マンチェスター・ダービーはスコアレスドローで終わりました。順位表を見ると、お互いにポジティブなことを言えそうな結果です。相手に勝ち点3を与えなくてよかった!みたいな。もちろん、ホームで試合をしたマンチェスター・ユナイテッドからすれば、できれば勝利が欲しかったでしょうが、最低限の結果ってやつは手に入れたのではないでしょうか。そんなチャンピオンズ・リーグで戦う両チームの対決です。
スコアレスドローといえば、得点が生まれなかったという点において、退屈な印象を与えがちです。しかし、両チームともに持てる力をだしきった結果のスコアレスドロー、という試合でした。そんな試合を両者の狙いを踏まえながら、整理していきます。
■人かスペースか
前半はマンチェスター・ユナイテッドがボールを保持する時間が長く、マンチェスター・シティが相手の攻撃を受け止めながら、ゴール前での得点機会を狙っていく展開でした。
マンチェスター・シティがボールを保持できなかった原因は、マンチェスター・ユナイテッドのプレッシングスタイルにあります。マンチェスター・ユナイテッドはハイプレッシングを実行しました。ルーニーが積極的にマンチェスター・シティの2枚のセンターバックにプレッシングをかけることで、マンチェスター・シティはボールを蹴っ飛ばす場面が目立ちました。無理矢理に繋ぐよりは、ボールを失うリスクを考えた決断だったと思います。
マンチェスター・ユナイテッドがボールを保持できた原因は、マンチェスター・シティの守備方法にあります。マンチェスター・ユナイテッドはシュナイデルラン、もしくはシュバインシュタイガーをセンターバック付近に落とす形で、ビルドアップを始めていきました。相手がボールを保持しているときのマンチェスター・シティの形は、ヤヤ・トゥレを前にだした4-4-2なので、安定してボールを保持するためには枚数を揃えるのが手っ取り早いです。このシステム変化に対して、マンチェスター・シティはプレッシングをかけるのではなく、持ち場を離れないことで対応しました。よって、マンチェスター・ユナイテッドはボールを持つ時間を得ることができていました。
ちなみに、マンチェスター・シティもフェルナンド、またはフェルナンジーニョがセンターバックのエリアに落ちるプレーを何度か行いました。そのときのマンチェスター・ユナイテッドの対応はエレーラがフェルナンドコンビについていって、そのままプレッシングをかけていました。
こうした動きからマンチェスター・ユナイテッドからすれば、マンチェスター・シティにボールを持たせたくなく、自分たちがボールを持ちたいという狙いが見えてきます。ハイプレッシング、相手のビルドアップシステム変更への対応、そして、シュナイデルランたちをビルドアップ隊に加える方法。ホームでの戦いだったので、自分たちでボールを保持して試合の主導権を握りたかったのでしょう。
マンチェスター・ユナイテッドの攻撃に珍しく効率的に、マンチェスター・シティは対応していきます。マンチェスター・シティの守備の形は、4-4-2。相手のスタートが3枚なので、無闇にプレッシングに行きません。ゆっくりと相手のパスコースを制限しながらヤヤ・トゥレとボニーが迫っていきます。特徴として、2列目の選手は自分のマークを優先して、前に出てきません。相手の3枚に対して中途半端に枚数を揃えると、発生するマークのずれからドミノ倒しのように崩されていくことがあります。マンチェスター・シティからすれば、その状況は避けたい。なので、ひたすらに持ち場、または自分のマークすべき相手から離れないようにマンチェスター・シティは守備を行いました。
この守備に対して、マンチェスター・ユナイテッドが苦しみます。後方は時間とスペースはあるけれど、自分たちが攻撃を繋ぐべき選手たちはマンチェスター・シティの選手たちに捕まっています。空いているエリアはサイドくらいだったので、序盤戦はバレンシアの攻撃参加が目立ちました。しかし、マンチェスター・シティのサイドハーフは守備をサボりませんでしたし、高速のカバーリングを見せるのはフェルナンドコンビです。
つまり、マンチェスター・シティの狙いは3枚のビルドアップ隊から出たボールを奪いどころとして設定していました。そのために、いつもはのっそりしている印象の強いヤヤ・トゥレもやる気満々で守備に奔走していました。恐らく、マンチェスター・シティもマンチェスター・ユナイテッドの攻撃に対してしっかり準備をし、ボールを保持しなくても大丈夫だというプランだったのでしょう。
このマンチェスター・シティの守備で大事なことはゾーン・ディフェンスのようで、マンマークにも見えるということです。ライン間でボールを受ける技術が発見されてから、自分のプレーエリアを離れてプレーする選手への対応策がマンマークになりつつあります。人かスペースか、どちらを見るべきかはむろん状況によるのですが、その状況がどんどん整理されてきている昨今です。マタ、エレーラと、いわゆるライン間でボールを受けることが得意な選手たちも、マンチェスター・シティの選手たちにしっかり捕まってしまっていました。こうなると、ポジショニングで勝負することは難しくなります。
勇気を持って人について行くこと、その場面を見逃さないことが必修になりつつある、ということは、マンチェスター・ユナイテッドについても同じことがいえます。マンチェスター・シティのスペシャルな選手たちに対して、マンチェスター・ユナイテッドは簡単に時間とスペースを与えない、人への意識の強い守備を見せます。それでも、個の能力でときどきどうにかしてしまうマンチェスター・シティの面々の恐ろしさが前半のマンチェスター・ユナイテッドのゴール前に迫ることができた要因になります。ここにシルバとアグエロもいたらと考えると、恐ろしい限りです。
