【ドルトムントの策略を破壊したスコアの変化】スパーズ対ドルトムント

マッチレポ1819×チャンピオンズリーグ

さて、今回はスパーズサポの人からの依頼を受けて、スパーズ対ドルトムントを観戦してみた。なお、両チームの予備知識はまるでない。ただ、いつも予習をしないので、さほどいつもと変わらない状態だということは秘密だ。つまり、予備知識がない!ということが、自分の場合は言い訳としてあまり機能しない。

最初にスタメンはこちら。

いくら予備知識がない!と言っても、スパーズのスタメンにケイン、デレ・アリがいないことくらいはわかる。なお、ドルトムントもロイス、パコ、ヴァイグルがいない。ドルトムントは怪我やインフルエンザで大変だったらしい。つまり、両チームともに野戦病院状態だったわけだ。せっかくのチャンピオンズ・リーグなのに。というわけで、文字通りに総力戦となった試合だった。前半戦はドルトムントのペースで試合が進んでいったので、ドルトムントを中心に書いていこうと思う。

ドルトムントのボールを運ぶ設計

キック・オフからボールを繋いでいく気満々の姿勢を見せるドルトムント。しかし、フォーメーションの噛み合わせを見ていくと、まずい箇所があった。味方のビルドアップ隊と相手の2トップ+エリクセンのかみ合わせだ。

ビュルキを使えば、理屈ではどうにかなる。しかし、スパーズがビュルキまでプレッシングに来なければ、ビュルキの選択肢はロングボール一択となる。ドルトムントに空中戦で勝てそうなエリアを探してみるがない。よって、意地でも繋がないといけないドルトムント。さて、困った困ったである。なお、相手のビルドアップ隊に対して、2トップ+トップ下の三角形で同数プレッシングをかける作戦は、段々とスタンダードになりつつある。

いやいや、でも、スパーズは3-4-2-1やんけと。この場合はドルトムントのサイドバックに時間とスペースが与えられる噛み合わせなんじゃないのかと。そんなふうに習ったぜ!という声が聞こえてくる気がする。そうだ、サイドバックをボール保持の逃げ場とすればいいんだと。しかし、そんなことは百も承知だったスパーズ。フォーメーションの噛み合わせによる差異をどうするかを見ていこう。

スパーズの答えはウイングバックの縦スライドだった。そして、縦スライドによって空いてしまう選手を3バックのカバーリングでどうにかする作戦だった。なお、このスパーズの守備の仕組みを逆用するドルトムントという準備された場面もあったが、今回は割愛する。たぶん、セカンドレグでこの仕組みをどうするかが鍵を握りそうな予感。

ちなみに、相手陣地からのプレッシングをガチで行うには、3バックをおすすめしている。その理由は、このスライドが可能になるからだ。グアルディオラ式のプレッシング(4-3-1-2)だと、相手のサイドバックにどうしても時間とスペースができてしまう。しかし、ポチェッティーノ式のプレッシング(3-4-1-2)だと、ウイングバックが縦スライドで相手を消しにかかれるというメリットがあるのだった。デメリットは言うまでもなく、自陣での同数を受け入れることとなるが、カバーリングでどうにかなる!という計算があるのだろう。

ドルトムント終わったやんけ!となりそうだが、ここからが本題だ。サッカーは相手との対話なので、次にドルトムントの出番となる。

スパーズのマークの受け渡しのルールは、ウイングバック(オーリエ)が相手のサイドバック(ディアロ)までプレッシングにいく→カバーリングをセンターバック(フォイス)が行うことになっている。しかし、サンチョとプリシッチを本当にスルーしていいのか?という迷いは、スパーズのウイングバックに頻繁に起きていた。特にサイドチェンジによって、時間とスペースをドルトムントのサイドバックに与えられたときは、前に出られない場面が多かった。

外の解決策がサイドチェンジからのピンどめだとすると、中の解決策は数的優位を利用したものだった。インサイドハーフの片方の選手がビルドアップの出口として顔をだすようになる。両者ともにボールプレーヤーな選手を配置しているドルトムントだったので、危険な香り(ボールを持ちすぎ)がしなかったわけではないが、ボール循環の方向に変化を与えることができていた。

