【ゴールを守るとき】リヴァプール対アーセナル【撤退するか、ボールを取り上げるか】

2024/25欧州サッカー

11月の中旬までに、アーセナルのキャッチコピーを考える会の会長です。平たく言うと、アーセナルのサッカーを一言で表してみようぜ!です。たぶん、一言でなくても大丈夫なはずです。このような意思を表明すると、「言語化は素晴らしい」→「言語化なんて意味ない」→「言語化をすることは大事だけど、言葉にすることによって大切なものを失ってしまうから気をつけたほうが良い」派閥がネットの世界を漂いがちです。皆様はどの派閥に属していますか。ぼくはどれもどうでもいい派閥です。ちなみに僕に与えられた宿題は、アーセナルとレバークーゼンです。

というわけで、スタメンはこちらです。

序文

アーセナルは怪我人やらなんやらで選手が不在です。しかし、最強の便利屋ことハヴァーツとなぜ俺をスタメンに使わないんだのトロサールの大活躍で、前線の駒不足を何とかしています。今日の課題はサリバの穴はどないすんねん!となり、今季は健康なトーマスを右サイドバック、ホワイトをセンターバックとして起用することで乗り越える計算となりました。それにしてもティンバーも便利屋。便利屋が多いと、選手が足りないように見えてもどうにかなる不思議。

お気に入りのアルネ・スロットに率いられたリヴァプール。お馴染みの[442]でリヴァプールを改革中にも関わらず、妙に結果が出ているので順調なスタートに成功しています。特定の局面や得意技にこだわりがないチームに見え、まだ横綱ではないのに横綱相撲を実現しているかのような振る舞いが不気味さと強さの両立になっているような。ほら、ボールを持ちたいのに持てなくても、全く気にしていないように見えるじゃないですが。あれって簡単にできる芸当ではありません。

ハイプレッシングをかけるアーセナル

「サリバがいない」ことで、普段の振る舞いから調整をするかと勝手に注目していたアーセナルですが、いつも通りでした。リヴァプールのゴールキックに対して、ハイプレッシングで襲いかかっていく様子は、僕の知っている普段着のアーセナルです。

今日の試合で気がついたことは、アンカーのように振る舞うグラーフェンベルフに2トップが気を取られないように、セントラルハーフの片方が前に出てきていたことです。最初から[442]のひし形で襲いかかるのではなく、相手の立ち位置に合わせて柔軟に変化しているようでした。リヴァプールが[433]、もしくは[4231]でビルドアップをするかは始まってみないとわからないですし、両者を行ったり来たりすると考えるほうがベターなことは間違いありません。

アンカーを気にしなくてよい状況になったことで、トロサールたちはプレッシングを目の前の選手にかけ続けます。キーパーの利き足側からプレッシングをかける細部にこだわった姿勢によって、自然とリヴァプールのロングボールの行き先は「トーマス対ディアス」になっていきました。健康なトーマスはディアスに空中戦で負ける様子はほとんどありません。チェルシー戦ではサラーを起点にロングボールを前進させることに成功したリヴァプールでしたが、この試合では少し不穏な立ち上がりとなります。

ハイブロックを形成するリヴァプール

序盤戦に影響を最も与えた振る舞いはリヴァプールの「ハイブロック」でしょうか。リヴァプールのプレッシングは[424]のような形で行われます。最近の流行りです。ただし、中央の2トップは背中で相手のセントラルハーフを消すのか、相手のセンターバックまでプレッシングをかけるかで差があります。前者がブロックで、後者がプレッシングといえるかもしれません。雑な分類ですが。

リヴァプールがプレッシングに行きたかった説もありますが、アーセナルのセントラルハーフコンビがリヴァプールの2トップの背中をうろちょろすることで、彼らに影響を与えます。アーセナルのプレッシング構造とは逆の形となりますね。セントラルハーフの加勢によって2トップを解放するアーセナルと、セントラルハーフの加勢はなしのため、2トップを解放しないリヴァプール。もちろん、両者の間に優劣はありません。