もちろん、持ち場を離れすぎるのはよくないのですが、相手を自由にするほうが良くない、という考えが広まりつつあります。自分のプレーエリアから離れる選手に対して、どのように守備で対抗しているかを見比べてみるのは面白いかもしれません。マンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティは人を捕まえることで、両者の攻撃の精度を落とすことに成功していました。マンチェスター・ユナイテッド側で何かを起こせそうな、というかドリブルばかりだったマーシャルは片鱗こそ見せたものの、この試合では決定的な仕事をすることはできませんでした。アシスト未遂はありましたが。
■ペジェグリーニが采配をふるう
ボールを保持する、という目標は達成できたけれど、どちらかというと、相手のほうがシュート数などが多い。そんな前半戦を過ごしたマンチェスター・ユナイテッド。後半は腹をくくります。センターバック、またはビルドアップで後方エリアに落ちた選手の運ぶドリブルの回数が前半に比べるとかなり増えました。パスコースを制限してボールを持たせるマンチェスター・シティの守備に対して、ボールを運ぶことで守備の基準点を狂わせる作戦です。マンチェスター・シティはぎりぎりまでの我慢をしながら、どこかで運ぶドリブルに対応する必要があります。
次に狙ったのがデ・ブライネ。たまに戻りません。よって、シュバインシュタイガーがサイドバックのエリアに移動、サイドバックの位置を上げ、数の論理でサニャサイドから攻撃を仕掛けていきます。ライン間でボールを受ける動きが自分のプレーエリアから離れてプレーすることで、相手の守備の基準点を狂わせることだとすると、シュバインシュタイガーがサイドバックのエリアでプレーすることも発想は同じになります。この動きにマンチェスター・シティは対応できずにエレーラにフィニッシュまで持ち込まれます。
さらにマタも動きます。コラロフがついてくるのですが、さすがにどこまでもついてきません。セルタだったらついてきますが、セルタではありません。よって、そのついてこないエリアを見極め、マタはさらに広範囲に動きまわります。コラロフが誰かにマークを受け渡せば良いのですが、マンマーク気味だとそれも難しくなります。こうしてフリーになったマタ、運ぶドリブル、シュバインシュタイガーのポジショニングで、マンチェスター・シティの守備の狙いを外していくことに成功します。
風が吹けば桶屋が儲かるではないですが、このように相手の狙いが乱れると、通常のプレーもうまくいくものです。マンチェスター・シティは状況をなんとかしようと個々が対応しますが、そういった動きはイレギュラーなものになるわけで、それは自分たちの呼吸を乱すことにも繋がります。よって、マンチェスター・ユナイテッドはライン間でボールを受けられる場面もでき、後半は自分たちのペースで試合をすすめることに成功しました。
ペジェグリーニが最初に動きます。スターリング→ヘスス・ナバス。デ・ブライネの位置にヘスス・ナバス、スターリングの位置にデ・ブライネ。ヘスス・ナバスが守備固めで登場します。ヘスス・ナバスならポジショニングを下げてもカウンターで走れる、またはサイドバックへのパスコースを制限しながらシュバインシュタイガーまで寄せきれるという判断でしょう。そんなペジェグリーニの期待通りにヘスス・ナバスは守備で貢献していきます。
ファン・ハールも動きます。マタ→リンガード。そして、シュバインシュタイガー→フェライニ。両方ともに役目は終わった交代でした。フェライニが前、エレーラが後ろ気味。シュバインシュタイガーの攻撃は抑えたものの、マンチェスター・シティは攻撃の時間がほとんどなく、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃を耐え忍ぶ展開となっていました。ヤヤ・トゥレが頑張るものの、ボニーと息が合わずという場面が何度も観られます。
そして、ヤヤ・トゥレ→デミチェリス。バイエルン時代に観たことありますが、デミチェリスがアンカー、フェルナンドコンビがインサイドハーフという形に変化します。この変化がばっちりハマりました。デミチェリスがセンターバックの前に位置することで、マンチェスター・ユナイテッドはプレッシングがはまらなくなります。2人でいったらデミチェリスがフリーになる。よって、マンチェスター・シティはようやくセンターバックが時間を得られるようになり、自分たちでボールを保持する時間が作れるようになっていきます。
恐らく、あのままの状況が続いていると、マンチェスター・ユナイテッドの猛攻を最後の最後で凌ぎきれずになっていた可能性は高いです。しかし、攻撃で時間が作れるようになってできた余裕はマンチェスター・シティを攻守に助けます。試合の流れもようやくニュートラルに戻っていき、お互いが攻撃を仕掛けながらも最後はハートがセービングで試合をスコアレスドローに導きました。こうして、マンチェスター・シティは首位を維持。マンチェスター・ユナイテッドは首位争いにしっかりと参加できることを示した試合となりました。
■気になった選手
アントニー・マーシャル。噂の選手を初めて観た。ドリブルしかしないと思ったら、急にアシスト未遂。海外の若手を見ると感じるが、失敗しても気にしない。そのそぶりは見せるけど、何度も果敢にチャレンジする。そういった諦めない姿勢があのドリブル力に繋がっているのだろうと実感する。たぶん、とてつもない選手になりそうな予感。
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