【ハリルホジッチの狙い】日本対オーストラリア【簡単な未来予想図】

ハリルホジッチ×日本代表

日本のスタメンは、西川、酒井高徳、吉田、森重、槙野、長谷部、山口、小林悠、香川、原口、本田。累積や怪我人でスタメンの選択肢が限られていくハリルホジッチ。イラク戦から比較すると、槙野、山口、小林悠、香川がスタメンへ名を連ねた。また、本田、酒井高徳はいつもとは異なるポジションでの出場となった。ワントップの本田は、恐らく2010年の南アフリカ以来だろう。伝家の宝刀なのか、封印を解いたというべきなのかは不明だ。本田自身がミランでのポジション起用も含めて、現状をどのように考えているか、非常に気になる。

オーストラリアのスタメンは、ライアン、スピラノビッチ、マクゴーワン、セインズベリー、ムーイ、スミス、ジェディナク、ルオンゴ、ロギッチ、ユリッチ、ジアヌー。サウジアラビアで首位攻防戦(結果は引き分け)をしたあとに、ホームで日本を迎えるオーストラリア。アウェー→ホームとホーム→アウェーだと、コンディション的にどちらが有利なのかは不明だ。過去と比べると、知っている選手が減ったのは、吾輩の勉強不足か、欧州で活躍する選手が減っているか。ベンチのケイヒルが非常に懐かしい。

噛みあわせ論とオーストラリアのプレッシング

最初の両チームの噛み合わせから見ていく。

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日本は4-2-3-1。オーストラリアは4-3-1-2。後半にレッキーが登場してからのオーストラリアは4-3-3にシステムを変更する。そのときのスムーズさを見る限り、相手によって2つのシステムを使い分けているのかもしれない。オーストラリアはボールを保持するサッカーにチャレンジしている。よって、相手からボールをすぐに奪い返したい。相手にゆったりとビルドアップをさせたくない。相手がボールを保持する時間を少しでも減らしたい。

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4-3-3⇔4-4-2の変換で、相手の2センターバックに数的同数で迫ることはできる。恐らく、オーストラリアはそういったシステム変換を嫌ったのだろう。下手したら、イラクのように日本の2セントラルハーフを捕まえられなくなるかもしれない。かりに日本がビルドアップをしてくるとすると、日本のサイドバックに出番が増える。その位置にインサイドハーフ(ムーイやルオンゴ)の突撃でどうにしかしようとしただろう。また、日本のサイドバックはビルドアップが得意でないので、ボールの奪いどころとして設定するのは理にかなっている。よって、日本がビルドアップをしないという道を選んだことも、また理にかなっているのだが。

オーストラリアのプレッシングでよく研究しているなと感じさせられたのが、西川へのプレッシングだった。左利きの西川に左足でボールを蹴らせないようにプレッシングを執拗に行っていた。キーパーにバックパスをしたときは、キーパーからボールを受けるために広がってボールを受けるセンターバックが定跡だが、日本はビルドアップをする気がなかった。特に森重はボールを受ける気がなかった。むろん、チームプラン的に、森重の行動は間違っていない。

オーストラリアのビルドアップスタイルと香川真司の守備

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オーストラリアのビルドアップは、インサイドハーフが下りる形が目立った。序盤の日本のハイプレッシングをキーパーを使って回避するなど、プレッシング回避の訓練を積んできた印象を受けた。ルオンゴ、ムーイが状況に応じて、ポジションを下げる動きで攻撃の起点となろうとしていた。オーストラリアの攻撃はビルドアップ隊をオープンにする。ハーフスペースでインサイドハーフ、トップ下、2トップの誰かがボールを受ける。大外のサイドバックにボールを預けて、サイドバックがクロスを上げる形が目立った。というか、そればかりだった。なお、日本の失点もこの形から生まれている。

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この試合の香川の主な役割は守備にあった。ファーストディフェンダーのいちに応じて、4-4-2(本田と同じ列に移動)と4-5-1(ムーイとデート)を使い分けていた。本田の守備が曖昧であったことに比べると、香川の役割ははっきりしていた。ただし、インサイドハーフの守備タスクかといわれると、非常に曖昧だった。例えば、オーストラリアの左サイドバックがボールを持つ。小林悠がファーストディフェンダーとなる。全体がスライドする。香川が長谷部の隣の位置まで降りていたかというと、降りていなかった。あくまで、ムーイ番という感じで。4-4+ムーイ番なのか、4-5で守るのかというところははっきりしない。4-5で守っていたとするならば、失点場面の原口ファウルは香川が下がるべきだったと言える。ただし、本当に4-5守備だったのかは、選手、監督に聞いてみないとわからない。どちらかを断言できる要素はピッチには落ちていなかった。または、我輩には観えなかった。