えー、リヴァプールもセントラルハーフを前に出せばいいのにとなりますが、アーセナルの場合は、ハヴァーツとトロサールがリヴァプールのセントラルハーフの周りをうろちょろしている理由もありました。完全に捨てる道もありますが、[424]の弱点である「ウイングと2トップの間のギャップ」をすべて埋めるには捨てるものが多すぎ問題に直面します。

というわけで、センターバックがボールを持つことを許されたアーセナルが得意の移動を繰り返しながら、徐々にリヴァプールのプレッシングと向き合っていきます。序盤はサイドバックとウイングが横幅を確保し、メリーノとライスがそのまま中盤でプレーしていました。[424]を思いっきり広げるためのサイドプレーヤーと相手を中央にひきつけるセントラルハーフとギャップに現れるトロサールたちとはよくできた設計です。

ゆったりとボールを持ちながらリヴァプールを押し込んでいき、フリーのホワイトからシンプルな裏抜けでサカが抜け出します。そしてロバートソンを華麗にかわし、先制点を決めます。「ハイライン」の裏をフリーの選手の精度の高いボールでやられるのはあるあるです。ロバートソンでどうにかする計算だったのかどうかは聞いてみたいところです。相手の精度と技を褒めるべきかもしれませんが。

目を覚ましたリヴァプール

スコアと時間の変化が試合に与える影響は大きなものです。失点後のリヴァプールは「ハイプレッシング」を解禁します。また、自分たちがボールを保持しようと企み、ロバートソンを残す3バックを披露する時間も生まれるようになります。

先制したことで、アーセナルもハイプレッシングよりもゆっくりと撤退する状況になっていきます。ミドルくらいで止めておけばいいのにといつも思いますが、アーセナルは下がるときはとにかく下がります。もしかしたらサイドバックの守備に少し不安があったのかもしれません。マルティネッリとサカが相手のウイングと対峙する場面が見られるようになっていきます。

個人的にアーセナルがネクストレベルに行くためには、スコアの変化に無頓着になることなのかなと勝手に思っています。この試合の序盤戦では、ハイプレッシングでリヴァプールのボール保持を苦しめ、ボール保持では、自分たちの準備を見事に披露していました。リヴァプールのハイプレッシングと向き合って凌駕していけば、延々と自分たちの表現が序盤戦に続いて可能となるところだったのですが、そういう道を選ぶ気配はありません。それを成し遂げる力はあるように感じるのですが。

ボール保持を許されたリヴァプールは、グラーフェンベルフを軸にジョーンズとマクアリスターが前線を駆け巡り、右サイドではサラーとアーノルドがコンビを組んで襲いかかってくるようになります。特に15分以降は空中戦の的をサラーにする余裕も手に入れたリヴァプールが、徐々に自分たちの形を表現していきそうな流れになっていきます。

それでも全員守備でフィニッシュまで許さないアーセナルはさすがでしたが、困ったときのセットプレーで同点に追いつかれてしまいます。往年のニア逸らしを炸裂させるリヴァプール。

アーセナルの元祖ゼロトップ

同点になったことで、試合は五分五分の展開となります。25分がすぎると、アーセナルのハイプレッシングの強度も落ち、フリーな選手を見つけ出すリヴァプール、なんて場面も見られました。ただし、徐々に自力で勝るアーセナルが試合を優勢に進めていきます。そのきっかけがトーマスの移動が行われた30分前後の場面くらいからはっきりしていきます。

アーセナルはウイングをピン留めに利用したサイドに流れる動きを好んで使っています。この場面ではメリーノとハヴァーツです。この動きにグラーフェンベルフたちがつられたらトロサールが中央で起点になるギミックになっています。コナテたちが迎撃に出てくればOKとなりそうですが、サカたちが執拗に裏を狙ってくるので、そのカバーリングをしなくてはいけません。3バックでこの横幅を守るのは不可能なので、4バックである必要もあります。

