現代サッカーの潮流とレアル・マドリーの関係性について

2022/23欧州サッカー

バルセロナ担当を言いつけられてから、不思議とレアル・マドリーも追いかけている。バルセロナを追いかける理由が「担当」だからとすると、レアル・マドリーを追いかける理由はどこにあるのか。その理由はレアル・マドリーのサッカーがわからなかったらからだ。

その他のチームが目指している4局面のコンプリート、もしくは4局面を自分たちの得意な局面に限定する誘導型のサッカーでもなく、レアル・マドリーはその独自性を保ったまま優勝してしまった。ジェットコースターのような試合たちを並べられると、そのうちにどこかに敗退するのではないか?とレアル・マドリーのファン以外の人は思っていたに違いない。

しかし、チームの完成度のほんの隙間によって敗退してしまったチームたちに比べると、大きな隙間を抱えるレアル・マドリーは、念能力に例えると、特質系にしか思えなかった。そんな特質系を理解するために、バルセロナと比較しながらレアル・マドリーを追いかける日々もまた懐かしさを感じせるものだったことは言うまでもないだろう。

ゴール前に人がいない!ことの理由とメリット

ゴール前に誰もいないけど、これはどうなるんだろう。

レアル・マドリーのサッカーを久々に見たときの素直な感想だった。ヴィニシウスが左サイドでボールを持つ、ベンゼマが近寄ってサポートに行く。ベンゼマの代わりにゴール前に飛び出す人はいない。相手の最終ラインとバトルする選手がいなければ、中央3レーンのライン間を狙う選手もいない。ちなみに、逆サイドの大外や相手にブロックの外に選手はたくさんいる。それでもベンゼマとヴィニシウスは見事な二人称の崩しでゴールまでサイドから攻めることもあれば、攻撃をやり直してボール保持を継続することもある。5レーンが全盛の時代に強烈な違和感を覚える配置であった。

レアル・マドリー特有のゴール前に人がいないことが定期的に現れる現象が狙ったものか、そうでないかは置いておこう。問題はゴール前に人がいないことによるメリットとデメリットだ。

デメリットはゴール前での迫力がどうしても足らなくなる点だろう。もちろん、残り時間が少なくて負けていればレアル・マドリーもゴール前に人員を導入すると思うが、困ったときのクロスの的もいないわけだ。ボールを持たれたとしても、相手からしてもまだまだ焦る状況ではないとなるだろう。

メリットはボール保持の安定となる。ブロックの外に味方がわんさかいるので、相手を押し込んでボールを持つことができる。レアル・マドリーはプレッシングを高い位置から行うことはあまりないので、レアル・マドリーのボール保持率がすべての試合で相手を凌駕する数字になることはあまりない。しかし、パスの成功率はエグい数字になることは、この特異なボール保持の形を所以としていそうだ。

できればボール保持による試合支配

レアル・マドリーの特異なボール保持でどのようにゴールを目指しているのだろうか。

レアル・マドリーは相手のブロックの外を悪名高いU字のボール循環でパスを回しながら、チャンスを虎視眈々と狙っている。相手の視野をリセットするような大外攻撃を仕掛けることもあれば、突然のハーフスペース突撃からの強襲も装備している。ライン間に人がいなければ、相手もボール保持者にプレッシングをかけやすいけれど、ボールを奪えそうで奪えないという悪循環を相手に与えることはレアル・マドリーらしさに溢れている。なので、レアル・マドリーにボールをもたせれば、のらりくらりとボールを持ちながら、突然の強襲に怯えながら時間を過ごすことになるだろう。

アンチェロッティはミラン時代に4312、または4321で時代を彩ったと記憶している。43による多人数のビルドアップは当時としてはなかなか珍しいものだった。ビルドアップ隊を多くすることで、相手のプレッシング隊を牽制する。もしも、相手がプレッシング隊をさらに動員してきたら、ピルロにパスを合図にフィリッポインザーギとカカが一気に襲い掛かる構図はよくできたものだった。レアル・マドリーの多人数による相手を押し込むボール保持はそんなことを思い出させるものでもあった。

で、何のためにレアル・マドリーが多人数によるボール保持を行ってるか?と考えてみると、答えはシンプルにボール保持による試合支配の時間をできるだけ増やしたいからだろう。ただし、レアル・マドリーの場合はできるだけ増やしたいで、90分をボール保持による試合支配をする気はない。正確にはできない。

その理由は4局面のコンプリートで必要なハイプレッシングをレアル・マドリーは装備できていないからだ。シャフタール戦のようにハイプレッシングがハマる試合も数少ないがなくはない。しかし、セルティックに華麗にボールを回されてしまったように、レアル・マドリーは撤退守備からカウンター局面を強さの武器としているため、その機会が減ってしまうハイプレッシングにはそこまで熱心でない可能性が高い。

