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【レヴァークーゼンを滅ぼしたトゥヘルの実験】ドルトムント対レヴァークーゼン【香川はどうなる?】

   

さて、今回はドルトムント対レヴァークーゼンから。いわゆるチャンピオンズ・リーグで出場しているチーム同士の対決なので、国内でも注目を集めているのではないだろうか。ただ、チャンピオンズ・リーグをミッドウィークに控えているのに、ビックマッチを組まれると、当該チームはなかなか大変だろうなと思う。何年か前に、チャンピオンズ・リーグにクラシコを挟むということをリーガ・エスパニョーラで目撃した。むろん、レアル・マドリー、バルセロナともにチャンピオンズ・リーグも敗退する。チャンピオンズ・リーグに勝ち残ってほしければ、このような日程の配慮も必要になってくるのだろう。オランダ方面からは中三日の法則についてのクレームが聞こえてくる。

オタクと評されることもあるトゥヘル監督。その実験精神は異常で、チームの最適解を見つけては捨てるという作業を延々と繰り返している印象だ。振り回されるのは選手たち。結果がしっかりと出ているなら問題ないだろうが、結果が安定しているとは言えない状況だ。いつものようにバイエルンが独走するリーグ戦よりも、チャンピオンズ・リーグでどこまでいけるか、国内カップ戦でタイトルを取ることができるかに集中することが現実的と言えるだろう。シュールレ、香川、ゲッツェとビッククラブで活躍してもおかしくない選手たちを平気でベンチに置けるのもトゥヘルならではの現象と言える。

チョウ・キジェ監督の発言によって、日本でも注目を集めたロジャー・シュミット。当時はザルツブルグの監督だったけれど、気がつけばレヴァークーゼンに栄転している。さらに、ライプツィヒ方面ではザルツブルグ時代のサッカーを色々なチームでやるのだ作戦で世界中に論議を起こしている。ザルツブルグの元ネタがロジャー・シュミットだなんて言うつもりはないが、色々な意味で注目の監督だ。レヴァークーゼンがチャンピオンズ・リーグの常連になり、今季もベスト16までは勝ち残っている。しかし、リーグ戦は不調。いわゆるプレッシング&トランジションサッカーは長続きしない法則を証明することになってしまったとも言える。この試合のあとに、ロジャー・シュミットは解任された。

レヴァークーゼンの強いところ

レヴァークーゼンの強いところは、そのプレッシングスタイルにある。前線から果敢なプレッシングを見せる。そして、2列目も負けじと連動する。この試合でも見せたようにボールを保持したら極地的な数的優位を作る。そして、ボールを失ってもすぐに奪い返す。ボールを奪い返したら、前向きの選手を使いながら、縦パスを延々と続けていく。極地的な数的優位を作るという部分は、ライプツィヒよりもテクニカルと言っていいだろう。

よって、1.2列目の守備意識は、相当に高い。もちろん、3列目の守備意識が低いかと言えば、そんなことはない。1.2列目と正面衝突をするくらいなら、一気に3列目と勝負をしたほうが効率がいいという話だ。さらに、この試合ではイェドバイがセンターバックで試合に出場している。本職はサイドバックのはずだ。となれば、ドルトムントからすれば、3列目と勝負をしたほうがよりいいとなる。よって、戦術オタクと呼ばれているトーマス・トゥヘルは、しっかりと策を練ってこの試合に臨んだ。

策その1、前線のプレッシングを無効化する3バック

4-4-2を基本とするレヴァークーゼンの1列目は、2トップであることが多い。よって、ドルトムントは3バックで数的優位をつくる。それでも、レヴァークーゼンなら果敢にプレッシングを仕掛けてくるかもしれない。そんなときに、ドルトムントはビュルキにボールを下げてポジショニングを整える場面が多かった。キーパーにボールを下げることは、相手に守備を整える時間を与えることになる。最近のトレンドはビルドアップでキーパーを使わなくなっている。それでも、ドルトムントがキーパーを使ったことは、相手の守備が整っていようが問題ない定位置攻撃を仕込んでいるということになる。次にその定位置攻撃を見ていく。

策その2、左右で役割の異なるインサイドハーフ

レヴァークーゼンの2トップは、前からプレッシングに行きたかったに違いない。その想いを阻止したのが3バックと頻繁に登場するビュルキ。そして、ヴァイグルのポジショニングだ。アンカーに2トップの中間ポジションにとられると、非常にめんどくさい。しかし、セントラルハーフ(アランギスやベンダー)のサポートを得られれば、前からプレッシングに行くことができる。しかし、アランギスはカストロ、ベンダーはデンベレを守備の基準点とした。センターバックがヘルプに行けない状況も、オーバメヤンとロイスの2トップと守備の基準点を用意されていることで成立していた。

左センターバックからのビルドアップは、カストロの曖昧なポジショニングが全てだった。メフメディはバルトラにプレッシングに行きたい意思を見せる。しかし、ゲレイロが空いてしまう。ゲレイロへ左サイドバックのヘンリヒスが縦スライドしたいのだが、ロイスが邪魔をする役割になっていた。もちろん、メフメディがカストロについてもゲレイロは空いてしまう。

右センターバックからのビルドアップは、カストロが間に合わない。よって、ヴァイグルが出てくる。そして、ピスチェク、ドゥルム、デンベレ、ヴァイグルで菱型を作ってボールを前進させていく。ビュルキを使いながら、ドルトムントはボールを左右に動かすことで、ボールを前進させる仕組みを作っていた。キーマンはカストロ。カストロのポジショニングによって、バルトラがボールを持っているときに、レヴァークーゼンの選手たちは横スライドを強めに行わなければならなかった。よって、サイドを変えられてしまうと、デンベレやドゥルムが空く仕組みになっている。