いやいや、だったら、スパーズのセントラルハーフがドルトムントのインサイドハーフをマンマークで捕まえればいいじゃねえか!となる。ちょっと小難しい話をすると、ボールサイドはマンマークだが、ボールサイドでないエリアはカバーリングを意識した配置となる。そうしなければ、列を突破されると、カバーリングが間に合わないからだ。なので、ボールエリアの後方もマンツーマンはちょっと危ない。だから、マンマークはちょっとむずかしい。さらに、ドルトムントにはもうひとつのネタがあった。それがゲッツェのゼロトップだ。

ハリーとシッソコにはマークすべき対象が与えられた。よって、ビルドアップの出口となる片方のインサイドハーフを捕まえられる選手がいなくなる。なお、ゲッツェをスルーすれば、ゲッツェにボールが入る可能性が高まる配置を取れるゲッツェは優秀。というわけで、フォーメーションの噛み合わせの差異を色々な手法で乗り切ろうする両チームの会話だった。ただし、ケルトメールに失敗すると窮地に陥りそうなドルトムント。だが、相手陣地から執拗にプレッシングをかけるスパーズの狙いをはがしていたことは間違いのない事実だった。

ドルトムントのボールを運ばせない設計

さて、ドルトムントの華麗なボールを運ぶための配置について見てきたが、この試合でボールを保持した時間が長かったのはスパーズだった。その理由は、ドルトムントのプレッシングのルールにあった。

スパーズの陣地からはあまりボールを奪いに行かなかったドルトムント。さらに、中に人を集めまくることで、中と内のスペースを相手に使わせない作戦にでる。外は別に構わないと。ボールを持たされたスパーズの3バックが何かをできそうな気配はあまりなかった。オーリエへのサイドチェンジくらいだろうか。なお、セントラルハーフコンビも時間とスペースを味方に与えるようなプレー、具体的にはパスができなかったので、どん詰まりとなっていった。

しまいには、ウインクスとシッソコも相手のブロックの中に移動し、3バックに全てを任せてみるが、それでも難しい。よって、時間とスペースを生み出せそうなエリクセンが低い位置からボールを触ってどうにかする!というような展開へと試合は変化していった。

その他では、ドルトムントの左右のプレッシングの差異はなかなか興味深かった。プリシッチはフォイスまでプレッシングに行く場面が多かったが、サンチョがアルデルヴァイレルトまでプレッシングに行く場面は少なかった。おそらく、ドルトムントはスパーズのボール循環を左サイドに導きたかったのだろう。

ヴェルトンゲンとオーリエの攻撃力を比べれば、そのような計算になるのかもしれないし、ドルトムントのサイドバック事情にあったのかもしれない。ピスチェクの代わりに出場したハキミは良くも悪くも目立っていなかったので、サンチョと一緒に守らせるという意味合いがあったのかどうかは、監督に聞いてみないとわからない。なお、ヴェルトンゲンがサイドにいるためか、ドルトムントの困ったときのロングボールはヴェルトンゲンがいない方向に必ず蹴られていた。

ドルトムントの狙い

ボール保持をしっかりと準備することで、スパーズのプレッシングを回避する。ボール非保持では、スパーズにボールを持たせるように撤退して、中央のエリアを封鎖する。矛盾しているような局面の組み合わせだ。例えば、ボールを保持したいんだぜ!というチームは、ドルトムントのように自陣でもボールを持つが、相手にボールを持たせるような振る舞いはしない。では、ドルトムントの狙いは何だったか。

たぶん、トランジション機会の損失を狙ったのだろう。ボールを奪われなければ、トランジションは発生しない。そして、ボールを奪いにいかなくても、トランジションは発生しない。つまり、無駄なトランジションは発生させないという狙い。プレミアリーグといえば、強度の高いサッカーだ。この試合でもドルトムントの選手を吹き飛ばしまくっていたスパーズの面々。プレミアリーグのチームは、トランジションが大好物と言っても過言ではないだろう。ドルトムントもトランジションを代名詞としていたころが懐かしいが、この試合のドルトムントはトランジションの機会をなくすように試合を組み立てているように見えた。よって、局面の組み合わせが矛盾するようで、全く矛盾していないというか。

ポチェッティーノの修正

前半を振り返ると、ドルトムントの守備のスライドが間に合わないときは、中央のエリアにボールをいれることができていたスパーズ。さらに、その流れを加速させるために、システムを3-1-4-2に変更した。

