【書評】サッカースペイン流 ヨコの展開力【4-3-3のモデルケース】

書評

2016年の4月に出た本の書評です。書評と言うとかっこいいですが、小学生風に言うと、読書感想文になります。この本は、スペイン版で「ヨコ」が強調されています。なお、ドイツ版は「タテ」が強調されており、近い未来に出版されるそうです。この2つの言葉をピックアップした理由を考えてみましょう。強引にスペイン、ドイツともにボールを保持するサッカーをすると仮定します。両者のボール循環の差を「タテ」、「ヨコ」と表すことはできそうです。よって、両国のサッカーを説明する単語として、対称的で目立つ単語だといえます。でも、スペイン人に「ヨコ」パスばかりだといえば、ゴールを目指すんだからファーストチョイスは「タテ」だ!と言われるでしょう。また、ドイツ人に「タテ」に速い攻撃が多いよねといえば、相手の守備が整っているときは、「ヨコ」パスもするよ、と指摘されそうです。言葉選びって難しいですね。

ボール保持とヨコ幅とタテ幅

ボールを保持するサッカーのコンセプトに、広さと深さを使おう、というものがあります。具体的に言うと、グランドを横に広く、縦に深く使おうというものです。

横に広く使うためには、サイドラインを踏め!という格言を実行する必要があります。いわゆる攻撃の横幅隊(サイドラインを踏む人)を作り、相手のポジショニングを広げる、または横幅隊を経由するボール循環で相手の守備のポジショニングを横に動かそう、ということはグランドを横に広く使うための具体的な方法論となります。

縦に深く使うためには、相手の最終ラインの裏のスペースを攻略する相手陣地深いエリアを使う方法と、キーパーをビルドアップに使うことで、自分たちの陣地深いエリアを使うことが、グランドを縦に深く使う方法論となります。

では、そもそも横に広く、縦に深くピッチを使う目的は、何でしょうか。答えは、相手同士の距離を離れさせるためです。相手の守備組織を分断することで、守備が整理されていない状況を自らのボール保持で作り出し、その隙を利用して攻撃を仕掛ける。平たく言うと、こんな感じです。もちろん、相手の守備が整っている状態でも攻撃のスイッチが入ることもあります。ポジショニング優位(ポジショニング優位が発生している次点で守備が整っているとはいえないけれど、)や質的優位(マッチアップの優位性のお話)、スペース優位(捨てているスペースを使えるかどうか)を活かした速攻も考えられますが、ひとまず置いておきます。

4-3-3でボールを保持しよう

では、本の中身に話題は移ります。「ヨコ」についての記述は、そこまで多くありませんでした。この本の最大の長所は、4-3-3でボールを保持するときの形(公式といってもいいです)が、掲載されていることにあります。「ヨコ」とか関係ありません。ビルドアップから始まり、フィニッシュにいたるまでの具体的な形が、みっちりと書いてあります。この形(ボール循環や選手のポジショニング)は、アマチュアからプロレベルまで満遍なく行われているものなので、エターナルなものであり、常識とも言えます。

その一方で、知っていなければならないこと、ともいえます。チャレンジ&カバーは、サッカー経験者のほとんどが知っている(知らなかったら、ごめん)べき知識です。よって、4-3-3でボール保持するときは、こういう動きをすればいいんでしょ。相手のプレッシングの枚数によっては、このように動けばいいんでしょと、具体的なイメージが湧く人にとっては、あまり必要のない本と言えます。知識を再構築するのだ、という場合には、価値のある本になるかもしれません。よって、自信のある人は、本を手にとって見てください。こんなの常識じゃん!となるのか、まったく知らんかった!になるのかで、サッカーに対する知識の踏み絵として機能する側面を持っています。

問題もあります。うちのチームは4-4-2なんですけど、というチームにはあまり役に立ちません。うちのチームは3バックなんだけど、というチームにも役に立ちません。具体例は、4-3-3のみといって差し支えないくらいです。むろん、これを契機に4-3-3にチャレンジするんや!という場合には教科書的に使えますが、そうでない場合は、実践的とはいえません。でも、手に取る価値はあります。相手の4-3-3のボール保持のセオリーを知ることができるからです。相手を止めるためには、相手のセオリーを知る必要があります。相手のセオリーを知ることができれば、セオリー返しで対抗することができますからね。

指導者は注意が必要だ

よし、色々な型が載っているなら、それを選手に落とし込めば良いのだ!という指導者の方々。もちろん、最低限の型は大事なのですが、型の落とし込みのみをすると、ドツボにはまります。型を落としこむ時は、それは何のためにやるのかを具体的に提示しないと、いわゆる教えすぎ問題が発生します。よって、型で想定できていない問題に直面すると、手のうちようがないみたいな。もちろん、ゴールを決めるためだ!とか大きすぎる目標は、具体的とは言えません。なお、日本の守備は気合のプレッシングなので、本書に載っているような状況に出くわすとは限りません。

最初の段落に戻りますが、ピッチを横に広く、縦に深く使うのは、なぜでしょうか。たぶん、前の列の選手が時間とスペースを得るために行われます。時間とスペースを得るために、ピッチを横に広く、縦に深く使うとします。でも、ピッチを横に広く縦に深く使わなくても、前の列の味方が時間とスペースを得られる場合はどうしますか?となります。別にピッチを広く使う必要が無いとなります。この落し込みを失敗すると、ゴール前の味方がフリーなのに、パスをしないという非常に切ない判断と同じ現象がピッチの各地で起きてしまいます。

もちろん、型を知ることは選手も指導者も大事です。で、この型はなぜ存在し、何のために行なうのか。その型を通じて達成したい現象を達成するための手段は、他にどんな手段があるのかを落としこんでいかないと、あのチームはロボットのようだねと陰口を叩かれるようになります。みんな悪口ばかりの世界ですからね(・∀・)

ひとりごと

こちらの本もお薦めです。どのようにサッカーを見ているのですか?とときどき聞かれますが、この本のように見ていますと言っても良いかもしれません。ずい分前に読んだ本なので、淡い記憶ですが。

というわけで、4-3-3でのボール保持の型が知りたい方は、本屋でちらっと見てください。必見とまではいいませんが、多少の時間(本屋に行く、ちらっと立ち読みする)を犠牲にする価値はあると思います。

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