病気や怪我で、ネイマールとメッシは欠場。過密日程を考えると、もう少し選手を休ませるかと予想されていたバルセロナ。しかし、ルイス・エンリケはガチ。いつものメンバーがスタメンに名を連ねた。リーベル・プレートが苦戦したこともあって、油断という隙を相手に与えたくなかったのかもしれない。まさに油断は大敵である。
広州恒大はロビーニョがベンチ。広州恒大を観る機会も少ないが、ロビーニョが試合に出ているのを見たことがない。あいも変わらず、良い選手と監督がいる。監督はルイス・フェリペ・スコラーリ。何度目の来日だろう。ちなみに、かつてはジュビロ磐田の監督であった。注目はパウリーニョ。ブラジル代表、スパーズで活躍した選手である。中国に行くには少し早くないかと誰もが思ったパウリーニョの決断であった。
■バルセロナのちょっとした相手との対話
広州恒大のシステムは4-4-1-1。基本は自陣に撤退して守備を固める。前線のエウケソンとグラル以外の選手は、ボール保持者に近いエリアになればなるほど、マンマークの要素が強い守備だった。恐らくバルセロナのポジションチェンジ、ライン間でボールを受ける対策を意識したのだろう。守りに集中すれば、個の勝負でも負けないという計算。メッシやネイマールがいないので、悪くない判断だと思う。厄介なスアレスには複数で対応できるし、イニエスタにはパウリーニョをぶつけることができる。
エウケソンとグラルの役割は前者がマスチェラーノとピケ、グラルがブスケツを担当していた。しかし、エウケソンはマスチェラーを追うだけ、グラルはピケに出てきたり出てこなかったりと計算できない守備を披露していた。恐らく、ピケやマスチェラーノから前線にボールをつながれることは、マンマークで対応するから問題ないと計算していたのかもしれない。だとすれば、ブスケツは空けてはいけないのだけど、グラルはふらふらと前に出てきてしまう場面が目立った。
では、バルセロナの攻撃を見ていく。
最初に動き出したのは、フリーのピケであった。自分たちに与えられた時間とスペースを前線に繋いでいくのがビルドアップ隊の仕事だ。ピケは運ぶドリブルによって、スペースを埋めながら、相手の準備された守備の役割(オレがマークするのはあいつだ)に迷いを与えていく。ドリブルでエリアに入ってくるピケの動きに対して、どこまでも放置するか、自分の担当するマークへのパスコースをきりながらよせるのが定跡の対策だ。広州恒大もその法則に従いところだが、空いた瞬間にどんどんボールは展開されていくこととなった。
次にボールの循環に変化がみられるようになる。バルセロナの攻撃に対して、広州恒大は中央閉塞。ボールサイドはマンマークだが、逆サイドの選手はかなりスライドして対応するようになっていた。よって、バルセロナはサイドチェンジを使って、ボールを前進させるようになる。ピケ発信の攻撃が多かったので、ジョルディ・アルバがサイドチェンジを受ける場面がみられるようになった。このサイドチェンジによる前進の連発によって、広州恒大の中央閉塞の守備がいわゆる通常の状況に変化していった。それは均等にスペースを埋めているといえるのだけど、標準のスペースの埋め方だとバルセロナは突破してしまうという罠である。
相手の守備を見ながら攻撃を仕掛けていくバルセロナ。次に見つけたのは相手の守備方法である。サイドチェンジを受けたジョルディ・アルバからセルジ・ロベルトを落として、相手のサイドバックの裏にイニエスタを突撃させる。しかし、パウリーニョはどこまでもついてくる。ラキティッチが同じ動きをしても、対面の選手は恐らくついてきただろう。いわゆるマンマーク的な守備なのだなと気がつくバルセロナ。だったら、数的有利を作るためのゼロトップという方法がある。しかし、メッシはいない。よって、動き出すのはセルジ・ロベルトであった。
左ウイングのセルジ・ロベルトだが、右サイドバックで起用されていたこともある。そんなセルジ・ロベルトの長所はポジショニングにある。味方の形、相手の形から観てどこにポジショニングすれば、味方にとって利益になるかがわかっているようだ。クラシコでもそのプレーは発揮している。この試合ではさっさと中央に移動している。広州恒大のセンターバックがスアレスの対応におわれているので、ライン間にポジショニングにしても撃退できない。サイドバックもついてこない。このセルジ・ロベルトのポジショニングで、広州恒大のパウリーニョたちの守備の役割がゆっくりとずれ始める。いわゆる、なんでこいつがここにいるんだ作戦だ。