策その3、ビルドアップの出口をつくるけど、そこからは速攻

センターバック付近は、まったりボールを持つドルトムント。しかし、急に攻撃のスピードが上がる。ゆっくりと前進して相手を押し込んでボールを保持するというニュアンスよりは、ボール循環で味方をオープンにしたら、精度の高いボールを前線に入れましょう、といった攻撃を見せる機会が多かった。繰り返されるサイドチェンジで相手を押し込んでいくボールポゼッションとはぜんぜん違う。その意図はレヴァークーゼンの長所と向き合う気がなかったのだろう。実際に、1列目のプレスバックや2列目の激しい球際によって、ショートパスによる前進スタイルではボールを奪われての速攻をくらう危険性が見られた。

また、ドルトムント側からみても、オーバメヤン、デンベレ、ロイスがレヴァークーゼンのディフェンスラインと勝負する場面を作れたほうが、質的優位とスペース優位で勝負をすることができる。トプラクとオーバメヤンのヨーイドン!はスリルのある攻防だった。配置的な優位性、ポジショニング優位で味方をオープンにし、そこからの速攻で前線が勝負するスタイルで、ドルトムントは相手の長所を封じながら、相手に短所を自分たちの長所で攻め立てる試合をつくることに成功する。

不調のレヴァークーゼンはレヴァークーゼンで、なかなかひどかった。球際はフェアに激しいというよりは、シンプルに粗い。イエローカードが乱発したように、試合内容にも苛立っていたのかもしれない。失点の形もクリアーミスが連発して先制点を与え、追加点はコーナーキックのこぼれ球を誰も反応せず、という形であった。

ロイスの交代でプランを変更するトゥヘル

3-4-3に変更するトゥヘル。デンベレとプリシッチはライン間にポジショニングするのか、サイドにはるのかは曖昧だった。守備も5-4-1になるのか、5-2-3で守るのかがはっきりとしなかった。カウンターでデンベレを前に残したいトゥヘルの思惑は、3-1-4-2でも見られていたので、この形でいいバランスを見出したいのかもしれない。ちなみに、プリシッチはサイドにはることが多いので、ドゥルムのスペースを消すことが何度もあった。

ハーフタイムを挟んでもドルトムントの役割ははっきりとしなかったこともあって、フォラントの突撃で反撃を許してしまうドルトムント。しかし、またもセットプレーからデンベレの不思議なクロスをオーバメヤンが押し込んで3-1となる。それならばと、直接フリーキックをヴェンデウが決めるのだが、今度はプリシッチに追加点を許し、レヴァークーゼンの心はへし折れた。

後半のレヴァークーゼンは、死なばもろともな雰囲気を出して襲いかかったけれど、5バックで守備をするドルトムントに極地的な数的優位が活きない場面が多数だった。3バックの迎撃は、守備者に果敢なボール奪取を許可するので、レヴァークーゼンの攻撃との相性は抜群だった。よって、あまりしないサイドチェンジをするレヴァークーゼンだったけれど、逆サイドのウイングバックがしっかりと対応していた。つまり、ドルトムントは守備でもレヴァークーゼン対策をしっかりと見せた。

香川真司はどうなる??

トゥヘルの交代は、前線の3人。リヴァプールに狙われたプリシッチなど、他のチームではスタメンでもおかしくない選手たちだ。興味深かったのが香川真司の使い方だ。デンベレと交代だが、デンベレとはキャラが違いすぎる。香川真司は守備をしっかりとこなしながら、彼らしいスタイルでボールを繋いでいった。簡単に言うと、質的優位で攻めるサッカーから、ボール保持にゆっくりと切り替わっていった。レヴァークーゼンも疲れてくると、プレッシングが甘くなる。そうなれば、正面衝突でも優位にたてるドルトムント。この状況では香川の存在は矛盾しないどころか頼もしい存在になる。

ただ、トゥヘルのお気に入りのデンベレとスタメン争いという現実は厳しい。カストロの位置は?というと、できないってことはないだろうが、いざとなったら2セントラルハーフもこなせないといけないタスクになる。プリシッチは仕掛け人なところがあるのだけど、香川とゲッツェはやっぱり厳しい。シュールレもチームのスタイルにあっているかというと、微妙だ。相手が撤退守備をしてくるときはこの3人に出番はあるのだろうけど、それでも質的優位にこだわりながら、彼ら(デンベレ、プリシッチ)がポジショニング優位でも勝負できるように、というのがトゥヘルの描いている絵なのではないかと考えさせられた試合となった。

ひとりごと

砕け散ったレヴァークーゼン。ロジャー・シュミットもサヨナラとなった。そのスタイルから多くのチームから声がかかるに違いない。アーセナルとは声をかけたら面白いと思う。リヴァプールとそっくりになってしまうかもしれないけど、もともとは走るチームだった印象が強いアーセナルとマッチするかもしれない。前線からのプレッシングをアレクシス・サンチェスは労を惜しまないで行いそうだし。

昨シーズンの序盤はスーパーポゼッションチームだったドルトムント。気がつけば、配置的な優位性や速攻、質的優位といろいろな姿を見せてくれている。まるで、色々なことが本当にできるのかという実験をしているみたいだ。それでも、結果を残せば文句はない。ドルトムントにとって、成功と言える結果がどこにあるかは定かではないが、チャンピオンズ・リーグの出場権を取れれば、来年もトゥヘルの実験は続くのではないだろうか。どうする香川真司。

 - マッチレポ1617×ブンデスリーガ