増嶋が長期離脱してしまった柏レイソル。代役はエドゥアルド。また、累積のため出場停止の茨田の代役は大谷。大谷の位置には下部組織出身の小林を起用。ACLで唯一の光明になっている柏レイソル。過密日程が再開するが、代表ウィークにより休息十分。よって、ほぼベストメンバーで横浜F・マリノスを迎え撃つ。
モンバエルツ監督を迎えた横浜F・マリノス。開幕戦こそ川崎フロンターレにやられたが、結果を残しながら時を過ごしている。新監督に必要なのは結果なので、良い流れになりつつあるのかもしれない。富澤、中町と鉄壁だったコンビの代わりに起用されたのはファビオ、三門。そして、泣かず飛ばすの藤本に変わって喜田がスタメンに抜擢されている。なお、古巣との対決を迎える小林祐三は強行出場らしい。
■チームの役割か、個人の個性の差によるものなのか
吉田達磨監督を迎え、下部組織からの一貫性に取り組み始めた柏レイソル。後方からボールを繋いでいくことを基本としている。よって、横浜F・マリノスは高い位置からの攻撃的な守備によって、その基本を破壊しようと試みた。
高い位置からの攻撃的な守備に対して、どのように回避するか。
王道はキーパーを使ったプレッシング回避だ。キーパーをビルドアップに組み込むことで、ピッチでは11対10の状態で試合を進めることができる。さすがのノイアーでも、相手のFWをマークすることはない。よって、キーパーをビルドアップに組み込めれば、必然的に数的優位状態で試合を進めることができる。また、キーパーにボールを下げることで、ピッチを広く使えること、ポジショニングを整える時間を得ることができる。しかし、柏レイソルはビルドアップにキーパーを組み込まない。前半に二度だけそんな場面があったが、非常に危なかっしいものであった。ボールを失うリスクを考えれば、キーパーにビルドアップ能力がないならば、無理矢理に行う必要はない。
柏レイソルの王道は、インサイドハーフ落としだ。左インサイドハーフに起用されたときの大谷は、DFラインに落ちるプレーを得意としている。左サイドバックと左センターバックの間のスペースにポジショニングすることで、相手の守備の基準点をずらす狙いがある。大谷落としだけでなく、柏レイソルはボールを前進させられないときに選手のポジショニングを上下動させることで、状況を打開する習慣を持っている。ただし、この試合で左インサイドハーフに起用されていたのは小林。大谷のように、小林がポジショニングを下げる場面はほとんど見られなかった。
となると、大谷の動きは個性によるもので、チームの役割として整理されていないのだろうか、という疑問が出てくる。もちろん、選手の個性がピッチにもたらす影響は大きい。よって、そのような個性は尊重されるべきだ。しかし、ポジショニングを変更するような、チームの助けとなるプレーまでもが個性となると、その選手がいなくなったときにチームが機能しなくなるのは当然の理だ。選手の差をどこまで個性とするか、役割とするかの点において、疑問符の残る場面であった。
前述のようにインサイドハーフ落としが機能しなかった、というよりは見られなかった柏レイソル。キーパーを使ったビルドアップも行わないので、横浜F・マリノスの攻撃的な守備を正面から受け止めることになる。効果的にボールを前進させられない中で、動き始めるのはレアンドロ。ファビオ、三門にインサイドハーフが捕まっているときに、ワントップの選手を落とすのも王道だ。ボールが届かないレアンドロは中盤を助けるために、何度も落ちる動きをすることで、チームを助けようと試みた。これで多少は形になってきた柏レイソルだが、時間を作れるのがレアンドロのみだったので、横浜F・マリノスの守備網にあっさりと引っかかる場面がどうしても多くなってしまっていた。
怖いのはこのレアンドロ落としも、レアンドロの個性だったときだろう。
■ファーストディフェンダー
攻撃的な守備によって、柏レイソルの攻撃を破壊した横浜F・マリノス。ボールを保持して攻撃を仕掛けていく。開幕戦ではひたすらに相手の裏に放り込んでいたが、この試合では徹底的な地上戦で柏レイソルのゴールに迫っていった。
柏レイソルの守備は4-1-4-1で形を作る。ワントップのレアンドロは相手のボールホルダーに執拗にプレッシングをかけることはしない。また、インサイドハーフの選手も相手のディフェンスラインまで深追いする場面はない。よって、横浜F・マリノスのビルドアップ隊は比較的自由に振る舞うことができる。よって、ボール保持者へのファーストディフェンダーが決定されない状態なので、出し手と受け手のタイミングは合わせ放題となる。
横浜F・マリノスの用意されたボール循環は2通り。
