チャンピオンズ・リーグで、アトレチコ・マドリーに敗戦。クラシコから続く失意のなかで、残されたタイトルは、リーガと国王杯。失った誇りを取り戻すためにも、絶対に負けられないバレンシア戦となった。
バルセロナのスタメンは、ブラボ、ジョルディ・アルバ、マスチェラーノ、ピケ、セルジ・ロベルト、ブスケツ、イニエスタ、ラキティッチ、ネイマール、スアレス、メッシ。変更点は、アウベス→セルジ・ロベルト。累積のため、アルダが出場停止。ベンチを眺めると、ディフェンス登録の選手ばかりで、攻撃の選手はムニルのみだった。ネイマール、スアレス、メッシの控えを受け入れる(ほとんど試合に出られない)実力者はそうはいないだろう。あのペドロでさえ、チェルシーに移籍してしまっている。
バレンシアのスタメンは、ジエゴ・アウベス、シケイラ、アブデヌール、ムスタフィ、バラガン、パレホ、ハビ・フエゴ、エンソ・ペレス、アンドレ・ゴメス、サンティ・ミナ、ロドリゴ。監督は、パコ・アジェスタラン。ベニテス、キケ・フローレス時代のアシスタントコーチだ。リバプールでもその名をひっそりと上げている。つまり、バレンシアをよく知る監督が登場。ガリー・ネビルと組んでいたようだけど、、ガリー・ネビルだけ放出して監督に就任している。そして初陣でセビージャに勝つのだから立派。その勢いのままに、カンプ・ノウに乗り込む。ベンチには、パコ・アルカセル、ネグレドと、バルセロナも羨む攻撃陣が控えている。
1列目の脇のエリアを埋めよう
ボールを保持するチームが最初に目指すべき現象は、ボール保持者をオープンにすることだ。ボール保持者をオープンにするとは、ボール保持者がフリーである、相手が前にたっていない、それらの状況を意味する。ボール保持者をオープンにするための方法は、相手の状況(守備の形、ポジショニング)によって整理されてきている。アンカーの列を降りる動き、サイドバックとインサイドハーフのポジションチェンジなどなどによって、相手の守備の基準点をかき乱すことで、ボールを保持するチームは、ボール保持者をオープンな状況でプレーさせようとする。
オープンになりやすいエリアも整理されていきている。相手の1.2列目の間のエリア。相手の1列目が熱心に守備をしない場合は、1.2列目のライン間を支配することで、相手を押し込んでボールを保持することができる。今日のテーマは、1列目の脇。4-4-2を例にとってみる。横幅を4人で埋めている列と、2人で埋めている列で差異が生まれるのは、当然の断りだ。よって、相手の1列目をひたすらに奔走させることで、体力切れを狙う作戦もある。ここでは、その1列目の脇のエリアに対する守り方についてバレンシアの守備から見ていく。
バレンシアのボールを保持していないときのシステムは、4-1-4-1。ただし、アンカーを置いた形と表現するよりは、3センターの横並びといえるか。アンカーを置いた形と書いてしまうと、インサイドハーフはプレッシングをかけて、アンカーはカバーリングに奔走というイメージがどうしてもついてしまう。次にバレンシアの守備の役割を見ていく。
1列目のサンティ・ミナは非常におとなしかった。バルセロナ対策を思い出すと、センタバック同士のパス交換を防ぎながらプレッシングをかける。または、ブスケツについてセンターバックを捨てる、などが思いつく。しかし、サンティ・ミナはブスケツにつくも曖昧で、センターバックへのプレッシングも積極的でなかった。カウンターのために足を残しておくための温存なのか、チームの約束事が守られていなかったのかは不明だ。なお、ブスケツへの対応は3センターで行われる場面もしばしば見られた。
2列目の役割は多岐に及んだ。2列目の役割を見ていると、サンティ・ミナの曖昧な役割は足を残しておくためだったようにも感じる。特徴的だったのは、運ぶドリブルをしてくるバルセロナのセンターバックへの対応だった。マスチェラーノ、ピケに対して、インサイドハーフが前に出てきて対応する。前の列にインサイドハーフが移動すると、インサイドハーフの空けたエリアを埋めるために、他の4人がさっとカバーリングの動きを行なう。バルセロナからすれば、サンティ・ミナがブスケツについているように見える。その代わりに、センターバックはフリー。よって、センターバックの運ぶドリブルから相手の中盤を動かそうとするが、自分たちの意図した形ではない形に相手が移動して守備をしてきた、という状況になった。