しかし、ハイプレッシングができなければ、相手がボール保持を優先的に実行してきたときに自分たちがボールを保持する時間が減りに減ってしまう。ボールを相手に放させるようなプレッシングは苦手としているからだ。よって、自分たちがボールを保持したときはまったりとゆっくりと徐々に相手を侵食しているボール保持スタイルのほうが都合が良い。そのためには中央3レーンに人がいないことは問題としていない。ゴル前に人がいない代わりにボール保持を継続させるための人員を用意できるからだ。

レアル・マドリーの変幻自在のビルドアップ

カゼミーロ、クロース、モドリッチの相互関係は異常!とアンチェロッティが叫んだことは話題になったが、気がつけばカゼミーロがマンチェスターに旅立ってもレアル・マドリーは最強のままだった。ついでにバロンドールを獲得したベンゼマがいなくなってもロドリゴが代役を華麗に果たしている。突然に現れたチュアメニはカゼミーロのように飄々と前のエリアに移動してその位置でも普通にプレーするおまけつきとなり、ボール保持だけを考えれば、カゼミーロの離脱がレアル・マドリーを強化した感すらある。

レアル・マドリーのビルドアップはかたくなに行われている。各々の選手への無茶振りやろというパスも平気で行われる。無茶振りの連続によってクルトワのビルドアップ能力が進化したことはちょっとおもしろかった。相手が前からプレッシングに来てもセンターバックとクルトワは冷静にボールを回し続け、ときには蹴っ飛ばし、ときにはボールを失いながら、今日も元気にレアル・マドリーはビルドアップを行っている。

レアル・マドリーのビルドアップを見ていると、クロースのサリーは特徴のひとつだ。オープンな状態でボールを持てば何でもできるクロースはアンチェロッティが発明したインサイドハーフによるサリーを好んで行う傾向にある。普通のチームは特定の選手のサリーをきっかけに周りの選手が立ち位置を調整する傾向にあるが、レアル・マドリーはこの部分に不安定さが垣間見える。なので、ときどきエグいミスをすることから、相手もプレッシングをしたらリターンがあるかもしれないと躍起になってプレッシングを実行する傾向にある。

クロースのサリー以外の特徴を見ていくと、サイドバックの有能さが目立つ。サイドバックは基本的に大外の低い位置に構えることが多い。その理由は相手のウイングやサイドハーフと相手のサイドバックの距離を広げたいからだろう。レアル・マドリーはウイングを大外に立たせる傾向にあり、相手のサイドバックをピンどめすることが多い。よって、カルバハルたちが低い位置を取れば、バルベルデたちとのウイングの距離は開き、このエリアにインサイドハーフが流れてくることは日常茶飯事となっている。

しかし、ベンホワイトが冨安にパスを出さなかったように、なんとなくセンターバックからサイドバックへパスをしても相手にプレッシングのスイッチが入ることが多い。しかし、レアル・マドリーの両サイドバックは相手と正対して相手の足を止めることができる。その状況から中央エリアで移動を繰り返すモドリッチ、チュアメニ、クロースにボールを入れることで、センターバック→サイドバック→中盤の選手たちという循環が成立する。内外内のボール循環は相手からすると厄介極まりない。

なお、マンディは困ったらヴィニシウスに丸投げする傾向にある。なお、カルバハルは柔軟な立ち位置でビルドアップの出口となることもできる。モドリッチの位置に合わせて、セントラルハーフのように振る舞うカルバハルはレアだが、この柔軟性はなかなか見られるものではない。マンマークが全盛の時代にチュアメニ、クロース、モドリッチが移動を繰り返すことは理にかなっていると言えるだろう。

なお、困ったときのクルトワのボールの受け手としてもサイドバックとウイングは強さを発揮する。特にバルベルデは妙に強い。また、最近はトップでスタメンに定着しているロドリゴはベンゼマよりもビルドアップの出口となる意識が強いようで、中央の隙間に現れてボールを引き取る傾向が強い。むろん、ベンゼマは前で競り勝てるので、下がる必要はないので正誤性の問題ではない。

サイドユニットの多彩さ

相手を押し込んだときのマドリーの配置がゴール前に人がいないと書いてきたが、その代わりにサイドには人がいる傾向にある。で、このサイドユニットの破壊力が強い。ちなみに左サイドと右サイドで枚数が異なっていることも特徴だ。

