【動かざること山の如し??】サンフレッチェ広島対ガンバ大阪

マッチレポ2016×Jリーグ

サンフレッチェ広島のスタメンは、林、千葉、佐々木、塩谷、青山、森崎和幸、柏、ミキッチ、茶島、柴崎、佐藤寿人。ドウグラスの後釜は茶島。世界クラブ選手権での活躍も記憶に新しい選手。清水からやってきた期待のピーター・ウタカはベンチ。その他では、佐々木がスタメンで、水本がベンチへ。リーグ戦では出場機会が多いイメージがない佐々木は、チャンピオンシップで活躍している。アジア・チャンピオンズリーグとJリーグをどのように両立させていくのか、注目している。

ガンバ大阪のスタメンは、東口、オ・ジェソク、丹羽、今野、藤春、井手口、遠藤、阿部、宇佐美、アデミウソン、パトリック。セカンドチームを作ったことから将来性のある選手を多く獲得。新戦力と呼べるのは、アデミウソンと藤本淳吾くらいだろうか。宇佐美を左に、倉田を中央で使ってまで手に入れた1列目からの守備を放棄するかのようなアデミウソンの獲得。アデミウソンは真面目な選手だが、守備で献身的に振る舞うことを長所としていない。そんな宇佐美とアデミウソンを共存させながら、守備の強度を維持していくという作業に取り組んでいくことになりそうなシーズンの序盤。最適解がどのようになるのか、そもそも最適解が見つかるのか、注目している。

■青山がダメなら塩谷と佐々木

サンフレッチェ広島のボールを保持しているときのシステムは4-1-5。ボールを保持していないときは、自陣に撤退して5-4-1。基本的には、今までどおりのミシャ式。

ガンバ大阪のボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。アデミウソンとパトリックを1列目。左サイドハーフに阿部が配置されている。1列目の守備は、相手のセンターバックへのプレッシングではなく、サンフレッチェ広島のセンターバックから青山にボールが渡らないようにパスコースを制限するポジショニングをとることだった。

青山へのパスコースを制限されたサンフレッチェ広島。ただし、ガンバ大阪の1列目の両方の選手がパスコースの制限を行ったので、サンフレッチェ広島の3列目のビルドアップ隊は自由にボールを持つことができていた。青山へのパスコースという選択肢はないのだが、相手がプレッシングにこなければ、選択肢が制限されていても焦る必要はない。もちろん、残り時間やスコアによっては、こういった状況は歓迎すべきではないことが多い。ただし。試合は始まったばかりなので、サンフレッチェ広島はゆっくりとボールを動かしながらボールを前進させる機会を探して行った。

サンフレッチェ広島が見つけたボールを前進させられそうなポイントは、相手のサイドハーフ(宇佐美や阿部)と1列目(パトリックやアデミウソン)の間であった。両者の間にパスラインを見つけることができたサンフレッチェ広島は、塩谷&佐々木から中(茶島、柴崎)と外(柏、ミキッチ)の選択肢を持ちながら、縦パスを入れることでボールを前進させることができていた。青山へのパスコースを制限する役割のガンバ大阪の1列目。フリー状態のサンフレッチェ広島のセンターバックは、なかなか前に出てきてくれないので、パトリックたちがプレッシングを無理矢理に発動させる場面が目立った。アデミウソンとパトリックは相手のセンターバックと同数になるようにプレッシングをかける。そして、宇佐美たちサイドハーフは対面の塩谷がボールを持ったらプレッシングをかける。よって、アデミウソンと宇佐美の間にスペースができてしまうことが多かった。

遠藤と井手口の役割は、ボールサイドのシャドウをマンマーク気味に捕まえることだった。ただし、アデミウソンたちがプレッシングを発動させると、青山を見るという役割も増えてしまう。さらに、佐藤寿人も落ちる動きで、遠藤、井手口たちの役割を増やしにかかる。役割過多は言いすぎだが、見なければならない相手が複数いるという状況によって、本来の自分たちの役割をスムーズに遂行することは困難そうであった。おそらく1列目のプレッシングを発動する状況の整理などは、なされていなかったのかもしれない。また、茶島と柴崎は相手の隙間でボールを受けることを得意としていたことも、この状況に拍車をかけた。ただし、井手口は無類の人への強さを発揮し、サンフレッチェ広島の攻撃を何度も食い止めていた。

サンフレッチェ広島が自陣に撤退するモデルなこともあいまって、ガンバ大阪もボールを保持することはできていた。つまり、守備は自陣に撤退してからスタートするという共通のモデルを採用していたことから、定位置攻撃をお互いが繰り返す展開になっていた、ガンバ大阪の攻撃の起点は、サンフレッチェ広島の1列目の守備の兵站不足(1枚ではプレッシングをかけきれない)を利用して、オープンな状況を作る。前線の選手たちがポジションを流動的に変化させて、サンフレッチェ広島のゾーン・ディフェンスの隙間から攻撃を仕掛けていく。アデミウソン、宇佐美と狭いスペースでもプレーできる選手、そして、オープンな状況だったら狭いエリアにもボールを入れられる選手(遠藤と井手口)がいることからガンバ大阪の中央攻撃は成り立っていた。サイドバックが上がらない代わりに、遠藤か井手口が相手のブロック内に上がっていくことも攻撃の特徴といえるだろう。

ガンバ大阪のプランからすると、前線の4枚を相手の嫌がりそうなポジショニングを取らせる。ビルドアップ隊がボールを運びことで、サンフレッチェ広島の中央(青山と森崎和幸)を動かすようにデザインしているように見えた。また、攻撃を仕掛ける→そのまま切り替えでボールを回収したかったのだろう。しかし、自陣でも深さを作ることのできるサンフレッチェ広島のビルドアップの前に、ネガトラ(ボールを失ったさいの奪い返す仕組み)を試みても回避されてしまい、そのままネガトラのために前に人員をさいたことで発生するスペースを利用され、カウンターを受ける場面もしばしば見られた。

