【プランを消すこと】日本対イラク【自分たちの良さを残すこと】
日本のスタメンは、西川、酒井高徳、森重、吉田、酒井宏樹、柏木、長谷部、本田、原口、清武、岡崎。正直言って、内田×長友コンビから酒井コンビへ、こんなに早くスタメンが入れ代わる状況になるとは思わなかった。内田×長友コンビは怪我などで試合に出場できていないので、実力による交代というニュアンスの出来事ではないとしても。最終予選で初登場は柏木。そして、香川→清武とスタメンを変更して臨んだ。なお、鹿島コンビはともにベンチ外になり、蚊帳の外になってしまっている。
イラクのスタメンは、モハメド・ハミード、アハメド・イブラヒム、アリ・アドナン、スアド・ナティク、ドゥルガム・イスマエル、ワリード・サリム、アハメ・ヤシーン、モハナド・カッラル、アラー・アブドゥルザフラ、アムジェド・アットワン、サード・アブドゥルアミール。予選の結果は2敗で、勝ち点は0のイラク。そろそろ勝ち点を得ないと、数字上は可能かもしれないが、現実的にワールドカップ出場が苦しくなっていくイラク。というわけで、ここが埼玉スタジアムだろうと、負けてはいられない状況だ。海外でプレーしている選手もいるらしいが、個人的に記憶にある選手はいない。
狙われたのか酒井宏樹?
内田×長友時代の日本のサイドバックは、攻守に高い存在感を見せていた。内田は身体の向きとパスで味方に時間とスペースを与え続け、長友はときにウイングとしてプレーするほどのサイドアタッカーっぷりを見せつけていた。その2人にも弱点はあった。それは身長だ。つまり、高さ勝負を申し込まれると、相手に優位性をどうしても与えてしまう展開となる。日本をがっつりスカウティングしいてくるチームは、クロスのゴール、もしくはロングボールの的として、日本のサイドバックを狙い撃ちにしてくる現象がよく見られた。
時は流れて、右サイドバックには酒井宏樹が定着した。日本のサイドバックとしては珍しく酒井宏樹は大型のサイドバックと呼んでいいだろう。イラクはそんな酒井宏樹サイドからの攻略を何度も試みてきた。イラクのエースであるアリ・アドナンと酒井宏樹の空中戦&アブドゥルザフラとカッラルが酒井宏樹サイドに流れてくる攻撃は、なかなか強烈であった。酒井宏樹が狙われたというよりは、単純にイラクの長所が左サイドだったという事実が、このような現象を生んだのだろう。深読みをすれば、本田を守備に追わせられる(もしくはさぼる)という効果もあったかもしれない。
吉田、長谷部、本田のサポートを得ながら、酒井宏樹はイラクの長所に対抗していく。空中戦でも勝利する場面が多かった。こうして、序盤のイラクの長所攻撃を凌ぐことに成功した日本。イラクは自分たちのプランAの撤退を余儀なくされる。特に酒井宏樹の空中戦の強さがアリ・アドナン撃退に繋がった。前線に小さい選手がいるのは守備面での空中戦で足を引っ張ることはないが、3列目と3列目の前にいるべき選手たちのサイズ問題は、今後も世界中の課題になっていくだろう。
ただし、そんな酒井宏樹だったが、失点のきっかけとなったファウルを相手に与えてしまっている。そのセットプレーに競り負けたのが酒井高徳というのは何の因果か。また、後半戦の守備の場面では、安易にコーナーキックを相手に与えてしまう場面も目立っていた。そういう意味では、序盤のプレーとそのあとのプレーで評価は相殺されてしまうかもしれない。
ロングボールによる陣地回復とサイドの縦ポジションチェンジ
その後に繰り返される形が出てきたのは10分過ぎだった。10分過ぎまでにピッチで繰り広げられた景色は、ボールが行ったり来たり。イラクは酒井宏樹サイドにハイボールを送る場面が多かった。ボールを保持していないときのイラクは、4-4-2で日本陣地からのプレッシングを行った。序盤の日本はプレッシング回避よりも、ロングボールでプレッシングを回避する場面が多かった。岡崎や本田が空中戦に競り勝つことを計算してというよりは、ロングボールを蹴ることで、日本の全体のラインを押し上げることが狙いのようだった。