また、日本からして幸運だったことは、相手の横幅隊がサイドバックしかいなかったことだ。序盤のセンターバックのビルドアップミスから日本が先制したこともあって、どれだけ高いポジショニングをとるべきかは非常に悩んでいたと思う。さらに、オープンになるはずのビルドアップ落としも香川の動きで機能していなかった。よって、日本のサイドバックは、センターバックのカバーリングに集中することができた。この現象は吉田、森重の積極的な守備を引き出し、特に吉田のパフォーマンスは特筆すべきものだったと記憶している。

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本田の守備の役割がはっきりしていれば、この左右不均等守備の狙いもわかりそうだったのだけど。日本はどちらのサイドから相手に攻めてほしいのかは曖昧だった。曖昧だったというよりは、どちらから攻めてきてくれてもなんとかなるという計算だったというべきか。ただし、不均等な守備だったのだけど。香川がムーイに下りるに比べると、ルオンゴはどうする?となる。香川をインサイドハーフとすると、山口が出ていくになるが、サイドチェンジ後のインサイドハーフ落としには物理的に間に合わない。というわけで、20分過ぎまでは怪しい右サイドの守備となった。小林悠は迷いながらも上下動を繰り返すことで、この時間帯をやり過ごすこととなる。

20分過ぎになると、別に無理にボールを奪いに行く必要もないだろうということで、サイドチェンジされても小林悠サイドは撤退で対応するようになる。まさにその通りで、ルオンゴは特に何もしてこなかった。そんな小林悠サイドにムーイが登場したのは29分過ぎ。あっちのサイドならボールを持てそうだなと考えたのだろう。ムーイが移動すると、山口蛍が急にプレッシングをスタートさせていたので、ムーイさえ止めていればどうにかなると、オーストラリアを研究していた可能性は高い。

オーストラリアの問題はセンターバックがビルドアップで何もしないことと、サイドバックのポジショニングにあった。両方を解決するためには3バック変化となる。よって、30分過ぎから、ジェディナクが下りてセンターバックの攻撃参加をうながす。しかし、地上戦にこだわるオーストラリアの攻撃をしっかりと跳ね返し続ける日本の守備陣だった。自陣でのファウルが少し多い以外は、問題のない前半戦を過ごすこととなる。ただし、相手のサイドバックの高いポジショニングに原口と小林悠がどこまでもついていくことで、対応していたのは悪手だったけれども。カウンターの移動距離が長くなってしまうので。

修正するオーストラリアとハリルホジッチの采配

横幅をうまく使えなかったオーストラリア。4-3-3に代えてくるかと思ったが、2トップにサイドに流れることで、問題の解決をはかった。まずは、相手の4バックを広げること。中央が数的同数になれば、決して負けることはないと計算していたのだろう。

次にサイドバックのポジショニングを上げる。日本は基本的に撤退守備なので、自陣でボールを失う心配はない。香川もインサイドハーフについていくので、プレッシング隊は本田のみ。となると、サイドバックを上げても問題はない。ついでに、小林悠と原口が下ってくれれば、カウンターの恐怖もなくなる。イラク戦でハリルホジッチが使った策を逆に利用されるという状況となった。

52分にオーストラリアに同点ゴールが決まる。様々なミスが重なった失点だったのだけど、後半の頭からちょっと前からプレッシングしようぜというスタイル変更が、長谷部の引き出されに繋がっていた。そして、57分にクルーズが登場。レバークーゼンにいるらしい。2トップに配置されたクルーズは、積極的なフリーランニングで、日本のサイドバックの裏に走っていった。オーストラリアは定位置攻撃だけではなく、速攻も行なうように後半から変化していく。70分にはケイヒルが登場する。2トップをかえて、日本のセンターバックに圧力をかけていく采配だ。

ハリルホジッチは動かない。後方に押し込められたけれど、カウンターのキーマンである原口は交代できない。小林悠は空中戦の的&コーナーキックのストーン役だったので交代できない。本田も高さでチームに貢献している。となると、香川となるが、インサイドハーフを抑える仕事を愚直にこなしていた。相手にゴール前に侵入されるようになっていくが、決定機は与えていないという解釈も可能だろう。ただし、日本もほとんどカウンターはできていなかったけれど。カウンターではないが、吉田のロングボールから始まった速攻→小林悠のヘディングはおしかった。

残り時間がわずかになると、ハリルホジッチも動く。小林悠が動けなくなったので、清武。本田→浅野。2人でカウンターを完結させてきてねと登場するが、浅野が連続してオフサイドになってしまった。また、相手のビルドアップミスから原口→浅野でカウンター発動するが、ぎりぎりで届かず。この試合のオーストラリアの右センターバックは非常に怪しかった。なお、日本の先制点もセインズベリーがきっかけだった。セインズベリーにボールを持たせる意図を多少は日本の守備からも確かに感じることはあった。それでも、あっさりと小林悠サイドにボールを運ばれていたので、そのあたりに狙いがあったのかどうかは非常に気になる。

