ワールドカップに向けた二次予選。状況を説明すると、他の国よりも日本は試合数が少ない。その状態で2位。今日勝てば首位。だから、単純に勝たなければいけない試合。前回の対戦では、シンガポールとホームでスコアレスドローになってしまった日本代表。ハリルホジッチ曰く「理解できないヨ」とのことで、今回はリベンジマッチと題されていた。ちなみに、シンガポールもこの試合に勝てば、首位の可能性がちらほら。よって、博打を打つなら今日、つまり賽は投げられた日となる。
シンガポール戦のスタメンは図の通り。サプライズは柏木と金崎、清武のスタメン起用。ザッケローニ時代からの中心であった香川、岡崎をスタメンから外すというのはあまり記憶に無い。特に金崎のワントップは感慨深いものがある。金崎は鹿島アントラーズでもワントップを行っていた。しかし、それは積極的な理由ではない。ダヴィがいない、赤崎は怪我、高崎は機能しないという消去法から、「金崎くん、君しかいない!!」となったはず。そんな金崎が日本代表でもワントップを務めることになるとは、何が起こるかわからないものだ。
■段階を持って変化していく形
シンガポールの守備は4-1-4-1。全員が自陣に撤退して、日本代表の攻撃を迎え撃った。特徴として、インサイドハーフ(14番と21番)が、日本の長谷部、柏木とマッチアップする形が何度も見られた。
ボール保持者にプレッシングをかけなければいけない。ゾーン・ディフェンスだろうが、マンマークだろうが、ミックスだろうが
、不変の法則だ。問題は、どの位置からボール保持者にプレッシングをかけるかだ。このプレッシングをかける位置によって、ハイプレッシング、ミドルプレッシング、ロープレッシング(これはあんまりきいたことない)と表現されることがある。
シンガポールの守備を見ていると、柏木と長谷部には自分たちのラインを飛び越えてプレッシングにくる場面が目立った。日本のサッカーをボランチサッカーと呼ぶこともある。なぜなら、常にボランチを経由して攻撃が組み立てられることが多いからだ。よって、日本代表のボランチにマンマーク(ザッケローニ時代で言えば、遠藤にマンマーク)というのはよくある形と言えるだろう。よって、シンガポールも長谷部たちにプレッシングをかけようと序盤はもくろんだ。
ハリルホジッチの最初の罠がビルドアップを深く行うことだった。つまり、柏木と長谷部の位置まで相手をおびき出すことで、発生したスペースを利用する。シンガポールのインサイドハーフが前に飛び出す。すると、アンカー(15番)の選手ともう一方のインサイドハーフの選手がカバーリングで動く必要があるが、シンガポールは曖昧さを持って行動していた。
よって、この位置に清武をポジショニングさせる。清武は下がることをせずに、相手の2列目と3列目の間にじっとポジショニングしていた。清武が下がってしまうと、金崎が孤立してしまう。さらに、相手をひきつれてくると、自由にプレーしている柏木たちエリアが混雑してしまうかもしれない。それでも、本田と武藤が中央に入ってくるかもしれないが、ハリルホジッチとしてその形は好ましくないとしていたのだろう。彼らを中にいれないためにも、清武は中央に鎮座する必要があった。
主に柏木の縦パスによって、日本はボールを前進させていった。柏木の選択肢は、相手のアンカー周り(主に清武とときどき金崎)、相手の三角形(インサイドハーフ、サイドハーフ、サイドバックを頂点とする)でボールを受けようとする(武藤、本田)、武藤、本田の動きに相手のサイドバックがつられたら、日本のサイドバックを相手のサイドバックの裏に走らせる(主に長友)とたくさん用意されていた。個人的には、清武のシンプルなプレー、相手を意識したポジショニングが一番効いていたと感じた。
グアルディオラの本に書いてあった言葉に、∪字パスという言葉があった。この言葉は、相手のブロックの外でボールを回すことを意味している。守備側から見れば、ブロックの外でボールが回っていることは、そこまで問題視する必要がない。一方で、ブロックの中でボールを受けさせることは、問題視しなければならない。日本代表の攻撃はブロックの中で受ける攻撃が多く、シンガポールはさっそく対応を迫られた。
シンガポールの動きは、とても早かった。気がつけば、サイドの選手も中央にしぼるようになる。その狙いはアンカー周りと三角形のパスコースを消すことにあった。ゾーン・ディフェンスは、何かを重視するために何かを捨てる守り方とされている。シンガポールが、ブロック内の守備を重視するために、サイドの守備を捨てた。もちろん、サイドにボールが出れば、サイドの守備は行う。ただし、サイドに移動する時間が今までよりも長くなるという話だ。それはサイドにボールを集めれば、時間とスペースが今までよりもできるという結論になる。
ハリルホジッチの第二の罠がここにはられていた。