この試合の日本のメインプランが、攻守の切り替えでボールを奪ってのショートカウンター。ボールがどちらに行くかわからない状況からのトランジション攻撃みたいな。前線の選手の切り替えをサボる選手が少なく、特に清武を経由したカウンターは、一気に中央突破を可能とする雰囲気を感じさせていた。また、ハリルホジッチの忠実な戦士として活動している柏木。長谷部の横が本来のポジションだが、積極的に相手を潰しに行く場面が目立った。柏木のプレッシングをかわされると、相手にスペースを与えてしまう。でも、ボールを奪われば、チャンスになる。現実的にスペースを相手に与えそうでも、実際に与えた場面は少なかった、、ただし、その少ない機会を決めるのが世界レベルという話はおいとく、、ハリルホジッチの計算は間違っていなかったとすべきかもしれない。
10分が過ぎると、イラクがプレッシングの開始ラインをハーフラインに修正する。そのきっかけは、長谷部と柏木のポジショニングにあった。2センターバックと2セントラルハーフのビルドアップは、サイドのスペースをどのように使うかが鍵となる。2セントラルハーフが中央にポジショニングを続けると、狭いエリアでプレーすることになってしまう。長谷部、柏木のどちらかがサイドバックのエリアに移動する、もう一方は中央で相手の2トップの間にポジショニングすることで、相手の4-4-2のプレッシングを外すことに成功した。この試合の日本を高く評価をするとすれば、このビルドアップの役割が整理されていたことだろう。
セントラルハーフがサイドバックの位置に移動するならば、サイドバックは高い位置にポジショニングすることが定跡だ。イラクの守備の役割をみていると、かなり全員が献身的に振る舞っていた。特に守備をさぼりがちなサイドハーフの選手は最終ラインまで下りて守備をする場面が多かった。日本からすれば、相手のサイドハーフに守備を強いることができれば、カウンター恐怖が少なくなる。よって、サイドバックを上げて、本田を中に送る形を何度も繰り返すようになる。ただし、相手のサイドハーフが守備を頑張るということは、なかなか数的優位になることはない。どこまでも相手がついてくる。そんな事情から本田がボールを持つ、ボールを持ったときのプレーで苦戦することになる。
状況を整理すると、ビルドアップは整理されている。相手のサイドバックを動かすこともできている。攻守の切り替えによるショートカウンターもときどき発動している。ショートカウンターが発動しなくても相手のカウンター機会を削り、日本の定位置攻撃に繋がっていた。問題があるとすれば、この定位置攻撃だろう。相手の2トップの脇からボールを運ぶことはできていたが、その後の攻撃の再現性はあまり見られなかった。それは相手がサイドハーフを下げる人海戦術だったことも原因だろう。つまり、相手の攻撃の良さを消すことはできたけれど、こちらの良さも出しにくくなっていた。それでも、ボールを保持し、延々と攻撃を続けていれば、相手の体力がなるなるだろう後半に勝負は決まるだろうという計算はアリだ。
プランどおりにいかないものと意思統一
そんな日本の先制ゴールが、自陣でボールを奪ってからのロングカウンターだったという事実は興味深いものがある。ボールを奪った原口から始まったカウンターを決めたのが原口だったという事実も凄まじいものがある。原口のボール奪取を思い出してみると、相手の視野外から現れている。相手の視野を認知することはとても大切なことだ。相手が自分を観えているかどうか、相手が何を見ているかどうかを身体の向きや目を観察して情報を取ってくる必要がある。また、ボールホルダーに対して複数でボールを奪いに行く場合は、この視野外から現れる選手がボールを奪う選手になることが多い。
相手を押し込んでの定位置攻撃とショートカウンターが日本のプランだったとして、それがあったから数少ない機会を決めようとイラクが前がかりになったという解釈も可能だろう。この場面で走りきった清武と原口は見事だった。セットプレーも含めて、自分たちの多く訪れるであろうプラン以外のこともできなくてはいけないという事例だった。