オーストラリアはレッキーを入れて、スクランブル気味の4-3-3に変更。ハーフスペースにウイング、横幅にサイドバック、攻撃の起点にインサイドハーフと役割がスムーズだった。しかし、愚直にサイドバックにハーフスペースからボールを預ける作業を繰り返しているのは少し面白かった。それでこそ、日本のサイドハーフに守備を強いられる狙いがあったのかもしれないけれど。

日本は最後に原口→丸山が登場する。そのまま原口のポジションに入ったので、FC東京サポも驚いたに違いない。恐らく高さ対策だろう。清武、浅野をいれたことで、高さを補強しないといけないというのも交代枠を消費することにつながる。もったいないが、しかたない。槙野のハンドからスピラノビッチであわやの場面を作られるが、今日はセットプレーから失点をしなかった日本。よって、引き分けで勝ち点を持って帰ることになった。オーストラリアからすれば、ボルを保持しても何もできんかったやないか!!となる。日本からすれば、引き分けやけど、後半はカウンターほとんどなかったやんかサンドバックか!と、いわゆる痛み分けで試合は終了した。

ひとりごと

ハリルホジッチが相手の良さを消してからのカウンターサッカーを得意としてるとすれば、本大会でもこのような試合展開になるのだろう。試合前、後の選手のインタビューをみても、そのように感じさせられる。そういう意味では、ボールを持てる、または持たされるアジアにおいて、ハリルホジッチが自分らしさを出す、めったにないチャンスだったと言えるかもしれない。そのハリルホジッチのチャンスに対して、代表の選手達は愚直に従ったと思う。2010年のトラウマ(岡ちゃんの変)があるメンバーも多数いたけれど。

ボールを保持すると従わないけれど、ボールを保持しないと従う、という構図もなかなか興味深い。ただし、ときどき暴走して繋ごうとしていたけど。逆にセンターバックの割り切りは爽快だった。ビルドアップタスクなければ、輝けますみたいな。それが両者にとって良いかはわからないけれど。

槙野の役割はなんだったのだろう。森重、吉田を輝かせる意味での4CBは機能していたけど、原口に長い距離を走らせる形となってしまった。相手のサイドバックの高いポジショニングは、サイドバックで対応しないと、サイドハーフがさすがに死んでしまう。アトレチコ・マドリーの両翼でも死んでしまう。そういう意味で、このサイドハーフの役割(相手のサイドバックについてどこまでも)をハリルホジッチがどのように考えているかは興味深い。原口が前にいないと、香川をおろした意味がないというか。

あとはこのサッカーに適した選手をいかに見つけてくるか。アルジェリア時代と違って(2014年のアルジェリア代表の選手のほとんどがフランスの下部組織育ち)、ハリルホジッチと選手たちが共有しているものが少ないのは現状だ。

11月にホームで行われるサウジアラビア戦で勝てなければ、今日の引き分けは断罪されそうな予感。相手のサイドバックの裏に浅野で終わりそうな試合でもあったので。浅野が背が低いというなら、相手にハイボールをさせなければいいとなるけれど、ボールを保持するサッカーをハリルホジッチは志向していないので、それはまた別のお話。

コメント

  1. より:

    こんにちは。いつも興味深く読ませていただいてます。
    サッカーダイジェストの記事より槙野の発言の抜粋です。
    「ちょっと真ん中よりの守備を意識していました。自分に求められていた役割は、(同サイドにいた)原口選手の守備のオーガナイズをすることと、前に行きたがる(香川)真司にストップをかけて真ん中のスペースを消すこと」
    らいかーるさんは槙野がこのタスクを遂行できてたと思われますか?

    • らいかーると より:

      こんにちは。いつもありがとうございます。

      守備面だけを考えれば、槙野は働いたと思います。ただし、攻撃面のことを考えると、とくに原口のポジショニングについては気を使ってあげても良かったかなと。先制点と後半のクロスを浅野未遂の場面のような位置に原口をおいてあげれば、ショートカウンター発動機会は増えたんじゃないかなと。

  2. アジアの体毛 より:

    今後、このサッカーはどのように発展していくでしょうか?
    怪我人などのスクランブルとはいえ、槙野を左CBのように使ったところを見ると5バックもありえるのか、それともこのままサイドハーフに死んでもらうか
    このサッカーをする機会が予選で再び訪れるかは微妙ですが・・・

    • らいかーると より:

      オーストラリア戦のみの内容だけを考えると、プレッシング開始ラインが幅広くなる→カウンターの機会が増えるくらいにはなるかと思います。ただし、アジアでは出番がもうなさそうですね。

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