インサイドハーフ飛び出しによって、1トップの脇のエリアを使われそうになった状況(センターバックの運ぶドリブル)に対応したバレンシア。最初から2トップで対応しない、相手が使いたいエリアだけに選手を送り込む狙いは、なかなかおもしろかった。1列目の脇のエリアを埋める、そのエリアを相手に自ゆいに使わせないポジショニングの定跡は、サイドハーフの役割になる。しかし、インサイドハーフに行わせるバレンシアのほうほうはなかなか興味深かった。こうした相手の論理を読み取っていくバルセロナの面々。時間の経過とともに攻略法を見つけていくのだから、流石の一言。
バレンシアの論理に対するバルセロナの論理
バレンシアの準備された守備に対して、バルセロナ。序盤は相手の裏へのロングボールが目立つ展開となった。バレンシアの守備は2列目が前に出てくる。よって、ライン間を使わせないために、3列目もラインを上げてコンパクトな状態を維持していた。つまり、ジエゴ・アウベスと3列目の間にはスペースが有った。よって、バルセロナはこのエリアを使うために相手のインサイドハーフが寄せてくる前に、ロングボールを蹴る。バレンシアもロングボールへは準備万端で統率されたディフェンスラインによって、オフサイドの網にかけていく。
次にバルセロナは、センターバックが高い能力をみせつける。バレンシアの守備の仕組みは、インサイドハーフが前に出る→他の2列目の選手は、前に出たインサイドハーフが空けたエリアを埋めるために中央にスライドする。このスライドの状態によって、プレーの選択を変えた。ブスケツ周りに時間があるならブスケツ。スライドが間に合っていないならば、相手が空けてくれたインサイドハーフエリアにバルセロナのインサイドハーフの選手を送る。そして。相手のスライドが間に合ったらサイドにスペースがあるので、サイドにボールを展開する。特にマスチェラーノからのイニエスタへのパスはなかなか見事だった。
サイドにボールを展開したバルセロナの攻撃パターンはいくつかある。サイドバックからウイングでボールを前進させ、インサイドハーフ、サイドバック、ウイングのコンビネーションで同サイドから破壊。もしくは、周りの選手をお取りに使ってのウイングのカットインからのサイドチェンジ。そして、単純に攻撃のやり直しだ。バレンシアからすると、バルセロナの攻撃のやり直しがチームの論理からすると、かなり厳しかった。バルセロナはサイドチェンジを繰り返すことで、相手にスライドを強いる。逆サイドのセンターバックまで展開されると、インサイドハーフが前に出られない状況が成立し、バルセロナはオープンな選手を作ることができていた。なお、ピケは対角線にサイドチェンジを入れる場面が多かった。
バルセロナのサイドチェンジ(サイドバックやウイングを狙った)に対してのバレンシアの守備は、サイドバックが基本は対応していた。サイドハーフが中央に絞る約束になっているので、サイドハーフが制限しているエリアを捨ててサイドを優先する。よって、バレンシアのセンターバックとサイドバックの間にはプレーエリアができる。そして、バルセロナの選手は、相手のセンターバックとサイドバックの間を走り抜ける、またはポジショニング(主にインサイドハーフ)することで、相手の中盤を動かし、サイドでボールを持つ選手に選択肢を与えていた。このようにしてバルセロナは徐々にバレンシア陣内に侵食。そして、ジエゴ・アウベスのスーパーセーブが連発していく。ウナイ・エメリの忘れ形見は今でのバレンシアを支えている。
守備の枚数が足りない問題
グアルディオラ時代を思い出しても、バルセロナには守備で弱点があった。しかし、それを覆い隠すようなボール保持能力と素早い攻守の切り替えがあった。ボール保持能力はもちろんどれだけボールをポゼッションできたかのパーセンテージで示すことはできる。同じくらい大切な数字がパスの成功率になる。かつて、成功率100%を記録した選手もいた気がする。チャレンジパスがないのか?という意味で、評価すべきかどうかは非常に曖昧な数字だけども。