大谷の脇のスペースを前線の4枚がポジショニングする中中と、サイドバックからサイドにはっているサイドハーフへの外外。ときどきサイドバックがボールを持っている時に、サイドハーフが中にポジショニングしていてつまる場面が見られた。誰が大谷の脇を使うか、誰がサイドにはっているかの役割が整備されいけばもっと機能したかもしれない。
ボールを保持したいならば、かつてのバルセロナのように徹底的に相手を追い回せばいいのだが、柏レイソルはやらない。相手にボールを渡す。たちが悪いのは、相手にボールを渡したところで、守るべき型を持っていないところ。この試合のように、横浜F・マリノスに簡単にボールを運ばせてしまう。カウンターへの誘いなんですといったところで、確かに前半に先制したが、機会が一度か二度ではその作戦が機能しているとはお世辞にも言えない。
■采配の妙
得点が入ることで、何かが変わる。サッカーはそんなスポーツだが、柏レイソルは何も変わらなかった。そんな構造上の問題。大谷の脇。ファーストディフェンダーの決定。
最初に動いたのは柏レイソル。小林→太田。対面のファビオにフルボッコにされていた小林。大谷落としを太田がやるわけないだろうと思って観ていたが、やっぱりやらなかった。よって、盤面には特に影響なし。
次に動いたのは横浜F・マリノス。守備では獅子奮迅、でも、攻撃の場面でミスを連発していたファビオ。ファビオ→伊藤翔。喜田を中盤に落として、攻撃的な采配。エドゥアルドが滑って大チャンスを迎える伊藤翔だが、ポストにぶつける。この采配で横浜F・マリノスは少し迷いが出る。喜田ほどの守備を伊藤翔ができるわけもない。また、ボールを保持しているときに大谷と中盤でやりあっていた喜田がポジショニングを下げたことで、中中、外外のどちらの循環でボールを運ぶかが曖昧になった。実はかなりの迷采配。でも、博打に見えなかったのはそんな相手からもボールを奪えない柏レイソルの守備のおかげであった。
次の動きは横浜F・マリノス。小林祐三→中町。三門を右サイドバックにする試合前から準備された采配。相手の守備が緩くなって繋げるようになってきた柏レイソル。でも、小林祐三の裏にひたすらにクリスチャーノを走らせる形が一番マリノスにとっては嫌だった。でも、太田がそのような動きをした記憶はない。インサイドハーフ突撃も選手によってまちまち。
横浜F・マリノスの狙いとして、右サイドバックのオーバーラップは試合を通じて行われていた。その理由はクリスチャーノが下がってこない事が多いから。同点ゴールの入るちょっと前にも小林祐三がフリーでスルーされる場面があったように、クリスチャーノは戻ってきたり戻ってこなかったりする。そして、三門がアシストを決めた場面では下がってこないクリスチャーノ。カウンターに備える役割をチームが与えているかは不明。
これはまずいと柏レイソル。もう一つ前に動けばよかったのに。工藤を左に、クリスチャーノを右に。そして、武富→山中を入れることで、工藤を中央へ。クリスチャーノを右に移動させることで、守備の穴をふさぐ。そして、山中のクロスを中央に移動した工藤とレアンドロ、クリスチャーノでしとめる、なんて絵だろう。
モンバエルツ曰く、そうじゃない。俺達が狙っているのは右サイドバックのオーバーラップではなくて、クリスチャーノの裏だ!!
というわけで、急に下平が攻撃参加し始める。あからさま過ぎて笑った。同点に追いついたこともあり、クリスチャーノの守備は余計にあやふやになる。前残りをする気持ちは痛いほど分かる。ホームで同点だし。
危なっかしい横浜F・マリノスの前進は健在だったが、やっぱり止められない柏レイソル。下平のサイドから中央へのパスで攻撃が加速する。パスがずれながらも最後に飛び出してきたのは三門。こんなときのために投入した山中はちょっとだけ間に合わなかった。そして、それを決めたのは下平というできすぎたストーリー。
最後に動いたモンバエルツ。富澤を入れて4-1-4-1の自陣に超撤退。DFラインを低めに設定した4-1-4-1はえぐい。DFラインが高めに設定された4-1-4-1は崩し放題。何を守って何を捨てるか。最後にそんなレッスンをし、横浜F・マリノスが日立台で見事な逆転勝利を成し遂げた。
■独り言
大谷落としとレアンドロ落としをチームに落とし込めていないなら、それはそれで超やばい。守備よりこっちのほうがやばい。
守備の構造上の問題ははっきりしている。4-1-4-1でファーストディフェンダーが決めにくい状況にも関わらず、それを決める仕組みが相手に依存している。
どうせなら、レアンドロとクリスチャーノを前に出して4-4-2にしてしまえばいい。でも、工藤を起用する意味がなくなる。誰を守り誰を捨てるか。
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