日本のスタメンは、西川、長友、森重、吉田、酒井宏樹、長谷部、山口、原口、久保、清武、大迫。オマーンとの試合で活躍した大迫が、スタメンに抜擢されている。最もサプライズだった起用は、久保の右サイドハーフへの抜擢だろう。かつて、大島を起用したように、最終予選でも自分の目を信じるハリルホジッチの決断力は、凄まじいものがある。本田、香川、岡崎がスタメンから外れたことで、世代交代か?というざわざわが聞こえてくる。その一方で、クラブにおいての清武、長友の立ち位置は、前述のトリオとそれほどに変わらない現実もある。次のワールドカップの予選は、3月に行われる。それまでの期間でそれぞれの選手にどのような変化が訪れるかの予想は難しい。
サウジアラビアのスタメンは、アルオワイス、ハウサウィ、オスマン、ファラタ、アルシャハラニ、アルファラジ、アルシェハリ、アルハイブリ、アルジャッサム、アルアビド、アルサハラウィ。監督は、ファン・マルワイク。2010年の南アフリカワールドカップで準優勝したことで有名だ。しかし、2012年のEUROではグループリーグを全敗で敗退。その後はハンブルガーSVでの挑戦も失敗。そして、サウジアラビアの監督に就任し、サウジアラビアで結果を残すことに成功している。日本では小野伸二時代のフェイエノールトを率いていた印象が強いかもしれない。なお、コーチにファン・ボメルがいる。ファン・マルワイクの娘と結婚したファン・ボメルなので、親戚関係でサウジアラビアで挑戦している格好となった。
4つの局面と正面から向き合えるように
南アフリカワールドカップの岡ちゃんの土壇場での転向から、日本はほんの少しの迷走という名の呪いにかかっていた。自分たちはボールを保持するサッカーを志向していたが、岡ちゃんの転向によって、その志は阻止される。ファイナルラウンドに進出したという結果が、岡ちゃんの転向を正当化する形となった。ザッケローニ時代の4年間は、ある意味でその志を曲げるか曲げないかの戦いとなった。そう考えれば、ザッケローニにとっては、気の毒な4年間となったかもしれない。しかし、正面衝突を画策したコンフェデレーションズカップ、ワールドカップともに結果を残せなかった。そして、その呪いから解放された日本は、ボールを保持する局面だけにこだわってもしかたあるまい!という時代に突入する。
トーマス・トゥヘルやサンパオリを筆頭に、未だにボールを保持する局面を磨き続けるチームも存在する。ボールを支配することで、試合のテンポ、リズムを支配したい。そして、自分たちのポジショニング、ボール循環で相手の守備を動かし、相手のバランスを崩したときに一気に攻め込んで得点を狙うという形は、まだまだ世界でも見られる。この局面(その他の特定の局面でも可)のレベルを極端に磨くという考えは、未だに根強い。しかし、自分たちの行動によって、相手の守備を整理されていない状態に導くことは、多大な労力を必要とするようになってきている。ボール保持という一様な展開に、ボールを保持していない相手も守備に慣れていく。また、守備のレベルそのもののレベルアップも、ボール保持からの定位置攻撃への対策として発展してきた。
よって、相手の守備が整っていない状態をどのように作り出すかがテーマとなってくる。大きく分けると、2つに分類される。ボール保持からの定位置攻撃でその状況を作り出すか。そして、ボールを奪ったときに相手の守備は整っていない!を利用しようという志向だった。後者の考え方は、ボールを奪う行動→カウンターという流れが必要とされる。つまり、相手からボールを奪う能力、チームでどのように守るか、そして、相手のどのエリアを利用してカウンターを設計するかを決める必要が出てきた。もちろん、延々と続くボール保持からのボールを奪われての奪い返しという発想もある。
どちらかと言えば、日本もボールを保持する局面を磨き続ける戦い方を志向してきた。もちろん、ザッケローニやアギーレがボールを保持するサッカーを本当に志向していたかはわからない。現実として、ピッチではそのような形で具現化してきた。しかし、原口元気を筆頭に、相手がボールを保持しているときでも働ける選手が日本にも増えてきた。よって、ハリルホジッチは時計の針を一気に進める。相手がボールを保持しているとき、相手からボールを奪ったとき、味方がボールを失ったときに自分の長所をこれまでの選手よりも発揮できそうな久保、山口、大迫、原口、清武の抜擢とともに、サウジアラビアに臨んだ。
ファン・マルワイクの4-4-2
サウジアラビアのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。日本のボール前進を日本陣地からのプレッシングでボールを前進させないを遂行してきた。日本はセンターバックのパスミスが目立つ形となったが、長谷部のサポートを得て徐々にボールを前進させられるようになっていく。日本の最初の狙いは、左サイドのハーフスペースに原口。サウジアラビアのサイドハーフの立ち位置がハーフスペースの入り口を塞ぐのか、大外へのパスラインを止めるのかがはっきりしていなかったこともあって、左サイドから仕掛ける場面が目立った。