ゆっくりと攻撃にリスクを取り始めるサンフレッチェ広島。攻撃で興味深かった形は、インサイドハーフ突撃。シャドウの選手をインサイドハーフとして考えれば、他のチームでもよく見られる形。柏やミキッチがボールを持ったときに、サイドのサポートをする。もちろん、サポートを利用して突破をする場面もあるのだが、真の狙いは相手のボランチ(遠藤や井手口)を動かすことにありそうだった。茶島たちがサイドや相手の裏に飛び出していけば、遠藤たちがついていく約束事にガンバ大阪はなっている。よって、彼らを中央から動かし、そして空いた中央のスペースに佐々木や塩谷が入ってくる形が出てくる。塩谷や佐々木に対しては、パトリックかアデミウソンがついてくるのだけど、彼らはそこまでは下がってこなかったりするので、理にかなった計算であった。ガンバ大阪のサイドハーフは柏、ミキッチに対応するサイドバックのサポートをする約束事になっていたので、アデミウソンたちが対応するしかないとなる。また、25分が過ぎると、ボールに触れなかった青山がしびれをきらして、ディフェンスラインに降りてプレーする場面も出てくる。

前半終了直後には、サイドバックに高いポジショニングをとらせて、攻撃の比重を強くするガンバ大阪。しかし、ビルドアップ隊からのパスラインはあるのだが、潰される場面が多数。ただし、技術がある選手が多いので、ただではつぶされない。そして、セットプレーを連打しながら得点を狙っていった。両チームがゆっくりと動き始めた前半戦だったが、決定機はほぼゼロ。林、東口の出番が少ない前半戦となった。定位置攻撃の繰り返しでは、相手の守備が整っていることが多いので、なかなかフィニッシュまで辿りつけないというのが実情だろう

■チームを動かす長谷川健太

後半になると、ガンバ大阪が試合を動かそうと変化を見せる。

プレッシング開始ラインを相手陣地に設定。深追いも辞さず。前半終了直後に見せた積極的なスタイルを持続させた。宇佐美を中央へ。アデミウソンを左へ。ただし、阿部とアデミウソンはポジションを入れかえることが多い。サイドハーフのアデミウソンはボールラインよりも下がって守備をしたり、しなかったり。後半のガンバ大阪は4-4-1-1で守備をしていた。宇佐美よりは下がって守備をしなければならないアデミウソンだが、その役割を果たしていたかというと微妙。

積極的なガンバ大阪によって、試合は強引に動きを見せるようになっていく。定位置攻撃の繰り返しからトランジションが発生するようになり、相手の守備の準備が整っていないときに攻撃を仕掛けられる状況が、特にサンフレッチェ広島に訪れるようになっていった。ただし、ガンバ大阪も多少のリスクは計算済みのようで、この展開を受け入れて積極的なプレーを続けていった。

50分に広島が先制。塩谷のクロスに佐藤寿人が合わせる。このゴール直後に佐藤寿人は浅野と交代。阿部が相手を追いかけ回しすぎて肝心の自分の役割へのプレッシングが遅れた!といえば簡単だが、ボールを奪ったり、奪われたりのいわゆる守備が整理できていない状況ではよく起こる現象。その現象によって得た時間を塩谷が利用して良いクロスを上げたことがすべて。もちろん、ミキッチのオーバーラップのおかげで時間をさらに得られたんだけども。

そしてその直後に無情のPK判定でサンフレッチェ広島に追加点。丹羽の顔面ブロックがまさかのハンド判定となってしまった。悲しみの丹羽。

一気に2点差になってしまったガンバ大阪。58分にアデミウソン、パトリック→倉田と長沢が登場する。いわゆる特別な選手から献身的な選手へ。倉田は十分にスペシャルな選手だと思うけども。

67分にガンバが反撃。自陣深くでボールを奪ってから倉田→サイドチェンジで阿部とカウンターの教科書のような攻撃。阿部のクロスを中央で宇佐美が合わせて一点差となる。そして、サンフレッチェ広島は柴崎→ピーター・ウタカを登場させる。

そんなピーター・ウタカがコーナキックから強烈なボレーを決めるのだから、さすが。ドウグラスの真の後釜のピーター・ウタカだが、その性能は抜群だった。清水エスパルス時代も孤軍奮闘が目立っている。

両チームともに交代枠を使いながら、試合が終了。リスクを冒したガンバ大阪に対して、冷静にどこのエリアの選手が空いているかを認知しながら、戦ったサンフレッチェ広島が勝者となった。3-1でサンフレッチェ広島が優勝して、ゼロックススーパーカップは終わった。

■ひとりごと

良くも悪くもいつもどおりのサンフレッチェ広島に対して、ガンバ大阪は色々な動きを見せた。長谷川健太が何を考えているかは興味深い。前半と後半でチームデザインは異なったし、宇佐美とアデミウソンの起用法も実験な雰囲気を感じた。また、攻撃展開もサイド攻撃よりは中央のポジショニングからのコンビネーションが中心。パトリックが右サイドに流れていたのは今は昔。中央のコンビネーションからの破壊を考えると、倉田、宇佐美、アデミウソン、藤本あたりが絡むようになると、なかなか危険な破壊力を持ちそう。そんなときに、サイドバックがサイドで存在感を見せられるかが鍵になるのだけど、日本代表に近い2人がいるのだから、問題はないか。昨年とは違う、またマイナーチェンジをしたガンバ大阪が見られるかもしれない。

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