ボールを繋ぎながら相手の隙を窺うバルセロナ。ときどき広州恒大のカウンターが炸裂するが、残念そこはマスチェラーノで対応する。前線のトリオの息のあわなさや技術的なミスが何から生まれているのかを断言することはできない。それでも、しっかりとボールを保持できていれば、勝負は後半に訪れるもの。ちょっと低調のうつるバルセロナのパス回しだったかもしれないが、上記のようにゆっくりとリスクを冒す変身をできるチームなので、特に問題なしと考えてプレーしていただろう。
最後にリスクを冒したのがブスケツ。自分のマークが中途半端であることを認識していたのだろう。よって、ブスケツの位置から攻撃参加していく。セルジ・ロベルトに続いて、なんでこいつがここにいるんだ作戦が始動する。そして、ほぼ同時にしびれをきらしたのか、スアレスが落ちてボールに絡むようになっていく。時間が過ぎていくにあたって徐々にバルセロナの圧力が強くなっていく。そして、生まれたラキティッチがフリーの場面。デポルティーボ・ラ・コルーニャ戦では凄まじいミドルを決めたが、今日はキーパーに弾かれる→スアレスがつめて、バルセロナが先制する。この場面を巻き戻してみると、イニエスタへの対応がパウリーニョから変わっていて、それを修正するんだと変化していうちの混乱でラキティッチがフリーになっていることがわかる。
勝ち越された広州恒大は、ブスケツなんていなかったんやと、エウケソンとグラルがバルセロナのセンターバックにプレッシングをかけるようになる。最初からやればよかったのに。時間も少ないからあとは気力や!と言わんばかりに広州恒大は攻撃的な守備を見せる。しっかりと準備していたのだろう。パウリーニョがブスケツまでずれることによって、キーパーを使ったビルドアップではがされることもなかった。先制してから急にブラボを使いはじめるバルセロナの変化も興味深かったが。
広州恒大のカウンターはサイドバックの裏ということくらいしか読み取れなかった。バルセロナの対策の王道と言ってもいい。妙にジョルディ・アルバサイドを狙っていたのは何かあったのだろうか。攻撃的な守備からのセットプレーで決定機を得たのは非常に惜しかった。しかし、残念そこはブラボ。というわけで、1-0で前半は終了する。
後半になると、広州恒大の守備が変化する。グラルはブスケツにつけ。エウケソンはセンターバックの間を疾走しろと。この結果、ピケもマスチェラーノもフリーになるという事案が発生する。前半の比べると、マスチェラーノからの攻撃が増える。もしかしたら、広州恒大はマスチェラーノから始まる攻撃でイニエスタにボールが渡る機会を少なくしたくて、ピケからの攻撃を誘導していたのかもしれない。その割にイニエスタは目立っていたけれど。そんなマスチェラーノの運ぶドリブルからスアレスとイニエスタがワンツーを華麗に決めて、スアレスが2点目を決める。
で、最後にはムニルが倒されて、PKを得る。これをスアレスが決めてハットトリック。3-0。バルセロナは徐々に定位置攻撃に移行。前半から見られた素早い攻守の切り替え、スアレスをスイッチとする前線からのプレッシングを機能させ、広州恒大に反撃の隙を与えなかった。特に素早い攻守の切り替えは無限に続くバルセロナの攻撃を助演するものであり、広州恒大の心をへし折るには十分過ぎるプレーであった。
こうして淡々と時間を過ごしたバルセロナが台本通りに勝負を掴んだ。広州恒大は必死に守ったけれど、格の違いを見せつけられた試合となってしまった。広州恒大にとっては、年の一度の世界との遭遇を、どのように消化していくかが進化の鍵となっていくのだろう。
■ひとりごと
気がつけば、南米の選手が増えているバルセロナ。メッシ、スアレス、ネイマール、アウベス、マスチェラーノ、ブラボがスタメンクラスの南米の選手たちだ。いわゆる南米の超エリート集団。対するは、リーベル・プレート。これから欧州に行く人もいるだろうし、欧州に行きたくても行けない選手もいるだろう。さらには、欧州から帰ってきた選手もいる。そんな雑草軍団対エリート軍団の対決と考えると、なかなか燃えていきそうな展開。最近のセルタ、デポルティーボ・ラ・コルーニャ、そして、ボルシア・メンヒェングラッドバッハのような戦い方をリーベル・プレートが選択するのかどうかが超楽しみである。
コメント
文中ほどに「同点に追いつかれた広州恒大は」とありますが、広州恒大は得点していないので同点に追いつかれていないと思います。
LOVINさんへ
ご指摘ありがとうございます。
助かりました(・∀・)