右サイドはウイング、インサイドハーフ、サイドバックによるトライアングルグルが基本路線となっている。トライアングルグルでも壊せないときはワントップ、もしくはセンターバックが登場し、+1となる傾向がある。なお、困ったときにルーカス・バスケスがサイドバックで登場する采配がよく見られる。カルバハルが立ち位置で周りの選手を活かすならば、ルーカス・バスケスは飛び出しと大外レーンでの存在価値で強さを見せることが特徴だ。

左サイドはサイドバック、ウイング、インサイドハーフ、ワントップの選手による菱形アタックが基本路線となっている。特にマンディとヴィニシウスはレーンを重ねる事が多い。その代わりに内側にはワントップの選手が参入してきて、インサイドハーフの選手は後方支援に徹することが多い。

と簡単に書いてきたが、ここからが本番である。ビルドアップでレアル・マドリーのサイドバックが鬼であることを書いてきたが、レアル・マドリーのえぐいところは各々の質でボールを逃したり突破できちゃったりするところにある。それはサイド攻撃でも同じで、さらにコンビネーションの多彩さが加わっていく。

一人称の崩し

言うまでもなく、単独による突破。突破でなくてクロスで終われるなら問題ない。ヴィニシウス、サイドに流れたロドリゴ、バルベルデ、ときどきマンディが可能とする。特に最近のヴィニシウスのクオリティはちょっと異常。リーガでヒールリフトを披露したこともあったが、ボールを取られるとは全く思っていないプレーの連続でワールドカップで主役になる可能性もある。左サイドに流れるロドリゴの存在によってトップや内側でのプレーも増えてきたこともあって、プレーの幅がさらに広くなりつつある。

二人称の崩し

ボールを持っているウイングの選手をシンプルに追い越す。外側、内側の配置からハーフスペース突撃をしたり、味方の動きを囮にしたりと様々な関係性で突破する。この組み合わせがレアル・マドリーは無限にある。いや、無限にはない。昨シーズンではベンゼマとヴィニシウスの関係性で左サイドからこじ開ける場面も多数であった。この関係性は右サイドのほうが優秀。バルベルデ、カルバハル、モドリッチの全員が内側、外側、後方支援を華麗にこなせることによって、驚異となっている。マンディも内側に立つことがあるが、ぎこちなさは否めない。だから、ベンゼマがサイドに流れていたのかもしれないが、それは恐らく選手の個性による相互関係だろう。

三人称の崩し

私が三人目だから。というわけで、ハーフスペース突撃をした選手が空けたエリアに川崎で言えば山根が飛び込んできたり、後方支援の選手がポケット手前のデ・ブライネゾーンからクロスを上げたりと、最近の流行。クロースは三人目として現れてサイドチェンジやクロスを行うことを好んでいる。右サイドは言うまでもなく。ポケット手前の位置に選手を配置することは重要だけど、相手を動かしてできたエリアに誰かが飛び込んでいくことも大事。しかし、後方支援者がいなくなれば、トランジションが不安となる。よって、4人目が必要となる。

四人称の崩し

ウイングがボールを持つ、ハーフスペース突撃して相手を動かす、相手を動かしたエリアに入ってくる、後方支援も待機しているが理想。世界中で行われつつある密集攻撃。またの名をオーバーロード。ワントップの選手やボールサイドでないインサイドハーフが登場して4人目にすることがおおいけれど、センターバックが加勢することもある。マドリーの場合は俺の出番だと叫びながらミリトンが出てくる傾向にある。ちなみにこれらの崩しはマンチェスターシティの433時代のリメイクとなっている。別に真似をしたわけでなく、王道と言ってもいいだろう。

まとめ

孤立してもどうにかできるけど、そもそもサイドで孤立することが少ないレアル・マドリーは、この関係性を活かしながらサイド攻略が不可ならボール保持の継続を選ぶようになっている。ボール保持のサイドを出発点とする攻撃をメインテーマとすると、サブテーマが撤退守備からのロングカウンター、相手を引き込んでのビルドアップからの速攻となるだろう。結果的にだが、相手が罠でもはらない限りは4局面が試合に現れることもレアル・マドリーの特徴となっている。よって、相手の状況に慣れそうで慣れないことも特徴だろうか。ずっと守っていると集中が研ぎ澄ますこともあるのがサッカーあるある。

そんなレアル・マドリーの弱点となりそうな部分があるすれば、カゼミーロの離脱によって撤退守備の破壊力が低下していることだろう。アンカーのプレー原則である困ったときはディフェンスラインに加わること、そして攻撃を跳ね返すことがカゼミーロは世界屈指であった。その穴は埋まりそうにない。だからこそ、ゆったりと世代交代をしながら、ハイプレッシングを手に入れようと画策しているのかもしれないが。

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