サウジアラビアの4-4-2を見ていると、前から奪いに行きたい1列目と自陣に残っている3列目(ディフェンスライン)の思考がばらばらだった。よって、2.3列目の間のスペースを清武に使われてしまう場面が非常に目立った。これはトランジション局面でも多く見られた形だった。ボールを奪われたときのサウジアラビアは、3列目は素早く撤退、2列目はよくわからなかったこともあって、清武が輝ける場面が多い試合となった。よって、コンパクトに守るという意味でのサウジアラビアは最初から失敗していた。久保の裏への飛び出しや大迫のキープ力によって、3列目が下がるしかなかったというよりは、最初から下がり気味だった。それでも首位にいるのは、このレベルの4-4-2でもアジアでは通用するということだろう。
なお、後半のサウジアラビアは清武のポジショニングにかなり注意深く対応するようになっていた。リードしていることから、日本がボール保持からの攻撃機会が減ったこともあって、あまり目立たなかったけれど。香川が清武ほどに輝かなかったことは、そんな事情もある。
ボールを保持していないときと、ボールを奪ったとき、そしてボールを奪われたとき
前半の日本で目立った場面は、サウジアラビアがボールを保持したときの強烈なプレッシング。そして、サウジアラビアからボールを奪ったときのカウンターへの移行スピードの速さ。そして、サウジアラビアにボールを奪われたときのファーストディフェンダーの破壊力にあった。
オーストラリア戦では、自陣に撤退が目立った日本。しかし、サウジアラビア戦では、前線から攻撃的なプレッシングを行った。日本のボールを保持していないときのシステムは4-4-2。果敢なプレッシングに全員が連動する形で行われた。試合前の予想では、サウジアラビアが蹴っ飛ばしてくるかと思ったが、意外に繋いできたこともあって、日本の狙いとサウジアラビアの志向は正面衝突する形となった。サウジアラビアもときどきは日本のプレッシングをかわした褒美を手に入れていたが、基本的にはプレッシングにたじたじになっていたと思う。
1列目の献身的なプレッシング、2列目の強烈な球際の破壊力、3列目の空中戦の強さと、三拍子そろった格好となった日本。ボールを奪われたときも山口を中心とする切り替え隊が強さを見せることで、サウジアラビアのカウンター機会を削ることに成功した。ボールを保持する以外の形でも日本が強さを見せつけた、または見せつけようとした姿勢は、非常に新鮮だった。ハリルホジッチがJリーグに指摘していたような、強度の高いサッカーを埼玉スタジアムのピッチで行えた意味は大きいだろう。ただし、シュートが枠に飛ばないという現象は特に変わらなかった。それでも、カウンターや定位置攻撃でフィニッシュまで行けていたので、不安要素はこの強度をどれだけ保てるか、または強度そのもののレベルアップになっていくだろう。
変化するサウジアラビア
ボールを保持しているときのサウジアラビアは、4-4-2。もしくは4-2-3-1だった。17番の選手がフリーマンのように動き回っていたが、30分過ぎから様子が変わり始める。日本は高い位置からの守備に連動するために、セントラルハーフがかなり動く。しかし、サイドハーフの選手がカバーリングする仕組みにはなっていない。原口は相手のサイドバックにあわせてポジションを下げ、久保はあまり下ってこないことが多かった。
よって、サウジアラビアは両サイドハーフの選手(8.18)を中央に送る。特に8番の選手のフリーダムな動きは、原口と長友サイドを狙い撃ちにしたものだった。オーストラリア戦に続いて、最終ラインまで下がる原口。そして中央に絞る長友。8番の中央への移動についていく長友。そして、攻撃参加するサウジアラビアの12番についていく原口という形が完成する。また、中央に人を増やすことで、日本のセントラルハーフがスペースを空けたら使う、空けなかったら、日本のセントラルハーフが行っていた守備が機能しなくなるという計算になっていた。
ときどきは4-1-4-1で守るようになるサウジアラビア。その機会は1.2回だったので、考慮する必要はないけれど。サウジアラビアの変化に対して苦労しながらも、日本はボールを奪ってからのカウンター(原口)や定位置攻撃からの決定機(長谷部→久保→大迫)などチャンスを得ていく。そして、前半の終了間際にカウンターから、清武のプレーでPKを得る。これを清武が決めて、1-0で前半を終えることに成功する。
本田という劇薬と、さらに変化するサウジアラビア
後半の頭から久保→本田。多少は痛んだような久保だが、攻守に機能していたかというと微妙だった。裏への抜け出しはスルーされる場面が多く、ボールを失う場面も多かった。そして、守備では下ってこない場面も多い。そういう意味では妥当な交代だったと思う。いきなりの公式戦で荷が重かったが、最低限の仕事をしたと表現すべきかどうかは非常に迷う。ただし、序列が極端に下がるようなプレーではなかったと思う。
1-0でリードしたこともあって、日本は少し様子を見て守備をするようになっていた。ゴールキックなどのプレーの再開では相手陣地からのプレッシングを行っていたが、まずはサウジアラビアの出方を探るような立ち上がりとなった。サウジアラビアは前半戦の変化をさらに強めてきた。11番をアンカーとする4-3-3のような形で日本の4-4-2に挑んできた。