中央でボールを受けさせたくないという相手の意志を確認すると、武藤と本田はサイドにはるようになる(本田はそれでも中央に行きたそうだったけど)。サイドに時間とスペースができていることを認識していたのだろう。そして、この位置から大外にクロスを放つ。トゥヘルのドルトムントが、得意としている攻撃だ。ただし、ドルトムントはサイドバックのクロスを逆サイドのサイドバックがあわせるという極端な形だが。このドルトムントの大外クロスの最大の特徴は、相手の視野外から選手が現れることにある。左サイドからの武藤のクロスを例に考えてみる。シンガポールの守備は左サイド(シンガポールからみたら右サイド)の武藤を注視する。武藤に顔を向けながら、身体の向きはゴールに迫ってくる選手に向けられているだろう。しかし、クロスはそんな身体の向きから見える視野外に飛んで行き、そこには本田が迫ってくる。
シンガポールが中央を固めていないときは、相手のブロック内から攻めよう。もしも、相手が中央を固めてきたら、サイドから攻撃しよう。クロスは必ず大外を狙うように。よって、本田と武藤は中に入りすぎずに、サイドからクロスにあわせるように。サイドバックのクロスは、ファー狙いだけにならないようにしよう。様々なクロスを相手に見せることが重要だ。
日本代表の先制点は、武藤の折り返しを金崎が決める形だった。まさに狙い通りの形だったと思う。ファーサイドでクロスを受けた選手がシュートを打つのか、中に折り返すのかは状況次第。ただし、本田はカットインからのシュートにこだわりハリルホジッチをちょっと苛立たせ、クロスに対して武藤は中央に入りすぎて、これもハリルホジッチを苛立たせていたのではないかと予測している。ただし、本田は途中からクロスに切り替えていた。この変化が何によって起こったのかは誰か聞いて欲しい。
日本代表が先制したことで、シンガポールは前に出てくるようになる。日本代表に勝てば、最終予選に出られる可能性が出てくる。賽は2度も投げられた。シンガポールはロングボールだったり、ショートパスだったりで攻撃を組み立てていた。しかし、日本代表の攻守の切り替え、激しいプレッシングの前に沈黙してしまう。逆に日本代表がロングカウンター、ショートカウンターをできるようになり、日本代表からすれば、願ったり叶ったりの展開となる。そして、2点目が決まる。ボールを奪ってからの速攻。清武がしっかり絡んでいたことが見逃せない。
こうなると、シンガポールはきつくなる。死なばもろともに進化するか、やっぱり撤退するか。後半になると、シンガポールは試合を成り立たせるために撤退するようになる。最終ラインを下げて、日本の攻撃に迎撃体制をとる。もしかしたら、予選突破が得失点差争いになるかもしれないし、ここはホームで無慈悲なスコアになるなんて嫌だしと考えたのかどうか。前半は相手の裏を狙うことができていたが、引いた相手に対して裏のスペースもなくなっていった。それでも、オフサイドになったけれど、酒井宏樹が裏をとった場面は秀逸だった。
引いた相手にはどのように崩すか。ハリルホジッチの罠は、ミドルシュート大作戦だった。前半から繰り返されたが、長谷部のミドルシュートが異様に目立っていた。また、インサイドハーフが攻撃の起点となる。途中でセンターバックに起点を交代する。インサイドハーフが突撃していくとチャンスになりそうだったので、長谷部は地道に得点を狙っていた。ミドルシュートを打てば、相手が前に出てくるだろうという予測がハリルホジッチの罠。しかし、シンガポールは出てこない。ミドルシュートの質が悪いなんてことは別にないが、ミドルシュートを捨てるチームもある。
そして、試合は膠着する。暑さもあり、徐々に疲れが出てくると、シンガポールが反撃する場面も出てくる。キリンカップで日本にきたチームが後半に息切れするのと同じ現象。また、サイドバックの位置を上げて、ウイングを中へという形が酒井宏樹サイドは増えていった。なぜかは不明。そういうのは好まないということか、ハリルホジッチは2列目を全員交代。黙っていてもカットインするだろう宇佐美は少しだけ目立っていたが、香川と原口はプレータイムも少なかったこともあり、特に何もせずに終わった。試合は最後にセットプレー崩れから吉田が決めて3-0で終了。こうして、二次予選の首位に日本代表がなりましたとさ。
■独り言
日本代表の2点目と3点目は偶然にもほどがあるゴールだった。運に愛されるようなゴールが決まるときもあれば、前回の対戦のようにまったく入らないこともある。よって、大切なことは自分たちの狙いが効果的に機能しているかどうかだったりする。それがあれば、運にすべてを託すような、コイントスをして表か裏かで勝敗が決するような試合にはならないだろう。
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