そして、その形から先制に成功している。
柏レイソルの守備で特徴的だったのは、相手がボールを前進すると、工藤の役割が変化することだった。大島担当に見えたが、途中で大島を離す。この役割変化を利用して、川崎フロンターレはボールを前に進める→大島を利用するの形が目立ち始める。しかし、効果的にボールを前進させられないのだから、フリーの大島を利用できる場面があまりなかった。前述のようにセンターバックが機能しなかったこともあるが、サイドバックからサイドハーフの形でボールを前進させられなかったこと、ボールを受けに下がってくる選手が捕まっている事が多かったことも理由としてあげられる。縦パスを入れる→攻撃をやり直すで相手のラインを下げさせたいのだが、それすらもまともにできてなかった。
この状況を変えたのが中村憲剛。大島の横に移動することで、相手の守備の基準点がずれ始める。それまではボールの位置でポジショニングを決定していたが、この動きによって、柏レイソルの中盤は徐々に相手依存のポジショニングになっていく。また、中村憲剛はサイドチェンジ、裏へのロングボールなどの長いボールを使うことで、ボールの前進、相手をスライドさせて離れさせることを狙ったプレーを仕掛けていった。相手の形に合わせて、自分たちの形を変容させることに成功した、といっても、それは中村憲剛の個人の確かな意思が試合を動かしたという話になるのだが。
■システムという言葉の意味
杉本健勇→井川で3-4-3に変更する川崎フロンターレ。後方の重たさを解消するために枚数を増やす采配。この采配で谷口、車屋が復活する。システム変更で一番大きかったのが、外外の復活。定石とはことなるが、ウイングバックが相手のサイドハーフの裏で受けられるようになるので、相手の守備ブロックを下げる楔のボールと同じ役割を果たせるようになった。このシステム変更で川崎フロンターレは一気に勢いを取り戻すことになる。
風間監督はシステムでサッカーをしないといっている。それは2つの意味がある。システムを決めることで、システムの奴隷になってはいけない。システムなど、相手の形によって適した形に変容させるものだ。中村憲剛が前半にみせたように。その一方でスタートポジションですべてが決まることもある。この後半戦にように。後半戦に限って言えば、川崎フロンターレはシステムで相手を圧倒し、システムでサッカーをした。風間監督はシステムを理解している一方で選手を信頼している。その姿勢がポイントを落とすことに繋がっているとしたら、今がすべての選手にとって、どうなのかは闇の中。
ボールを効果的に奪えなくなれば、相手の守備が整っている状況での攻撃が多くなる柏レイソル。または、相手に押し込まれているので、ロングカウンターが増えていった。局面の質的変換によって、自分たちが望んでいたような局面機会がどんどん減っていく柏レイソル。クリスチャーノ突撃が中心になっていく柏レイソルだが、前半にも見られた桐畑のスーパーセーブで何とか希望を繋いでいった。
柏レイソルは小林→太田を投入。太田をサイドに出し、ロングカウンターの勢いの維持をはかる。武富を中央に入れて、ゆっくりと守備固めの準備。川崎フロンターレは船山を投入。あとは選手に任せるだけ。柏レイソルは栗澤を投入し、4-4-2で守備固め。横浜F・マリノス戦でも見せたシステムへのこだわりを捨てた証明。それでも田坂からビックチャンスをつかむ船山。これを桐畑がまたもビックセーブで防ぎ試合はそのまま終了を迎えた。
■独り言
MVPを選ぶとしたら桐畑になるのかもしれない。ビックセーブを連発は言いすぎだが、失点してもおかしくない場面でしっかりと仕事をしていた。守備の形を変容させたり、サッカーのどの局面を噛み合わせるかなど、自分たちの弱点を上手く隠している印象。ただし、横浜F・マリノスも川崎フロンターレもボールを保持するからそれができたという話もある。次の相手はベガルタ仙台。先制されると気まずい展開になりそう。
珍しくも無得点で終わった川崎フロンターレ。ファーサイドで大久保でチャンスを掴むなど、今日は得点が入らなかったねという反省でいいかもしれない。反省するとすれば、前半と後半の落差だろう。それでも、前半もチャンスがなかったわけではないところはさすがか。次の相手は不気味な清水エスパルス。この相手で無得点だったらやばい。嘆くのはそのときでいいだろう。問題があるとすれば、システムの奴隷でない選手が少ないことかもしれない。でも、それは、また別のお話。
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