結論から言えば、この形は頓挫するのだけど、日本は両サイドハーフの守備がよくわからなくなっていく。後半も原口はディフェンスラインまで下がる。なお、原口は前にいるときのほうが守備の強度は上がる。オーストラリア戦でも見られたように、相手陣地で相手からボールを奪う圧力をこの試合でも原口は見せていた。しかし、サイドバックのように下がる。サウジアラビアがサイドバックの位置を上げてきたから下がる!という理由はわからないでもない。しかし、大外はボールが出たらでも間に合うし、長友に任せても良さそうな気がする。
そして本田。基本的に守備のスタート位置は間違っていない。しかし、周りのポジショニングに気を使わずに、相手のボール保持者に寄せる癖がある。もちろん、誰かがファーストディフェンダーになるべきなのだが、連動しないプレッシングは相手にボールを前進させるタイミングとスペースを与えることになってしまう。そんな場面が多数見られた。本田がディフェンスラインまで下りる場面はまれで、オーストラリア戦の小林悠も似たような役割だったと記憶している。この左右のサイドハーフに課せられた役割の差がいまいちよくわからない。
4-3-3のようなサウジアラビアのボール前進は、日本が前から行こうぜが発動すると、一気にカウンターピンチとなる場面が多かった。インサイドハーフや17番がヘルプに来るのが基本路線だったのだけど、センターバックとアンカーの3枚をマンツー気味に狙い撃ちにされると、かなり脆かった。よって、70分に20番が登場する。この交代によって、サウジアラビアは2センターバックと2セントラルハーフでのボール前進を行なうようになる。7番のサイドチェンジや、頻繁に動き直す20番のプレーに、日本は守備の基準点を設定できなくなっていく。
それでもボール保持からの定位置攻撃で、日本は追加点を入れる。本田が左サイドに流れていた次点で定位置攻撃と表現していいかは微妙だが。原口の追加点はまるでご褒美のようだった。しかし、残り15分でのゴール数が多いサウジアラビアもラッシュを見せる。サウジアラビアもほぼ定位置攻撃と言っていい状態から、崩しに崩して日本からゴールを奪う。香川のボール保持者へのプレッシング位置、山口をカバーリングできない本田のポジショニング、デュエルに負ける山口蛍、フィジカルでおされる長友と、失点理由を言い出したらキリがない場面だった。
三角形から四角形に変化したビルドアップに対して、日本は後手に回る。残り時間は西川の仕事が増えながらも、守りきりに成功。サウジアラビアはカード祭りとなり、これからの試合に影響が出そうであった。首位のサウジアラビアを倒したことによって、一気に順位を上げた日本。大博打に勝ったハリルホジッチも安心して、3月までは過ごせそうだ。
ひとりごと
ボール保持以外の局面にも向き合っていくことを表明した日本。ボール保持以外ではあまり働けませんという選手は、どんどん出番が減っていくかもしれない。それぞれの局面の精度や、サイドハーフのタスクの差など、問題は多々ある。しかし、これらの挑戦は始まったばかりなので、おとなしく見守っていくのが吉だろう。ただし、相手がボールを保持したくない場合は、ボールを保持するしかなくなっていくので、ボールを保持することの強度も忘れずに上げていかなければならない。この試合でも、サウジアラビアが先制していたら、そのような展開になっただろう。また、超暑そうなサウジアラビアでも今日のような走力をともなった試合ができるかは、とても心配だ。そんなときのハリルホジッチの采配に注目したい。
コメント
岡ちゃんの南アフリカとか、ドゥンガ時代のコパアメリカのブラジルあたりが今の監督さんはお好みっぽい感じがするんすよね。
ボール保持よりは局面の数と勝敗に重きを置こうって感じだかなぁと。
原口と久保が収穫にはなりそうですけど、大迫が一頃の鈴木みたいにありがたい人になれるかってとこすかね。
清武のポジションって本戦のグループリーグであるんかなとかが気になっちゃいますね。
リアリストというよりは、ボールを保持した攻撃の変数に何も期待していないというか。それよりも、相手の守備が整っていないときがチャンスでしょう!みたいな感じじゃ受けます。清武くんはよくわかりませんよね。どうせなら、あの位置もアスリート的な選手を起用したほうが幅は出ませんが、強度は出せそうな気がします。
後半日本の横スライドの遅さを見抜かれて、右のビルドアップ隊か対角サイドチェンジが多く見受けられました。
その後も対策しないハリル監督。
結果は失点1でしたが、受け渡しやカバーリングなど見ていてヒヤヒヤしました。
時間が少ないとはいえこの守備の成熟度でいいのでしょうか?
長文申し訳ありません。
この守備の成熟度でいいのでしょうか?と問われれば、全然良くありません。今回はこういうことも目指していきますよってことを明確に示せたことが良かったんじゃないでしょうか。よって、改善されていなければ、だめじゃんとなってしまいます。