成功率100%が示すように、ボールを奪われないことに特化すれば、ボールを失わないことは可能だろう。ゴールを目指さなくてもいいならば、そんなに困難な作業ではない。よって、バルセロナと対決するチームは、ゴールを目指してくれそうな選手をボールの奪いどころと設定することが多かった。その選手がメッシだ。メッシからボールを奪うことは難しいが、ゴールに仕掛けようとしない他の選手に比べれば、何かを起こせる可能性は高い。そして、現在のバルセロナには、もうひとりボールを持つタイプの選手がいる。ネイマールだ。クラッキを揃えたことで、相手にとってボールの奪いどころが増えたのは何の因果だろう。
この試合のメッシは、らしさを見せていたと思う。特にサイドから中央に侵入してからのジョルディ・アルバへのパスは何度も決定機につながり、実際に得点に結びついている。一方でネイマールはどうだったか。試合後にバラガンと揉めたように、相手の対応と自分へのプレーに苛立ちを隠せないことはありありと感じた。無謀な仕掛けからのボールロストも多く、バレンシアからすれば格好の標的となった。それにしても、うまいのかうまくないのかわからないけど、息の長いバラガンは凄い。
バレンシアの得点は、ネイマールがボールを失ってからのカウンターと、ボール保持からの攻撃。前者はオーバーラップしてくるサイドバックへの対応が遅れた。後者は4-3で守るなかで、ボールサイドでない3センターの脇を相手に使われての失点となった。両ゴールともに、セルジ・ロベルトが絡んでいるのはバレンシアの狙いだったのか、偶然だったのかは不明。特に2点目はブスケツが動いてできたエリアにバレンシアの選手がポジショニングする→ラキティッチがカバーする→ラキティッチのいたエリアは空になるのバルセロナの仕組みを利用した形だった。
ルイス・エンリケのバルセロナの理屈からすれば、相手に多少のチャンスは与えど、得点力は俺達の方が上だ作戦。だから、相手にカウンターの機会を今までに比べると与えてしまうのは割り切っているはず。問題は得点が入らないとき。得点が入らないとき(今日はジエゴ・アウベス)に出くわしたときに、ピケの攻撃参加(終了間際に超決定機を迎える)くらいしかないのもきつい。困ったときのセットプレーもこういうときに限って入らない。そんな悪循環にいるバルセロナだが、バレンシア戦を見ると攻撃の内容は良くなっている。よって、後は決めるだけ。誰が?というわけで、次の勝利で決勝ゴールをあげた選手がスターになりそうな予感。スコアは2-1でバレンシアが勝利した。
ひとりごと
バラガンともめたネイマールが出場停止になるかもしれないらしい。最近のネイマールだったら、試合に出ないほうが良さそう。でも、試合に出ないことで、フラストレーションをためるタイプだったら、問題が複雑になる。出場停止だったら、仕方ないので、怪我の功名状態になるのかどうか。ネイマールの代役がアルダなのかイニエスタになるのかで、ルイス・エンリケの考えもわかりそうだ。
コメント
前のクラシコでイニエスタ、ラキティッチへのパスコースを切りながらモドリッチ、クロースがセンターバックへ寄せていた記憶があるので、それのパクリだと思います。マドリーのウイングは中に絞るのではなくサイドバックへのパスコースを切るポジションだったので、全然ちがうといえば違いますが。
ネイマールは調子が悪いとカウンター発生機になってしまいますね。サイド崩した時のゴール前へ入るタイミングが遅いのも前任者のサンチェスやビジャと比べてしまってため息がでてしまう時があります。但し、裏とりは上手くなりましたし、ドリブル力はメッシ以上かもしれませんので、クラックであることは異論無し。ペップが監督していたらネイマールがどんな選手になっていたか気になります。
ネイマールは前半戦はチームを牽引していましたが、後半戦は判断が悪くなった印象ですね。
必要以上に手数をかけてしまったり。前半戦での活躍が逆に気負いの原因かもしれませんが。
ちなみに個人的にサンチェスはサイドチェンジのパスを受けてもコネて台無しにしていた印象が強いです。
コメントありがとうございます。
ネイマールは、スアレスと2人のほうが自分の持ち味を発揮しやすいのかもしれませんね。アレクシス・サンチェスは、執拗な裏取りが印象に残っています。