リヴァプールのセンターバックは守備の基準点を失い、他のポジションの選手は守備の基準点を複数抱える形となっています。リヴァプールの選手に与えた迷いを利用してアーセナルはボール保持を効果的なものにすることに成功し、リヴァプール陣地に何度も侵入することに成功しました。あとはゴールを決めるだけ、決定機を作るだけなのだ!となり、繰り返されたセットプレーから勝ち越しゴールを決めます。蹴る直前に相手の前に現れるセットプレーはなかなか興味深かったです。

リヴァプールとアーセナルが示した勇気の行方

前半は蹴っ飛ばすばかりの道を選んでいたリヴァプール。ハイプレッシングに来るのだから当たり前かもしれません。しかし、蹴っ飛ばしてもいいことが起きなそうなこの試合において、結果を求めるには乗り越えなければいけない壁があります。というわけで、後半のリヴァプールはジョーンズとグラーフェンベルフにゴールキックを預けまくります。アーセナルのハイプレッシングと向き合う覚悟をハーフタイムに決めてきました。

結果として蹴る形になるかもしれませんが、中盤を経由することによって、アーセナルの面々をさらにおびき出すこともできますし、ゴールキックよりもタイミングをあわせやすくなります。そんな一発目の場面のいざこざからガブリエルが負傷退場。代わりにキヴィオルが登場します。

キヴィオルの登場でアーセナルがハイプレッシングを行う回数は少し減りますが、基本的にはそこまで影響は感じませんでした。影響はボール保持にあり、リードしていることからボールを持つことよりも整理された状況で相手を迎え撃つことに集中しているようでした。

ボール保持と攻撃を許されたリヴァプールは、ソボスライやガクポを入れて攻勢を強めていきます。アーセナルは耐えながらハヴァーツに放り込んでサカとのコンビネーションにすべてを託しますが、途中出場した元気なツィミカスが奮闘。攻撃に夢中のアーノルドサイドはコナテがとんでもないスピードでカバーに走ってくる設計になっていて、アーセナルはカウンターで活路を見いだせなそうな雰囲気となります。

時間が過ぎていくなかで、今度はティンバーも怪我で交代してしまいます。リヴァプールに明確な決定機があったわけではありませんが、このまま残り15分を耐えきれるかは微妙なところだったでしょう。せめてカウンターを仕掛けられればこのまま耐える気持ちもできたかもしれませんが。なので、アーセナルが勇気を見せます。後半は蹴っ飛ばすばかりだったゴールキックを繋ぎ始めます。その勇気をリヴァプールが後半の始まりに見せたものと同じものでした。

苦労しながらもサカのポスト能力を活かし、アーセナルは見事に状況の打開に成功します。しかし、ボールを奪われての速攻でまさかの同点ゴールを決められてしまいます。勇気を出した結果がこれです。こうなると、勇気を出さなければよかったと結果論ではなってしまいますが、さらに上を目指すためには自分たちの能力で主導権を握り返す必要があり、個人的にはこの振る舞いはアーセナルの未来に繋がるものなのではないかと感じました。

残り10分でこの展開から殴り返しにいき、ハヴァーツが根性の突撃をみせるものの、その前にファウルで取り消し。殴り返せるならもっと早いタイミングでも言いたいところだが、スコアの変化が許した振る舞いなんでしょう。試合は痛み分けで同点のまま終了します。

ひとりごと

アーセナルの「撤退442」は昨シーズンの発明であり、レアル・マドリーにもコピーされ、宿敵のマンチェスター・シティを葬った策として記憶している。この試合でもセットプレーは与えるかもしれないけれど、アーセナルが崩された場面はあまり記憶にない。なので、「撤退442」は今季も伝家の宝刀になっている。

ただし、前半に見せたようにボール保持で殴れるならばボール保持で殴り続けたほうが良いのではないかという気がしなくもない。この試合だからの振る舞いなのか、昨シーズンから続く振る舞いなのかは定かではないが、リヴァプールに復活の機会を当てる振る舞いになったことも事実だろう。すべての局面で強さを見せつけられるからこそ、どの局面の噛み合わせを選択するかは難しい選択になっていくのだろうなと感じる試合ともなった。

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