ドルトムントの厄介な5枚に対して、5枚をぶつける作戦。ぶつけるといっても、視野外にいる人と、視野内にいる人と地味に別れていることが特徴だ。再評価の機運が高まっていそうな3-1-4-2への変更によってと言いたいが、スパーズの先制点はドルトムントのビルドアップミスから生まれている。あれだけ避けていたトランジションから失点してしまうのだから、非常に切ない。ただし、フォーメーションの変化や序盤のセンターバックの運ぶドリブルなど、前半の課題を後半に修正してきた気配を感じることはわずかだけ感じることはできた。もう少しだけスコアレスの時間を眺めたかったのは部外者の贅沢になるだろう。

スコアの変化

スコアの変化はピッチにも大きな影響を与えることがある。というわけで、無理をする必要がなくなったスパーズは、ウイングバックの縦スライドを相手陣地に限定。フォーメーションを変更していることもあって、ドルトムントのボール保持に対して、5-3-2で対抗するように変化していった。

ボールを保持する時間が増えていったドルトムントだが、ゼロトップに対する超える動きをする選手がいなかった。例えば、トッティに対するペロッティ、メッシに対するビジャとペドロみたいな。平たく言うと、後ろに移動するゲッツェの代わりに誰が前にいくの?というか裏に飛び出すの問題である。

ゆえに、ボールは持てるけれど、迫力がない、ゴール前に人がいない、というやるせない状況だった。そんなやるせない状況だったので、ボール保持からボールを奪われてトランジション!という場面も頻繁に出てくるようになる。

さらに、スパーズの3-1-4-2に対して、負けているからどうしようかと考えるドルトムント。実は前半からボールを追いかけ回したい雰囲気を選手から感じ取ることができていた。セカンドレグを考えると、放置でもいい気がするのだが、前からボールを奪いに行くように変化していくドルトムント。負けているから当たり前なのかもしれないけれど。

そうなると、ロリスからのサイドバックへロングボールでプレッシング回避という、どのチームでも見られるおなじみの景色が出てくる。ここでえぐかったのがヴェルトンゲン。サイドに空中戦の強い選手がいるのずるい。さらに、サイドへのロングボールからのマイボールなので、地味にトランジション風味、擬似的カウンターというべきか、つまり、ドルトムントのプレッシングの配置が準備万端でない状況で攻撃をすることができたスパーズ。

というわけで、後半は完全にスパーズのペースで試合が進んでいった。その要因はスコアの変化によるドルトムントの振る舞い(相手陣地からのプレッシング)と、後半の頭からのスパーズのフォーメーション変化と守備のルールの修正と、スコアの変化による局面の変化(ドルトムントがボールを保持する時間が増えた)などなどが挙げられるだろう。

スパーズの定位置攻撃で興味深かったことは、ウイングバックにボールが入ったときに、ウイングバックの縦に走り抜けていく選手が、基本はエリクセンくらいだったのだけど、この配置だと、インサイドハーフもトップの選手もこの動きを頻繁にするようになる。さらに、インサイドハーフが走り抜けていく→空いたエリアでトップの選手がボールを受ける場面は、コンテ式の3-1-4-2のリスペクトのような場面だった。

そんな試合の追加点は、トランジションからのクロスを大外からのヴェルトンゲン。最後にはこの試合で何度も繰り返されたニアの選手を動かしてからのニアからジョレンテで3-0でスパーズの勝利。3点差はえぐい。どうなるドルトムント。

独り言

スコアレスの状態をもう少し見たかった。それにしても、ダビンソン・サンチェスのフィジカル無双とボールを持ったときに何もしない感は面白かった。たぶん、この試合で最もボールに触り、パスをしたのは、ダビンソン・サンチェスな気がする。

ドルトムントは後半の頭という気をつけなければいけないときに、安易なプレーでボールを失って失点というやってはいけないをやってはいけないと言いたくなるような場面だった。ただ、ゲッツェのゼロトップの良いところと良くないところのバランスとか、トランジションのほうがスパーズを苦しめていた後半とかを見ていると、負傷の選手がいなければ、けっこう強そうな予感を受けた。できることなら、セカンドレグはベストメンバーに近い形で臨めればいいなと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました