【両チームが感じさせた世界とのつながり】湘南ベルマーレ対川崎フロンターレ

マッチレポ2015×Jリーグ

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前節で浦和レッズに敗戦したものの、残留争いに巻き込まれるような位置にいない湘南ベルマーレ。昇格組としては大成功の結果と言ってもいいだろう。もしも、今季も降格しようものなら、チョウ・キジェと目指した道のりが間違っていたことになってしまう。歩んできた道のりを正しかったことにするために結果が必要とされ、それを自力で勝ち取っていくチームは素直に立派だ。あとはスタジアムの拡張とともに、チームがゆっくりと大きくなっていったらいいなと無責任に願う。

まさかのレナトショックに襲われた川崎フロンターレ。まさにヒーロー見参なタイミングで帰ってきた田坂がその穴を埋めてくれそうだったが、練習中に怪我。まじで川崎フロンターレは怪我人が多すぎる。そして、目に見えて減る得点数と増えない勝ち点。結果がでなければ、レナトがいなくなったからだねと煽られること間違いなし状況の川崎フロンターレ。この状況を打破したら、選手、監督ともに賞賛されそうなんだけど、やっひーが手品のネタを仕込むタイプには見えないので、誰かの覚醒待ちか、怪我からの復帰待ちか。

■湘南ベルマーレと世界

この試合の湘南ベルマーレの試合に臨む姿勢はアーセナル対リバプールを彷彿とさせるものだった。湘南ベルマーレは勇気を持って、ボール保持者にプレッシングをかけていく。それはボール保持者の前にただ立ち尽くし、ボール保持者に対して何の圧力にもなっていないようなプレッシングではなかった。このままボールを保持していたら、めんどくさいことになるぞと相手に感じさせるようなプレッシングをかけていた。

アーセナル対リバプールの試合も、悠長にボールをもたせませんよというメッセージを両チームが発していた。だから、その試合を流行の言葉をかりて、もう流行は終わっているかもしれないけれど、インテンシティが高い試合だと表現させてもらった。その試合と同じように、ボール保持能力の高い川崎フロンターレに対して、常にボール保持者にプレッシングをかける状況を創りだそうと取り組んでいた。ほのかに世界と日本がつながった瞬間である。

湘南ベルマーレのシステムは3-4-3。川崎フロンターレのシステムは4-4-2。川崎フロンターレのキーパーが繋げる印象はないので、高い位置からのプレッシングに対して、深さで対応することは困難だ。だからこそ、高い位置からの守備は効果的と言える。しかし、川崎フロンターレはポジショニング有利と数的有利を組み合わせて、見事にボールを運ぶことに成功した。もちろん、失点場面のようにゴールキックからのビルドアップでのミスは観られたが、前半に限って言えば、致命的なボールの失い方はほとんど観られなかった。

ポジショニング有利のキーマンは中央の選手たち。大久保、杉本健勇、中村憲剛、大島。湘南ベルマーレの中央は永木、石川。この選手たちが自由に川崎フロンターレの中村憲剛、大島にプレッシングをかける状況を作ってはいけない。だから、中村憲剛たちは永木たちの担当エリアから落ちる。そして、大久保たちは永木たちのエリアに現れる。曖昧なポジショニングがチームに有利に働く。相手の守備の基準点が揺らぐからだ。もしも、相手が3バックで迎撃スタイルになれば、川崎フロンターレは相手の裏に放り込むことで牽制をする。ただ、地上戦を進むだけではなくなっている。

そして、センターバックと相手のセンターフォワードの数的不均衡エリアから時間とスペースを前線に繋げていく。日本代表で中盤を任された谷口がセンターバックを担当するのだから強烈。また、中村憲剛、大島のボールを前に進める力には何度も驚かされた。もちろん、湘南ベルマーレはそれでも諦めないのだが、数的同数で襲いかかるなど、もっとリスクをかける方法もある。

三竿のパスミスから15秒で先制した川崎フロンターレだったが、自分たちのビルドアップミスから同点に追いつかれてしまう。川崎フロンターレは後方の有利を活かして、いわゆる自分たちの攻撃を仕掛けていくが、相手の陣地に侵入してからが上手くいかない。湘南ベルマーレも5バックで対抗するので、相手を外すといってもたくさんいるやないか!!という状況であった。よって、効果的な形をあんまり作ることができず。それでも大久保が絡むと攻撃が加速するのは彼が素晴らしい選手だという証明だろう。

むしろ、守備が相変わらず怪しかった。いや、その怪しさに拍車をかけていた。カウンターだけではない湘南ベルマーレのボールを保持した攻撃に対して、6バックになる川崎フロンターレ。相手のウイングバックに対する守備が定まっていないのかもしれない。試合中にサイドバックに任せてみたり、すると、相手のシャドウがサイドバックのほうに流れてきたりと、自動的に繰り返されるオフ・ザ・ボールの動きに対して、川崎フロンターレは役割がはっきりしないまま前半を過ごすこととなった。前半は1-1。

■川崎フロンターレと世界

後半から川崎フロンターレは5バックに変更。守備の役割をはっきりさせることが目的だろう。ボールを保持しているときは相手の3トップに対して3バックという狂気に満ちた采配だが、ここに風間八宏監督の思想がつまっている気がする。

前述のように、前半の川崎フロンターレは後方の数的有利とポジショニング有利でボールを前進させた。しかし、後半は数的有利がなくなった。湘南ベルマーレが前からの姿勢を打ち出せば、簡単に数的同数になる。相手の3バックポゼッションに対して、守備の基準をはっきりさせるために4-3-3で襲いかかるチームが欧州では見られる。その現象を自ら発生させた風間八宏監督の考えは、マンチェスター・シティのスターリングが教えてくれた。

サッカーのが上手いと言われる選手は、周りの選手に時間とスペースを与えられる選手だ。自分がプレーに関与することで、チームの状況が有利になるような選手のことを示している。しかし、サッカーが上手い選手にはもうひとつのパターンがある。それは時間とスペースがなくても別にかまわらないという選手だ。ハハッ、ぼくはひとりでもだいじょうぶだよ!!みたいな。

サイドバックから乱暴なパス、もっといえば、相手が側にいる状態だとしても、スターリングはボールを受けることを厭わない。ボールを受けると、時間とスペースがない状況を良いものにしてしまう。むろん、シルバ、アグエロもそういう選手たちだ。周りの助けがあれば、なお活きるのは間違いないが、サッカーはひとりでもできなくてはいけないことを彼らは教えてくれる。そんなことを思い出させる世界を感じた瞬間だった。

川崎フロンターレの後半のシステム変更は、一対一で負けなければチームが負けることはないという思想を感じることができる。相手の攻撃に対して役割がわかりにくければ、役割をはっきりさせる。で、負けるな。ボール保持しているときに数的有利になりにくくても、一対一に負けなければボールを運べるだろう?みたいな。そして、森谷→中野。いわゆるひとりでどうにかする選手が登場してくる。

川崎フロンターレのシステム変更は思いもよらぬ形で試合に影響を与える。川崎フロンターレは前から守っても実に機能していなかった。しかし、5バックに変更することで、自動的な撤退となる。湘南ベルマーレは押しこむ形も見られるが、ミドルシュートやサイドからのクロスに終始することになり、逆に川崎フロンターレのカウンターをくらうこととなる。この場面で躍動したのが大久保で彼も時間もスペースもなくても平気でプレーできる選手であった。

チョウ・キジェ監督も動く。最初に山田直輝。ワンタッチ、ダイレクトのプレーで味方に時間とスペースを与えられる選手を前線へ。そして、アリソン。単純なクロスでもゴールに結び付けられるようにと。

試合の決着は流行りのトランジション。湘南ベルマーレがこだわり続けたカウンター。諦めずに走り続けた古林のクロスをアリソンが頭で押し込んで湘南ベルマーレが逆転に成功する。

川崎フロンターレはいつのまにか出てきた船山。さっそく一対一のチャンスを秋元に止められてしまう。その後は猛攻につぐ猛攻。ここで輝いたのが中野。やっひー門下生。積極的なドリブルでの仕掛けからのシュートでゴールまであと少しと迫った。しかし、アリソンがシュートを打ったような場所からのシュートは最後の最後までなく、どこからシュートを打つのか、どうやってそこにボールを届けるのかを個人で行う、またはひらめきによるコンビネーションでやるにはさすがに難しい。でも、それができるようになれば、恐ろしい選手になれる。でも、プロが育成の場なのか、結果の場なのかはチームのスタンスによって違うのだろう。敗戦後に大久保がいつも怒っているように、川崎フロンターレがどちらに進んでいくかはわからない。

■独り言

セカンドステージを見れば、上位も狙えそうな湘南ベルマーレ。しかし、まだまだであるとチョウ・キジェ監督。でも、プレーオフにでられればとっても幸せなことだと思うので、頑張ってもらいたい。あとは永木が退場しなくてよかったねという試合でした。

川崎フロンターレは敗戦。誰がヒーローになるか。ヒーロー見参をただただ待ち続けることになりそうな予感。

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