後半になると、勝ち点を絶対に取って帰らねばならないイラクは、サイドハーフの守備タスクが怪しくなる。下がるんだけど、3列目まで下がらなかったり、下ったり。セントラルハーフの選手を交代し、ボール保持の精度を上げながら、自分たちの攻撃の機会を増やそうとしてきた。前半を振り返ると、日本のビルドアップの前に攻撃の機会を削られていた。よって、自分たちのボールを保持し、果敢な仕掛けをすることで、セットプレーを得たり、個人技が爆発すれば同点ゴールが奪えるだろうと。
日本のプランを思い出すと、陣地回復や相手を押し込んでからのショートカウンター、もしくは定位置攻撃。後半はどちらがメインになるかと見ていると、ロングボールによる陣地回復が目立った。いわゆるトランジション合戦の雰囲気も出てくる。よって、山口蛍をいれてその精度を高めようとするハリルホジッチだったが、その交代の前に、セットプレーから同点に追いつかれてしまう。西川の対応や競り負けた酒井高徳、そしてそもそもファウルをする必要があったのか酒井宏樹とツッコミどころ満載の失点になってしまった。また、そもそもボールを保持をできていたのだから、後半もやればいいのにと感じていたのは本田のようだった。
同点だったら、どのような雰囲気で会見を迎えるかわからないハリルホジッチ。勝つために岡崎→浅野、本田→小林悠と手をうつ。山口蛍の起用も含めて、ピッチにいい影響が出たかというと、そんなことはなかった。ただし、レスターで出場機会のない岡崎は迷いに迷っているように見える。清武をピッチに残した理由は、右利きのキッカーを残して起きたかったのだろう。
スクランブルアタックな雰囲気の出てきた日本の攻撃は前半よりも停滞気味だった。そんな中で攻撃を牽引したのは原口。前半はチームの歯車として、後半は自分らしさを全開にして、埼スタで懐かしい景色を再現した。ハリルホジッチのもとで、サイドバックやセントラルハーフをやっていたころが懐かしい。しかし、ゴールには届かない。原口のクロスをファーサイドで待つ本田が決めていれば、本田は余計な雑音を消すことができただろう。
ロスタイムに突入する頃に、吉田がパワープレーに出る。これも、プラン通りではないだろうか、新しい手としては有効だ。相手からすれば、攻撃方法の変更ほど厄介な手はない。また、吉田が脅威のエアーバトラーであることをプレーで証明したこともあって、浅野にチャンスが生まれる。ロスタイムを終わりを迎えると、吉田がコーナーフラッグあたりでファウルを得る。そして、そのセットプレーを蹴るは清武。このクロスのこぼれ球をダイレクトの判断をした山口蛍のシュートが炸裂し、日本は土壇場で生き残った。困ったときのセットプレー。何度でも復讐しようドーハの悲劇のうらみ。イラクも猛攻を見せるが、審判が試合を終わらせて、試合は終了した。
ひとりごと
Q.パワープレーするなら、豊田やハーフナーを最初から使えばいいと思うのですが?
A.パワープレー用の交代要員というのは交代枠がもったいない。だとすれば、スタメン起用となる。その場合に空中戦で期待された選手が、パワープレー以外でもチームに貢献できるかが重要となる。下がってのポストワークは中央渋滞と噛み合うので、何とも言えない。空中戦しながら裏抜けもできる選手がいれば、スタメンになれそう。ただし、ポストワークと空中戦を両立できる選手がいるとしても、ライン間でのプレーを好む2列目やトップ下との相性はあまり良くない。そうなると、チームの作りかえになってしまう。そんなリスクはワールドカップ出場が決まってからかと。
Q.香川真司はどうなるのでしょうか。
A.たぶん、オーストラリア戦は出場すると思うので、その試合次第で。出なかったらごめんね。
Q.ハリルホジッチをどう思うの?
A.相手の良さを消すとか、相手の構造を利用するのは上手い印象がある。ただし、自分たちの良さも一緒に消えながらになってしまうので、何ともいえない雰囲気になる。